王都の勇者たちとダンジョンへ②
「ここが挑むダンジョンか………」
準備が終わるとマオたちは挑戦するダンジョンへと移動する。
そこには、マオから見てそれなりの実力者が多くいる。
これだけの数の冒険者がいるなら確実に、このダンジョンを潰せるはずだ。
それなのに破壊されていないことに危険なダンジョンだと理解できる。
「ここにいる者たちは全員のこのダンジョンを破壊しにきたのか?」
「そうよ。誰が破壊するのかは完全に早いもの順。ダンジョンに挑んでいる途中に破壊されたときに逃げるために転移するための道具もあるから無くさないでよ」
そう言ってリュミは転移をするための道具を渡してくる。
王都の冒険者なのに破壊することが出来ないのかとマオは疑問に思う。
「これだけの数がいるのに破壊できないのか?」
「………そうよ。王都の冒険者と言ってもピンからキリまであるし、それに単純な実力だけじゃ破壊するのも難しいのよ」
そういえば資料にはかなりの数のトラップがあると書いてあった。
それでも、トラップ専門の冒険者もいるはずだ。
「それに毎日のようにモンスターがダンジョンの外に出てくるけど、モンスター自体の実力は弱いから徹夜をしても一人で何とかできるし他のダンジョンのほうが優先度が高くなるのよ」
そういうものなのかとマオは納得しようとする。
それなら他のダンジョンはもう破壊し終わったのか確認する。
「えぇ。他のダンジョンは破壊し終わったわ。あとはここだけ」
なら放置していた分だけダンジョンは成長してしまったのかもしれないとマオは考える。
しかもモンスターが強くなるという単純な部分ではなくダンジョンの中身が危険なトラップばかりなものに。
「中にいるモンスターは強いんだっけ?」
「奥にいるモンスターの数体だけのようですね。あとは雑魚ばかりのはずよ」
マオはその言葉を聞いて本当に自分は必要なのかと疑問に思う。
戦闘能力には自信はあるがトラップの解除などは専門家よりは劣っている。
他の者に協力を求めたほうが良いんじゃないかと思う。
「戦闘能力ならともかくトラップ解除なら俺じゃなくても良いだろ?なんで俺を求めたんだ?」
「念の為よ」
念の為と言われてもマオは疑問に思う。
これだけの数がいるのだ。
中にはトラップ解除を冒険者がいても不思議ではない。
「とりあえず挑むわよ」
なにか隠しているのかとマオは怪しく思うが黙って受け入れる。
もし騙されていたとしても脱出できる自信はある。
だからダンジョンのトラップだけでなくリュミたちにも警戒しながらダンジョンへと挑んでいった。
「またか………」
ダンジョンの中へと入ると早速トラップにぶつかる。
更に進んでいくと数えるのも億劫になるぐらいのトラップが隠れている。
「モンスターも厄介すぎる」
更にモンスターたちもダンジョンのトラップに引っ掛けるために自滅覚悟で襲ってくる。
それがかなり厄介だった。
なにせトラップの多くが致死性の高いモノばかりなのだ。
引っ掛からないように注意しないといけないし、数少ない致死性の低い罠も少しずつだが動きに悪影響を与えるものが多い。
動きが鈍くなったとこにモンスターが襲ってきたり、トラップに気づかずに引っかかってしまったら終わりだ。
何が何でも引っ掛けてやるという医師を感じてしまう。
「本当に事前に調べてくれて有り難い………」
「当然のことよ」
まだ使っていないがリュミたちが準備してくれた薬のおかげで麻痺や毒の回復ができる。
おかげで、ある程度気を楽にして行動することができる。
「それにこちらこそ礼を言いたいわ。まさかトラップに引っかかる前に引き止めてくれたりフォローを入れてくれるなんて。戦闘能力だけじゃなくてトラップに対する知識もあるなんて」
リュミもまたマオの能力に感心していた。
予定では既にいくつか使っているはずなのに、未だ一つも回復役を使っていない。
戦闘能力だけでなく他にも有能な部分があるとわかると更にパーティとして欲しくなる。
王都にいる間にパーティに引き込んで見せると決意する。
「普段はソロで挑んでいるからな。いろんなことが出来ないと死んでしまうし」
マオの言葉に危険度が高いのならソロで挑むのはやめれば良いのにとリュミたちは思う。
自分たちとパーティを組んだらソロで挑むのは禁止にしなくてはいけないと考えていた。
「つかれた………」
「ほんとにね………」
「モンスターも多いし、トラップも多い。少し休みたいわね」
リュミたちはモンスターとトラップの多さに疲弊をしてしまっている。
そのことにマオは体力が無いと苦笑する。
正直に言って街にいるキリカやカイルのほうが体力がある。
「なら休めば良い。少しぐらいなら見張ってやる」
「………お願いします」
リュミが最初に言葉に甘えて地面に座る。
精神的に疲れているせいか汚れるのも気にしていない。
「お前………。はぁ……」
リュミの行動にテブリスはため息を吐くが自分も座り込んでしまう。
精神的にも体力的にも疲れているせいで休みたかった。
休めるうちに休んで、代わりにマオが疲れてたら自分たちが見張ろうと自分に言い訳する。
「テブリス………」
そしてテブリスも座り込んだことに他のパーティの皆も座りこむ。
自分以外の全員が休んだことにマオは絶対にこいつらとはパーティを組まないことを決意する。
別に休んでいることは良い。
自分から言ったことだし、休憩しているのは構わない。
だが全員が疲れ切った様子でいるのが問題だった。
なにせマオはまだまだ体力が余っているのだ。
これでパーティを組んだとしてもマオからすれば少し進むだけで休む羽目になってしまう。
