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洗脳と病み①

「うっわ」


「キャッ!?」


「うわっ!?」


 ギルドに入りマオはキリカとカイルの腕を掴んで自分に引き寄せた。

 突然の行動に二人はマオに視線を向けるが鋭い目をしている。

 その視線の先には最近この街に来た冒険者がいた。


「どうしたのよ?」


「二人とも絶対にあいつらには近づくな」


 それだけを言ってマオはギルドの受付へと歩いていく。

 その様子に詳しい説明がしてほしいが、この場ではしないのだろうなと二人は察する。

 マオが近づくなと言った当人も近くにいるし聞かれるかもしれないと考えるとしょうがないかと納得できる。

 だからマオと一緒の依頼を受けて、どうして警告をしたのか理由を聞きたかった。


「貴方がマオさんですか?」


「パーティなら組むつもりは無いから違う人にしろ」


「そう言わずに。あっ、僕の名前はテイクです。後悔はさせませんよ」


「すいません。この依頼を受けたいんですが?」


「聞いて!?」


「あの?」


 マオは話しかけてくる少年を無視しギルドの受付へと受ける依頼を提出する。

 その姿に笑顔で話し掛けてきたテイクも苛立ちを覚え、ギルドの受付は笑顔を作りながらも引き攣らせる。


「聞いて…………ひっ」


 そしてマオの肩に手を掛ける。

 その瞬間、マオに睨まれてテイクは尻もちをついて倒れてしまった。


「大丈夫!?」


「お前!?」


 テイクの周りにいた冒険者たちは、それを見て心配して駆け寄っていく。

 マオはそれを気色悪そうに見て、この場から去りたいと思う。


「マオ。それ私も一緒に受けて良いわよね?」


「俺も」


「……………構わないけど」


「は?」


 テイクは自分はダメで何でこの二人は良いのかと睨む。

 だが、その二人を確認して納得する。

 マオの友人であり、この街の双子の勇者だったからだ。


 それを知っているのも、この街に来る前に色々と調べていたからだ。

 よくパーティを解散されてしまうのも知っている。

 そしてマオと特に仲が良く好意を持っていることも知っている。


「なら………」


 だから二人に一緒にパーティを組まないかと頼もうとするが、その前にマオは二人の腕を引っ張っていった。




「二人とも。さっきも言ったけど絶対にあいつらには近づくな。今度からは絶対に一人で行動せずに複数人で行動しろ」


「良いけど。何かがあるの?」


「あいつらはギルドの中からまだ出ていないから大丈夫だと思う。教えてくれないか?」


 マオの行動に二人は何かがあったのだと理解する。

 全く疑う様子もない。


「あのテイクって奴の仲間だけど、お前らはどう見える?」


「どうって………。仲間想い?」


「リーダーを中心に良く集まっているように見えるけど?」


「俺には意志が無いように見えた」


「「え?」」


 マオの意見に二人は顔を青くする。

 それが事実なら、あのテイクという少年はかなり危険だ。


「マジか……?いや疑うつもりは無いけど……」


「別に確証はないから疑っても構わない。だけど絶対に一人で行動するなよ」


「わかっている………」


 自分の意志を奪われて操られると考えると冷や汗を流す二人。

 マオの言葉にその可能性があるだけでもヤバいと背筋を凍らせる。


「いや二人とも勇者だから大丈夫か?………まぁ、念のためにシスターにも確認して欲しいけど」


「そうだな……。分かった。今から頼んで来る!」


「一人で行動するなって言っただろ」


 カイルがシスターの元へと行こうとしてマオはそれを止める。

 一人で行動しようとしたからだ。

 その間に洗脳されてしまったら笑えない。


「だが、こうしている間にも誰か洗脳されているかもしれないだろ!?」


「そうよね。依頼主には悪いけど先にシスターに相談した方がよいわよ」


「わかったから一人で行動しようとするな」


 二人の提案にマオもそれなら構わないと頷く。

 依頼主もマオからすれば人となりも知っているし、少しぐらい遅れも許してくれるだろうと考えていた。

 それでも許してくれなければ遅れた理由を正直に話さば良いと思っている。

 おそらくは洗脳をしてくる相手だ。

 それを防ぐ道具を購入して手土産にしようと考える。


「気休めかもしれないが洗脳を防ぐ道具でも購入もするぞ」


「…………俺が買うからマオは買うなよ?街の皆がお前が買ったことに注目するから。そのせいで洗脳に気付いたことがバレたら大変なことになる」


「は?」


「マジだ」


 キリカもカイルも真顔でマオが道具を購入するのを止めてくる。

 それだけマオが注目されていて気付かれてしまうと警告をする。


「そうか………。じゃあ、お前らが買いに行っている間にシスターと話し合うか?いや、そもそも一人で買いに行っているから注目されるんじゃないか?三人で行ったら今度のダンジョンの対策だと思われるんじゃないか?」


