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洗脳と病み③

「着いたわね……」


「あぁ、後は中に入るだけだ……」


 マオたちは翌日、朝食を食べ終わると早速教会へと出発した。

 そして教会へとたどり着くとキリカとカイルの二人は気合を入れる。

 恩師とは苦手な相手だ。

 覚悟もせずに会うのはキツイ。


「すいません。シスターはいますか?」


 そして、それらを無視してマオは教会へと入る。

 何度も息を吸っては吐いてを繰り返しているのを見ていたが全く中に入ろうとしない様子に焦れたのもあるし、このままではずっと中に入れないだろうと思ったのもある。

 だからマオは自分から動いて行った。


「いますよ。約束通りに来ましたね。それと………」


 中に入るとシスターが迎え入れてくれた。

 そして、かつての教え子に視線を向ける。


「久しぶりですね二人とも。なかなか会いに来ないから寂しかったですよ?」


 シスターはかつての教え子がなかなか会いに来てくれなかったことに寂しさを覚えていた。

 確かに自分の授業は厳しかったかもしれないが、それでも挨拶ぐらいには来てほしかったと思ってしまう。

 それでも会う機会は何度かあったが、ほとんどは偶然だ。


「あはは……」


「まぁ……」


 シスターの言葉に目を逸らす二人。

 二人からすれば避けていたから当然だ。

 だが、それを本人から言われるのは手厳しい。


「そんなことより洗脳の対策について話し合いましょうよ?」


「そうそう」


 そして二人は話を逸らそうと本題の内容を口にする。

 その行動の目的はシスターもマオもわかっていたが何も口に出さない。

 二人にとっても本題は優先すべきことだった。


「そうですね。では、こちらに付いてきてください。そこで話し合いましょう?」


 そしてシスターは三人を連れて教会の奥の部屋へと案内する。

 そこでなら誰にも話を聞かれないと考えたからだ。



「まず話し合いの内容ですが洗脳についてでよろしいですね?」


「はい。相手はテイクと言います」


「さて、どうやって確認しましょうか……」


 シスターはまだ洗脳されているかどうかの確認はしていない。

 マオの言葉だから信頼できるのもあるが、そもそも一目で洗脳されているかどうかわかる技能が無いのが原因だ。

 確認するには、どうしても目の前にいる必要がある。


「確認していないんですか?」


「私は貴方と違って一目で判断できるわけでは無いので。実際に近くで診ないと分かりません」


 ニッコリ笑って答えを返すシスターにマオはそんなものかと納得する。

 なら直接見せるしかないが、それなのに信じてくれたことに困惑していた。


「それでマオは夜に隙を見つけて攫うと言ってましたが、そうしますか?」


「それなんだけど夜に限定しても絶好の機会が来るとは限らないと思う。だから他の案も欲しい」


「なるほど」


 マオの言葉に確かにとシスターたちは頷く。

 夜の暗闇を利用するとはいえ、外に出るとは限らない。

 他の案も必要だ。


「そうですね。………なら私が教会の依頼としてダンジョンに挑んでもらいますか?そこで彼らが仲間たちと逸れている間に攫って確認するのはどうでしょうか?」


「私は彼らが泊っている部屋に顔を隠して襲撃して直接的に攫う方法も良いと思うわ。マオなら確実に成功させると思うもの」


「俺はそこまで考えなくてもマオならバレないように普通に攫えそうだとは思う。だって俺らでもマオの動きが追えないし、気付いたら近くにいるし」


 三者とも、それぞれが意見を出してくれる。

 その根拠はマオの実力さえあれば大丈夫だというものだが、少しくすぐったく感じて悪い気はしない。

 そしてマオは相談して良かったと考える。

 自分一人だけではここまで考えることも出来なかった。


「とりあえず私から依頼を出しましょう。そして上手くはぐれた隙に攫いませんか?」


「お願いします」


 取り敢えずはシスターが指名で依頼を出してダンジョンに挑んでもらうことにする。

 怪しまれるかもしれないが、この一件で攫うことが出来れば何も問題は無い。

 それに怪しまれても誤魔化せば良い。

 いくら怪しまれても証拠が無い限りどうとでも出来る。


「あとはそのダンジョンに挑んでいる彼らの後を後ろから追っていけば良い」


「それとはぐれた相手をさらうのはマオに任せる。俺たちより確実だろうし」


「わかった」


 攫うという肝心な部分を任されたがマオはしょうがないと納得する。

 自分の方が遥かに速いのだ。

 他の者に任せるよりは自信がある。


「次はマオの対策について話し合いますよ」


「ええ」


「はい」


 そして続けられた内容にマオは困惑した。

 だがキリカとカイルはシスターの言葉に当然のように頷いている。

 しかも先程の話し合いより真剣だ。


「は?」


「私たちは勇者だったから洗脳や魅了に耐性はあるけどマオはあくまでも違いますからね。もし洗脳されでもしたら大変なことになるわ」


 その言葉に深く頷く二人。

 マオが洗脳されてしまった時の被害を考えて顔を青くする。

