洗脳と病み②
「クソっ。何でパーティを組んでくれないんだ!」
テイクは自分達のパーティしかいない部屋で思いきり椅子を蹴り飛ばす。
その様子に周りの者たちは心配そうに駆け寄るがテイクはそれを振り払う。
「どうすればあいつとパーティを組めるんだ………」
街で調べて見てもマオは基本的にパーティを組まない。
特別なのはキリカとカイルの二人だけだ。
「そうと決まればキリカかカイルの二人と仲良くなってパーティを組むか?そうすればパーティを組める機会もあるはずだ。その時にマオを洗脳すれば最高の戦力が手に入る」
話に聞こえてきたマオの戦力があれば、どんなダンジョンでも挑むことが出来る。
絶対に手に入れたかった。
「まずは勇者を洗脳するか?………いやでも勇者だしな」
勇者はダンジョンを破壊できる特別な存在だからか洗脳や魅了といった精神に影響を与える者に対する耐性は普通の冒険者よりはるかに高い。
他の洗脳した皆で勇者の気を引きつけている間に洗脳する方が確実性がありそうだと考えていた。
「そのためにはまず勇者に信頼されないと……」
まずは勇者の二人と仲良くなることを方針に決めるテイク。
他の皆もテイクの決めたことならと否定することは無かった。
「………ふふっ」
その中でテイクに向けて笑う者が一人いた。
自分の思うがまま欲望のままに誰かを洗脳し従わせている姿に可愛らしく思っている。
しかも自分まで洗脳して来た姿に自分も求められているのだと考えることが出来て嬉しくなっている。
「どうしたんだ?」
「いえ別に?」
同じように洗脳されている者から心配されるが誤魔化す。
そして考える。
もし洗脳から解けたら、彼ら彼女たちはテイクをどうするのかを。
きっと一生許さないだろう。
意識を奪われ好きなように扱われ、自分だけの時間を奪われる。
自由意思を取り戻した瞬間に殺しに行くかもしれない。
もしくは苦しめるために殺すことはせずにずっと生かし続けるかもしれない。
どちらにせよ、それから助けることが出来れば自分に依存させることだ出来るかもしれないと考える。
そして依存させた後は縛り付けて監禁すれば自分の物にしようとさえ思っていた。
「楽しみね」
「マオが俺たちの仲間になることがか?」
その笑みを向けると、同意だと勘違いしたのか満面の笑みを浮かべて同じようにして洗脳された者。
その勘違いが好都合でまた深く笑みを浮かべていた。
「いやぁ、相変わらず助かるよマオ君。他の冒険者たちはこんな依頼請けてくれないからさ。それに君たちも。勇者だからダンジョンに挑むことが優先されるかもしれないけど、たまには依頼を請けてくれると嬉しいよ」
「はい………」
「余裕があれば………」
「こちらこそ、こんなにありがとうございます」
マオたちは依頼で農家の手伝いをしていた。
その時に本来の報酬とは別に美味しそうな野菜を頂き、マオ以外は恐縮する。
マオが何とも思っていないのは慣れてしまったからだ。
「別に良いよ。こんなアイテムをくれたんだし……。それの代金だと思えば良い。まぁ、それと比べたら金額ははるかに安いかもしれないが」
「そんなことは無いです!こんなに美味しそうで!」
農家の言葉にキリカは否定し、それにカイルとマオも頷く。
むしろ、これを貰えるのなら安い買い物なんじゃないかと思っていた。
「そんなことより、もう帰るのか?いつもは話を聞いてくれたり、子供の相手をしてくれたりするのに………」
「すいません。今日は久しぶりに他にやることがあって………」
農家の言葉にマオは仕事の他にも色々と手伝っているらしいことを二人は知って納得する。
自分達も野菜を貰ったが、これは依頼の内容の他にもいつも色々と手伝ってくれているマオへのお礼の方が比率は高い。
「そうか………。まぁ、忙しいだろうけど頑張ってくれ」
「そちらこそ。いつも美味しい野菜の為にありがとうございます」
今度はまた一緒にご飯を食べようと約束してマオたちは農家と別れる。
想像以上に仲が良い様子に双子の勇者たちは羨ましく思える。
自分達もマオと同じように街の者たちと仲良くしたい。
「ねぇマオ?」
「何だ?」
「今度から街の依頼を請けるときは私も一緒に誘って?」