「それでもよ」


「そうだ。だから買いに行っている間にシスターと話し合ってくれ」


 二人の言葉にマオはその間に洗脳されないか心配するが二人は勇者であることを思い出して任せることにする。

 ずっと隣に入れるわけでは無いし、もし洗脳されたとしても意識を刈り取り原因を排除すれば良いと考えていた。


「わかった。それじゃあな」


 そしてマオは二人を置いて教会へと向かった。




「相変わらず速いわよね………」


「あぁ………。全く動きか見えなかった」


 キリカとカイルの二人はマオが立ち去った後を見てため息を吐く。

 わかってはいたが、ここまで差があると見せつけられてしまうと心が折れてしまいそうになる。


「もしかしたらマオには一生追いつけないのかもしれないね……」


「そうかもしれないけど、そんなのは今更だろ?」


「………それもそうね」


 マオを相手に数を揃えて挑んでいるから、たしかに今更だ。

 でも動く姿そのものが見えないのは、それ以前の問題だ。

 どれだけ勝つために工夫してもマオの行動に反応できなければ意味が無いのだから。

 反応できなければ勝てるはずが無い。


「………どうやったら勝てると思う?」


「まずはマオの動きを追えないと意味が無いよな………。前も結局はマオの動きに反応できなかったのが敗因よね」


「単純に見えている世界が違うんだろうな……。反応も速いし」


 以前に戦ったマオの実力を思い出して二人はため息を吐く。

 スペック差が違い過ぎる。

 動きの速度も反応の速さもマオの方が上。

 そして魔法の威力も上。

 ほとんどが自分達より優れている。


「挑む前に毒でも仕込ませないと勝てないんじゃないか?」


 実際にやるつもりは無いが、そこまでしないと勝てないだろうなとキリカも頷く。

 というより実際にやったら殺されるか嫌われて関りを捨てられてしまう。

 絶対にやりたくない方法だ。


「まぁ私たちは幸運だと思うしかないわよね。どれだけ強くなっても挑める目標がいるんだから」


「まぁ、うん。中には自分だけが強いせいでつまらなさそうに生きている奴もいるらしいしな……。強すぎるせいで誰も挑んでも来ないらしいし……」


 それと比べれば張り合いのある日々を過ごせれるから幸運だろう。

 それにマオもだ。

 どれだけ強くても挑まれているから退屈では無いはずだ。


「そういえば洗脳に対する道具だけど魅了も勝った方が良いわよね?」


「たしかに……。魅了もたいして変わらないし買った方が良いな」


 魅了も洗脳も相手を意のままにするという点では同じだ。

 マオも実際に洗脳しているところを見たわけでは無いし、もしかしたら間違っているのかもしれない。

 だから二人はどちらも買おうと決めていた。

 その分、値段は当然高くなるが二人にとっては大した金額でも無かった。




「シスターはいますか?」


「何の用ですか?」


 シスターは以前の挑戦で武器にされたのにマオへと笑顔で迎え入れる。

 気にしていないという演技かもしれないが、それに対して深く考えずマオは要件を口にする。

 嫌われていようが、そちらの方がはるかに大事だ。


「ギルドに洗脳しているらしき奴がいるんだけど確認してくれない?」


「本気で言っているのですか?」


「俺から見ればだけど」


「…………わかりました。では早速見に行きましょう」


 少なくとも自分よりは格上の実力があるマオの言葉にシスターも信じることにしたらしい。

 早速、ギルドへと向かおうとする。


「信じてくれるのは嬉しいけど、少し待ってください」


 だがマオはシスターの肩を掴んで止める、

 その行動に何故止めるのかと視線でシスターは問い質す。


「できれば暗くなってからの方が良い。どういう方法で洗脳してくるのか分からないんだ。洗脳されている者を一人になった時にでもさらって解除すれば確認できる」


「なるほど……。貴方は今日は依頼を請けているのですか?」


「パーティに誘われて逃げるためについ………」


 マオの行動に理解はできるがため息を吐くシスター。