 何度も挑んでいるからマオの強さは知っている。

 その実力で犯罪を積み重ねられたら誰も止められないだろうと考えていた。

 だから、どんな手を使ってもテイクだけは無力化しようと決意する。




「はぁ………。急になんなんだ?」


 テイクは急にシスターが仕事を依頼してきたことに困惑をしてしまう。

 この街に来たばかりで接点も無いのに急にダンジョンに挑んで、ある物を収穫してくれと頼まれてしまった。

 テイクは流されるままに頷いてしまった。


「明後日までにってことだから急ぎだったんじゃないか?」


 その言葉にテイクも頷く。

 慌てていて依頼を請けてくれるのなら誰でも良さそうだった。


「それじゃあ早速向かうか?今日はまだ依頼も請けていないし報酬も良い」


 報酬もまた良かった。

 成功した時にもらえる金額だけで一年は遊んで暮らせる金額だ。

 それだけ困っているのかもしれない。


「そうだな………。それじゃあ早速行こう」


 テイクたちは報酬の金額にダンジョンに挑むことに決める。

 だが一人だけ、この金額は払えるのか疑問に思っていた。


(たかがダンジョンに挑んで採取するだけでこれだけの金額?ありえない。それとも、それだけそのダンジョンが危険なのかしら?)


 もしそうなら、それを利用しようと考えている。

 それで仲間たちが皆死んでしまったら都合が良い。

 テイクの隣にいるのが自分だけになるのだ。

 もう洗脳はやめさせて、自分だけを見てもらおうと考えている。

 

 そして、そうでないのなら何かしらの罠である可能性がある。

 例えばテイクの洗脳がバレたせいで誰も洗脳させられない様に街から物理に距離を離されたとも考えられるし、洗脳に耐性が勇者たちで襲ってくる可能性が高い。

 実際に自分も含めて皆は洗脳されてしまっているのだ。

 その結果、テイクは犯罪者になって隣にいることが出来なくなる。

 それだけは嫌だった。


「このダンジョンはどんな危険があるのか調べてから行かない?」


 念の為にいつでも自分とテイクだけは逃げれるように準備をする。

 逃げるのに有用そうな煙幕といった煙が出る道具は買いたいと思っている。


「そうだな。ギルドに一度行って話を聞いて見よう」


「あっ。私は少し外すから。少し足りなくなった道具も補充したいし」


「わかった。それじゃあ買い終わったらギルドに来てくれ。それまえ話を聞いているから、戻ってきたらダンジョンに向かおう」


 テイクの言葉に全員が頷き、それぞれが行動していった。



「どうやらダンジョンにこのまま行くみたいね」


「というより早速一人はぐれたよな。彼女をさらおうぜ」


 カイルの言葉に頷いて動き出そうとした三人をマオは止める。

 アレだけはダメだった。


「アレは意味が無い。洗脳されているの自覚しているし、それでも近くにいることに幸運を感じている奴だ」


「…………マジで」


 確認されるてマオは頷く。

 幸運を感じているのかは知らないが洗脳されているのを自覚していて、それでも不満を覚えていないようにマオには見える。

 だから洗脳を解いても本当のことは言わないだろうとマオは判断する。


「なるほど。好きな相手だから洗脳されて不満は無いと……。まぁ、洗脳してでも隣にいて欲しいと思われているのも同然だしね……。そういう意味では幸福か………」


 自分以上に理解しているキリカにマオは驚きの視線を向ける。

 そしてカイルとシスターは顔を青くしてキリカを見る。


「キリカもマオに洗脳されたいのか………?」


 そして思わず口に出してしまった言葉にカイルは後悔し、シスターはカイルを睨む。

 それに対してキリカは嫋やかに笑い、マオはそれを見て洗脳した方が良いのかなと考えていた。


「そうだと言ったらどうする?」


「まぁ、将来的には洗脳じゃなくて呪いは互いに掛けた方が良いんじゃないか?」


「貴方ならそう言ってくれると信じていたわよ」


 マオは互いの浮気を防止するという意味で呪いを言葉にし、それを正確に受け取ったキリカは嬉しそうに笑う。

 キリカにとっては浮気をしないという証明にもなるし、独占欲を発揮されているということに嬉しさを覚えるからだ。


 そしてカイルとシスターは二人の会話に信じられない者を見る目を向けた。

 呪いを掛けると言っているのに、それをキリカとマオはそれを受け入れているからだ。


 何でそんな危険なことを互いにするのか理解が出来ない。

 そして理解できないからこそ、互いに同意しているのなら何も言わないから目の前で約束して欲しくないと思う。


「それじゃあ私たちは先に依頼したダンジョンへと向かう?」


「そうだな。二人もそれで良いか?」


 そして急に話を戻されてカイルとシスターに質問が飛んでくる。

 二人は急に質問にされて内容を聞かずに頷いてしまう。


「じゃあ行こう」


 マオの言葉にキリカは頷いて後を追い、シスターとカイルはようやく聞かれた内容を理解する。

 その時には既に二人は先に進んでおり、その後を急いで追った。

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