まだまだ体力が余っているのに頻繁に休むのは無駄だしか思えない。
それに戦闘能力も低い。
王都の冒険者でも数の差があっても自分には勝てなかった。
それがマオにとって不満だった。
きっと戦闘能力を除いて考えたら自分よりも優れた存在はいるのだろう。
それでもダンジョンに挑む以上、パーティを組みたいのなら最低限自分と戦える実力者じゃないとマオは嫌だった。
そうでもしないと足手まといにしかならないとマオは考える。
他にもこいつらは相手の話を聞こうとしないからパーティを組みたくない。
もともとは無理やり王都に連れてこられたのだ。
拒否をしたのに強引に連れていく態度。
自分の自由な時間を邪魔されそうで絶対に嫌だった。
「はぁ………」
結界は貼らない。
それなりに頑丈な結界を張ってモンスターを防げるのを知れば更にパーティの勧誘がひどくなる。
そうなるぐらいになら見張って警戒していたほうがはるかにマシだ。
「マオ!そろそろ交代しないか?ずっと見張っているのも疲れるだろ?」
「回復したのなら進むぞー。腹が減ったら食べるために休憩するから今は必要ない」
「えっ、でも」
「必要ない。それよりも進むぞ」
「………わかった」
交代するという言葉にマオは否定してダンジョンを進むことを提案する。
マオからすればまだまだ余裕があるから休むほどではない。
それを察してかリュミたちも頷く。
「それじゃあ再開だな」
同時にリュミたちはマオが本当は無理しているんじゃないかと不安にもなる。
まだ知り合って一日二日程度だから気づかないだけかもしれない。
自分たちの目でも疲れているように見えたら取り繕う余裕が無いほどのはずだ。
だからリュミたちはマオが目に見えて疲れてきたら休ませることに決めた。
「えっとマオは本当に大丈夫ですか?」
「当然」
アズは自分たちが休んでいる間も全く休まず見張ってくれたマオを心配して近寄る。
他のパーティの皆も当然気にしているが、一番心配しているのがアズだった。
「わかっていると思いますけど疲労で倒れたらパーティを組んでいる私達が困りますからね?迷惑を掛けたくないと思っているのなら休んでください」
「わかっている」
今はソロでなくパーティで挑んでいるのだから当然だと頷くマオ。
ソロならともかく今は他の者達もいるのだ。
自分ひとりのせいで多くの者に迷惑を掛けてしまうのは嫌だった。
「それよりもお前も少しは色々と警戒しろ」
「へっ。キャア!」
マオは話していたアズを自分の胸に抱き寄せる。
その行動にアズは顔を真っ赤にして混乱してしまう。
なんで抱きしめられたのか問いただすことも強引に引き離すことも出来ないでいた。
「アズ」
その腕でマオの体の感触や匂いを味わう。
ふざけて女同士で抱きついたりした感触よりガッシリした感触と女とは違う匂い。
あまりの違いに女同士での思い出との比較に離れるのも意識から消えてしまう。
「アズ?」
自分を呼び声が煩わしく感じてしまい不機嫌になってしまう。
今はマオの体の感触を味わうのに忙しいからあとにしてほかった。
「いい加減に離れろ」
「あだっ!?」
だから頭を叩かれてひどい痛みが走る。
全く想定してなかった痛みが奔ったせいだ。
「正気に戻ったか?」
「へ?………ちょっ!?」
そして続けられた言葉にアズは顔を赤くしてマオから離れようとした。
だがマオは抱きしめたまま離そうとしないせいで逃げることが出来ない。
離してくれないことにアズだけでなく他のパーティの皆も困惑していた。
「離しても良いけど、急いで距離を取ろうとするなよ?そのせいでトラップに引っかかったら笑えないからな?」
「え………。はい」
離してくれない理由を聞いてアズは理解する。
そして抱きしめられて状況に、まずは慣れる。
距離を取ろうとしてトラップに引っかかったら自分でも笑えなかった。
そしてマオも離してくれたことに少しだけ残念に思いながら落ち着いて距離を取った。
「ごめんなさい。助かったわ」
気にしなくて良いと返すマオ。
自分の不注意でトラップに引っ掛かりそうになったアズ。
だけど同時にまた抱きしめられるのなら引っかかるのも良いかもしれないと考えてしまう。
そして、それはダメだと頭を振って追い払う。
アズの珍しい行動にリュミたちはニヤニヤとした笑みを浮かべる。
離れたときの残念そうな表情といい、抱きしめられたときの嬉しそうな顔といい惚れたんだと察していた。
そこまでいかなくても意識はしているのだろうと予想している。
ちょろいとは思うがリュミたちはアズがマオに惚れたのなら本気で応援するつもりだ。
キリカと恋人同士らしいが奪ってしまえば良い。
そうすればマオは恋人同士だということで自分たちと同じパーティになるかもしれない。
「アズ」
「どうしましたか?」
「マオを奪いたいなら全力で応援するわよ」
「何を言っているんですか!?彼はキリカと恋人なんですよ!?」
リュミの言葉にも、それに頷いているパーティの皆にもアズは否定の声を上げる。
少し意識している程度なのに他人の恋人を奪うなんてしたくない。
そもそもキリカとは顔見知りなのに奪ってしまったら気まずいなんてものじゃない。
だからアズからすればマオを奪うつもりは全くなかった。
「………」
そしてマオはリュミたちの会話を聞いていてため息を吐きそうになる。
そういう話は隠れてやって欲しいと思うし、そもそもマオはキリカを裏切るつもりは全く無い。
だから無駄な計画はたてないでほしかった。
それに恋人を裏切らせようとする相手とパーティを組ませようとすること自体がマオにとっても気に食わない。
マオからすれば更にパーティを組む気は失せてしまっていた。