 それなら自分一人で確認した方が良いと考える。


「取り敢えず昼には終わらせるから教会で合流しませんか?」


「…………いいえ。まさかこの街に来て一日で行動するわけが無いでしょうし今日は無しにしましょう。その代わり明日になったら教会に来てください」


「わかりました」


 シスターの意見にたしかにその可能性は高いとマオも納得する。

 ならキリカ達に合流して、そのことを伝えないといけないなと決意していた。



「すいません。これらを下さい」


 同じアイテムを数十個。

 それをレジへと持って来て店員は困惑する。


 目の前にいる二人の勇者は有名なのだ。

 いつも仲間を奪われ捨てられてしまう勇者として。

 だから引き留める為に貢ぐものとして買ったんじゃないかと考えてしまう。


「こんなに同じ物を購入するんですか?」


「まぁ、念のため。今度、迷宮に挑むので………」


 それでもやっぱり多いと考える店員だが、これ以上は何も聞かないことに決める。

 たくさん購入してくれるなら、それだけで利益になるし不快にさせて購入を辞めるのは止めたかった。


「あっ、買い終わった?」


「うわっ!!?」


「きゃっ!!?」


「うわぁぁ!!?」


 急にマオが現れて後ろから話し掛けられたことにその場にいた者たちは全員が酷く驚く。

 気配が全く感じ取れなかったせいだ。


「急に話しかけるのやめて……。すごく驚くから」


「あぁ、ごめん。それで買い終わったなら依頼の所に行くぞ」


 マオも知っていて買うのを止めなかったのだと察して店員は納得する。

 そうするだけのダンジョンにでも挑むのだろうと理解したせいだ。

 そうなると、どこのダンジョンに挑むのか興味が湧く。


「これだけのアイテムを買うんだ。どこのダンジョンに行くんだ?」


 この辺りにはそこまで洗脳やら魅了などが強いダンジョンは無かったはずだ。

 もしかしたらしばらくは遠くに行くんじゃないかと想像する。


「まだ予定だけだから決めていない。それらのアイテムは使うつもりだけど」


「そうか。決まったら教えてくれよ。お前がいなくなるのは寂しいし」


「………離れても少しの間だけだぞ?」


「それでもだよ」


 そんなものかとマオは思うが店員の言葉に頷き、その時は伝えると告げる。

 そのことに店員は満足げな表情を浮かべる。

 そしてキリカ達は微妙な表情を浮かべていた。



「ねぇ、マオ………」


「嘘は言っていない」


 店員との会話を思い出してキリカは微妙な気持ちになる。

 たしかに嘘は言っていない。

 ダンジョンに行く予定は決めていないし、それでも洗脳や魅了に対抗するアイテムは使うつもりではある。


「それとシスターと相談したけど内容については依頼が終わった後に話す。詳しい話は家でするから、まずは依頼に集中するぞ」


 どこで誰が話を聞いているか、分かった者では無いとマオは言う。

 その内容に二人もしょうがないかと納得はするが、すこしだけ不満な表情を見せる。


「理屈はわかるけど………。やっぱり気になってしょうがないんだが?」


「…………。そうだな取り敢えず協力はしてもらえる。それと明日は教会に行くことになったから」


 シスターにも協力してもらえると聞いて二人は安堵する。

 自分達を鍛えてくれた教師だ。

 協力してくれるのなら心強い。

 マオもいてシスターもいるなら確実に対処できる。


「わかった。それじゃあ家に帰ったら教えてもらうぞ」


「予定では昼に終わるつもりだし、早く終わらせたらその分だけ話せるだろうな」


「よしっ!」


 やる気を出すカイルにマオは更にその気にさせようとする。

 早く終わらせれば終わらせるほど聞きたいことが聞けるようになると。


「昼までにね………。確実にこなさないと」


 そしてキリカは確実に丁寧に仕事をこなさないと逆に仕事が長引いてしまうかもしれないと慎重になる。

 姉弟で正反対な様子にマオは少し面白くなった。

 

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