キリカの言葉にカイルは俺もそうして欲しいと声を上げる。
それに対してマオは、そのぐらいなら問題ないだろう考える。
もともと誰でも請けれるように依頼を出しているのだ。
多少、増えても問題ないだろうとマオは思う。
「まぁ、良いよ。暇な時はできるだけ誘う様にする」
「っし!」
「本当!?」
カイルは握りこぶしを作り、キリカは満面の笑みで喜ぶ。
その二人の様子にマオはそんなに野菜を貰えて嬉しかったのかと想像する。
だが今回野菜を貰えたのは自分がいたからだとマオは理解している。
それを二人が理解していないとは思えない。
だからマオは違う理由で街の依頼を請けたいのだと考える。
もしかしたら普段から冒険者と関わっているから別の者たちとも関わりたいと思っているのかもしれない。
もしかしたらダンジョンに挑むのが基本で今回の依頼が新鮮だったからかもしれない。
だがマオとしてはどちらでも良かった。
「それよりも家に帰ったら料理を食べながら話し合おう」
それに洗脳してくるだろう相手の方が今は重要だった。
「それじゃあ食べながら話すぞ」
キリカとカイルの家に戻り貰った野菜を調理し終わって、ようやくシスターとの話し合いの内容を口にし始めるマオ。
二人は真剣に話を耳を傾ける。
「協力してくれることは話したな?」
そしてマオの確認に頷く。
あとは明日教会に行くことも話していた。
「そうだな。………話し合った結果だけど一日や二日で洗脳を仕掛けてくるとは思えない」
「それはそうね」
そんなことをしていたら直ぐにバレてしまう可能性が高い。
何せこの街に来て初日から様子がおかしくなるのだ。
怪しいと思われてしまう。
「だからと言って放置して手遅れになるのは危険だからな。できれば夜暗くなった瞬間に仲間の一人をさらって洗脳を解くなり話を聞こうと考えている」
「夜に?」
「夜に」
「それって………」
思いっ切り人攫いじゃないかとキリカ達は思う。
だが、それを実行することに少しだけ楽しみを覚える。
やっていることは犯罪かもしれないが内実は人助けだ。
普通なら犯罪で実行に移そうと思えない手段を出来ることにワクワクしている。
「あとは詳しい内容は教会でシスターと話し合うつもりだけだけど大丈夫か?」
「先約とかの話なら私は大丈夫よ」
「俺もだ。なら明日シスターの元へと行こう」
二人は大丈夫だと言うことにマオは安心する。
もしダメなら一人で行こうと考えていたから本気で助かっていた。
「はぁ………」
それにしてもとキリカはため息を吐く。
カイルも同じようにため息を吐いていて互いに目を合わせただけで何でため息を吐いたのかわかってしまう。
そしてマオは何で急に二人がため息を吐いたのか理解が出来ずに首を傾げる。
「シスターに顔を合わせるのか………」
「そんなことでため息を吐いたのか?恩師だと言っていたし別に大丈夫だと思うんだけど?」
「恩師なのは確かだけど、同時に苦手なんだよ………」
厳しい恩師だったからこそ苦手に思っていて顔を合わせづらい。
それはシスターがこの街の教会に住み始めてから一度もキリカ達は教会に行ったことが無いことからも明らかだった。
だから教会から出される依頼もシスターと会わないためにほとんど請けていない。
「そんなものか……」
恩師だと聞いていたから、むしろ会いたいんじゃないかとマオは考えていたが実際は違うことに驚いていた。
実際は真逆で恩師であっても苦手な者はいるんだなと思っていた。
「洗脳ですか………」
教会ではシスターはマオとの会話を思い出してため息を吐く。
他人を洗脳、もしくは魅了するのは犯罪だ。
それは使われた相手の自由意思を奪われ、その間に犯罪を犯されてしまうのが殆どだからだ。
使われて犯罪を犯された者は悪いのは自分じゃない洗脳してきた相手が悪いと叫ぶ者もいるが善人であればあるほど、後でそれを思い出して罪の意識に苛まれる。
その結果、心を病んでしまう者が多い。
「あと魅了の可能性もあるのですよね………」
洗脳や魅了といっても実際に掛けるには色々な手段がある。
魔法を使えば一瞬で済むが、解くことが出来れば一瞬で正気に戻れる。
