王都の勇者たちと⑤
「初めまして。今回は特別に授業をすることになったマオです。勇者ではありませんが今日はよろしく」
「「「「「「「……おねがいします」」」」」」」
授業を始めることになり、マオの挨拶に見習い勇者たちは見下したような眼を向ける。
勇者でもないのに教わることがあるのかと考えているせいだ。
そんな見習い勇者たちを見てリュミたちは顔を赤くして恥ずかしくなる。
ちなみにマオがパンを上げた見習い勇者もおり、彼はマオを見て怯えていた。
「実力差をわからせた方が良いか」
「は…………え?」
マオの言葉に勇者じゃないくせに何を言っているんだと思い、そして一瞬後に頭を机に押し付けてしまう。
原因はマオがプレッシャーを与えたせいで本能的に怯えているせいだ。
「一応言っておくが勇者はダンジョンを破壊できるだけだ。ダンジョンを破壊できないだけで、お前らより強い奴らなんて星の数ほどいる。俺もその一人だがな」
舐めて話を聞かないのなら実力差というものをわからせてやれば良いと考えてマオはプレッシャーを放った。
それでも実力差を理解できないのなら勇者として大成できないだろうなと思う。
相手の実力を認めることができない奴は自らの実力も伸ばせない。
「そもそも勇者の中にはダンジョンではほとんどを仲間に任せて、最終的にダンジョンのコアの破壊しかできない奴もいるしな。もしかしたらお前らもそうなるんじゃないか。なぁ?」
見習い勇者たちはマオの言葉に否定をしたいがプレッシャーに潰されているせいで言葉を放つこともできない。
何度も頭を持ち上げようとして潰されてしまう。
しかも最後に更にプレッシャーを跳ね上げられてしまう。
「まぁ、そんなことは今はどうでも良いか」
そして急にプレッシャーから解放されて崩れ落ちる。
「外に出て実際にどれだけ強いのか経験させてやるよ」
その言葉に全員が従って教会の外に出ようとする。
マオとの実力差に本能的に従ってしまい、拒否しようという考えが浮かんでこなかった。
それはリュミたちも同じで何も考えずに従ってしまう。
「大丈夫ですか!?」
だが途中でプレッシャーが襲ってきたことに何が原因かわからず発生源であるマオのもとへと神父やシスターが集まってくる。
もしかしたら襲撃かもしれないと考えて警戒している。
「……………あれ?」
だが中に入ると話に聞いていたマオとリュミたちがいる。
リュミたちはこの教会で鍛えていたから実力は知っているし、マオも話に聞いているから信頼できる。
もしかしたら既に対処しているのかもしれないと予想して安堵した。
「先ほどのプレッシャーですか?」
「えぇ。かなりの実力者が襲ってきたのだと思いましたが大丈夫でたか?」
「あぁ、あれは勇者出ないのなら見下すようですから実力差を理解させてみただけです」
「…………なるほど」
そういうことなら、しょうがないと集まった神父たちも納得する。
自分たち勇者が特別だからといってなんでも優れていると勘違いしているのは彼らも頭を悩ませていた。
「ちなみにこれは証拠」
そしてマオは再びプレッシャーを浴びせて自分が原因だと証拠を見せる。
そのせいで神父たちも地面に膝をついてしまったが実力は確かだと信頼させることは出来た。
「………俺たちの受け持ちにも一緒に受けさせて貰って良いか?」
「………………大丈夫です」
少し考えて神父たちはマオに更に鍛えてもらう相手を増やして良いかと確認する。
そしてマオも神父たちより考えてから頷く。
やることは変わらない。
ただ人数が増えただけだとマオは考えていた。
「さっきも自己紹介をしたけど人数が増えたので改めて自己紹介をします。俺の名前はマオだ。勇者じゃないが、この教会にいる全員に襲われても余裕で勝てる」
マオは自己紹介をしながら目の前にいる全員にプレッシャーを与える。
勇者じゃないくせに何を馬鹿なことを言っているんだと考えたが、それを否定させられる。
「今回は授業をしてほしいと言われて来た。どうもお前たちが勇者でない者たちを見下しているみたいだからな。お前らはあくまでもダンジョンを破壊することができるだけで、お前らより強い奴らはいることを教えてやる」
「「「「……………」」」」
マオの言いたいことは見習い勇者たちも理解できる。
勇者出なくとも自分たちより優れている者はいると、よく説教されているからだ。
だが、ここまでされると微妙な気持ちになる。
見習い勇者たちが顔を動かして神父やシスターを確認すると自分たちと同じように膝をついている。
正直、マオも自分たちと同じように特別な存在だとしか思えなかった。
「あんたは確かに勇者じゃないかもあしれないけど……!絶対に特別な存在だろうが!」
「一目見たとき、そう思わなかっただろ?中には実力を隠したり特定の分野では凄まじい実力を発揮するやつもいるからな。俺以外にも常にその可能性を考えて他人に接しろ」
「…………はい」
見習い勇者の反論に神父やシスターたちは否定することができない。