だが魔法を使わないで洗脳を掛ける場合は長い時間が必要だし、解くのにも時間が掛かってしまう。
そういう意味では今回の件は直ぐに解除できるはずだ。
何故ならマオが一目見ただけで気付いたのだ。
魔法を使う場合は強引に認識を狂わせているから見る者が見ればすぐに気づくだろう。
「まぁ、どちらにしても目的はマオなんでしょうけど……」
そして洗脳が出来る以上、目的はマオだろうとシスターは予想する。
マオが強いという噂はかなり広まっている。
実際シスターも強いのにパーティを組まない、勇者とダンジョンに挑まないということでこの街に来た。
他にも腕試しをするために来る者も偶にいるぐらいだ。
それを洗脳して仲間にすることが出来れば、どれほどの戦力が手に入るか。
そう考えると魅力的だ。
「最優先すべきはマオね」
そして最も護るべきはマオだとシスターは考える。
自分たち勇者は世界から見て数は少ないが洗脳も魅了も耐性があり、かなり効きずらい。
だがマオは勇者ではないため洗脳や魅了が効く可能性がある。
そのせいで効いてしまったら誰も止められる者がいない。
少なくとも街の冒険者相手なら自分達勇者を含めても全員を余裕を持って相手どれる。
もしマオを使って犯罪を犯したら誰も止められる者はいないだろうとシスターは考えていた。
だから明日はマオが来たら確実に防ぐために色々と防御を張ろうと決意していた。
「明日からか……。どうしようか………」
マオは二人が寝ている間に実際にどうやってテイクから洗脳された被害者を引き離すか考えている。
夜の暗闇を利用すると言ったが、ダンジョンで目を離した隙に攫うという方法もある。
「夜だけだと限定されてしまうし、もし外に出ることが無かったらどれだけ準備をしても無駄なんだよな」
最悪はマオ自身が隙を見て強引に攫うことしか思いつかない。
正直夜だけじゃなくても昼でも見つからずに攫う自信はある。
明日は、それを提案しようかと考える。
「ねぇ、マオ?」
そうして悩んでいるとキリカが声を掛けてくる。
今日はマオはキリカとカイルの使っている部屋に泊っていた。
そしてキリカは寝ていたんじゃないかと考えていたからマオは声に出さずに驚く。
「声に出てたから悩むのは分かるけど、それを相談して話し合うために教会に行くのよね?なら明日にして今日は寝ましょうよ。一人で悩んでも何も決められないわ」
そう言ってマオのベッドへと入ってくるキリカ。
そして抱き着いてくる。
「ねぇ?マオもこの部屋に一緒に住まない?」
更に抱き着きながら提案する言葉にマオは少しだけ心が揺らいだ。
「キリカがマオの家に住むのは良いけど、それだけは止めろ!」
そしてマオが何を言いそうになる前にカイルが否定をする。
この部屋はキリカとカイルが二人で使っているのだ。
マオがこの部屋に住むようになってイチャイチャしている姿を常に見るようになったら不満と嫉妬と怒りと気まずさで顔が合わせづらくなる。
「お前も起きていたのか………」
キリカだけでなくカイルも起きていたことにマオは呆れてしまう。
しかも会話に入ってきたせいで完全に目が覚めてしまった。
「全く眠れる気がしない……」
「そう?目を瞑っていたら気付いたら眠っていることもあるわよ。取り敢えず私を抱き枕にしてあっ………」
「それもそうだな。色々と考えるのは明日にからだ………」
マオはキリカを抱き枕にして目を瞑る。
自分を抱き枕にして使って良いと口にしたのはキリカ本人だ。
だから遠慮なくマオはキリカを抱きしめる。
そして、それだけで悩んでいたことがどうでも良くなったことにマオは自分をチョロいと苦笑した。
抱きしめて柔らかさを感じ、良い匂いが鼻に伝わってリラックスが出来ていた。
そしてキリカはマオに抱きしめられてことが嬉しくて、そして恥ずかしさで顔を赤くする。
「ほんっとうに部屋では止めて欲しい…………」
それを見てカイルは二人のイチャイチャを見せつけられたせいで顔を引き攣らせる。
やっぱり姉の女の顔もマオとのイチャイチャも見ていてきつかった。
だから二人には背を向けて寝ようと考える。
そうすれば二人がイチャイチャする姿をこれ以上見ることはなかった。