たしかに元勇者でもあり、それなりに経験を積んできたのに膝をつかせるほど強いプレッシャーを与えるのは特別な存在だとしか思えない。
正直、選択を間違えたのかもしれないと考えてしまった。
だが続けられたマオの答えに神父たちは安堵する。
マオの答えを聞いて見習い勇者たちは考え込むような表情をしている。
最初はマオも特別だとは思わず見下していたのだ。
それをついさっき経験したからか深く納得している。
「それにしても俺も特別か………」
そう思われてしまったら鼻っ柱を折ることができなくなる。
ボコボコにしても相手は特別だからと納得されてしまいそうだ。
それでは意味がない。
「しょうがないか………」
マオは鼻っ柱を折ることを条件にキリカとカイルの話を聞くはずだったが、それはもはや無理だと諦める。
リュミたちから聞いた話で我慢しようと考えた。
「あの………?」
「マオ………?」
ため息を吐いたマオに見習い勇者たちや神父、そしてリュミたちも心配して声をかけようとする。
だが、それと同時にプレッシャーから解放される。
「とりあえず全員挑んで来い。殺されることのない圧倒的な格上に全力で挑めるチャンスだぞ?全力で挑んで来い」
取り合えずといった様子でマオは見習い勇者たちに挑んで来いと挑発する。
マオからすれば昨日、コロシアムにいた者たちを全員叩き潰したよりは楽だ。
何せ相手は未熟な見習い勇者たち。
それなり以上の経験を積んできた冒険者たちよりは格下だろう。
「「「「「「「はい!!」」」」」」」」
そして見習い勇者たちはマオの言葉に従って全力で挑みに行く。
見習い勇者たちからすれば自分より格上の神父やシスターたちもプレッシャーで膝をつかせたのだ。
全力で挑まなければ相手にもならないと考えていた。
「そういえば彼の名前はマオだっけか?」
「はい。噂を聞いて王都に誘いました」
「そうか………」
どおりで強いわけだと神父たちは納得する。
マオという名前は神父たちもよく聞いている。
好んでソロで活動し、挑んできた相手の武器を奪って売り金にする男だと。
ちなみに見習い勇者たちは純粋に知らない者が多い。
どこかの街の情報よりは王都に流れている情報の方が多いし役に立つ話も多いから聞くこと自体が少ない。
それに聞いたとしても純粋に普段の訓練で疲れているのに真偽か定かでない噂を調べる気にもならないし、街よりも王都の方が平均的に実力は優れている。
だから王都の冒険者に比べれば弱いだろうと思っていた。
「やっていますね」
「マザー!!?」
そしてマオに挑んでいる見習い勇者たちを見ながらマザーも近づいてくる。
神父たちやリュミたちも頭を下げようとするが必要ないと手で止められる。
「勇者でないから見下した相手が実は特別な相手だと理解させられましたし。今後は勇者出ないからと見下すことはないでしょう」
「…………そうですね」
マザーもマオを特別な存在だと認識していることに神父たちは驚くが納得はする。
正直、過去の話とはいえ勇者として活動し経験を積んできた自分たちでさえプレッシャー一つで膝をつかせるのだ。
しかも現役のリュミたちも同じように膝をつかせている。
「終わったら約束通りにキリカとカイルの話をしてあげましょう」
「え?」
なぜそこで双子の勇者の名前が出てくるのか神父たちは困惑する。
正直、卒業しても二人のことははっきりと覚えている。
良くも悪くも仲間を奪われ常にパーティが変わる勇者たち。
いくら調べても呪われていないし、前世でどれだけ悪いことをしたのかとも疑っていた。
「どうやら彼は二人と親しいようですからね。それにキリカとは恋人らしいですし」
「は?」
見習い勇者たちを相手取るマオに視線を向ける神父たち。
男たちはニヤニヤとした笑みを浮かべ、女性たちは目を輝かせる。
まさかの恋人だという情報に色々と聞きたかった。
「なるほど………。仲が良いからからかうために聞くんじゃなくて、恋人をからかいたいから話を聞きたかったのか。だとするとカイルは完全についでだな」
その言葉に深く頷く神父たち。
面白そうだから自分たちもマオに二人の話をしてあげようと考えている。
「マザー。あの双子のことを話すなら私たちも一緒に参加してよいですか?私たちも教えてあげたいのですが!?」
「良いでしょう。ついでに普段どのようにキリカと一緒にいるのか聞きたいですし」
「俺たちも参加させて下さい。かっての一緒に学んだ仲間の話を聞きたいですし」
テブリスの言葉にリュミたちのパーティも頷く。
懐かしい話を聞いてキリカたちをからかおうと考えているからだ。
それに恩師からの評価も聞きたかった。
「そうですね。今日は時間がありますか?夕食を食べながら話しませんか?」
「大丈夫です。あと他にも個人的に相談に乗って貰って良いですか?」
「私は構いませんよ。ほかの皆は?」
自分たちも構わないと神父たちも頷く。
卒業して勇者として活動している者たちが相談したいと言われて嬉しくなる。
かつての先輩として頼られるのは嬉しくなり、なんでも答えてあげようという気分になっていた。




