第9話 双海家
「どうぞ、入って下さい」
シロに招かれ、辿り着いた場所は大きな門のある広い豪邸だった。
表札を見ると【 双海 】と書かれている。
「マ…マジでシロくん、君の家なんだ」
「あ、両親は今日帰ってこないですし、兄様も帰りが遅いので遠慮なく寛いでください」
シロの後に続くように御屋敷の敷地内に入ると、よくTVで見たことあるような綺麗な庭が広がっていた。
玄関…と庶民的な表現は似つかわしくないが、屋敷の入り口を入るとメイドや執事たちが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、シロ様」
1人の執事が言うと一斉に「お帰りなさいませ」と揃えながら深々と頭を下げていた。
「ただいま、今日学園に生徒手帳を拾ってくれた人がわざわざ届けに来てくれて、お礼に家に招待しようと思って連れてきたんだ」
「それはそれは、大切なシロ様の生徒手帳が見つかって何よりです。この度は届けて下さり、有難うございます」
黒髪を綺麗に整えていて、他の人は少し違う制服に身を包んでいる恐らく使用人の中のトップであろう執事が響樹、湊、雛に向き合い深々とお辞儀をした。
ピシッとした綺麗な90度のお辞儀とはまさにこれだと三人は同じ思いだった。
「あ、いえいえ…そんな大したことしていないので」
「申し遅れましたが、私 この双海家の執事長をしております黒田と申します。今日はごゆっくりとお寛ぎ下さい」
「黒田さん…右から碧里湊くん、日向雛くん、音森響樹くんです」
「承知致しました、たった今すでにもう記憶済みでございます」
「えっと…音森響樹さんが未来予知、碧里湊さんが心を読む読心能力、日向雛くんが人間以外の生き物と会話できる生物対話能力…で、合ってますか?」
「合ってる合ってる」
シロの部屋に案内された三人は自室の広さにまた驚きながらも指定されたソファに腰掛けた。
テーブルに置いてある紅茶とクッキーを挟みながら向かいのソファに座るシロとまず、能力について話を切り出した。
「なんだか…不思議です。兄様しか知らなかったので」
「みんな同じだよ。大体の能力者が独りで抱えてるケース多いんじゃないのかな…でもシロくんは、お兄さんが同じ能力者だったから 心強かったんじゃない?」
湊は自分の問いかけに同調の言葉か返ってくることを期待したが、返ってきた言葉は予想とは違った。
「幼い頃は、すごく仲のいい兄弟でした…けど、いつしか会話をしなくなって、すれ違って…中学上がった頃に能力に目覚めたのをきっかけに兄様は変わってしまいました」
「具体的にどう変わったの?」
「なんというか…僕のことを…っ!…あっ…」
「ど、どうした?!」
急に声を上げたシロは何かに怯えるように両手で頭を抱え出し、ブルブルと震え出した。
「に、兄様からだ…今、頭の中に兄様の声が…」
「テレパシーか、お前の兄貴はなんだって?」
シロが顔を上げて虚ろな目で三人を見た。
そして、震える唇をゆっくり開いた。
「今日のおやつ、お前の分も俺によこせって」
「子供かよ」
シロに冷静にツッコんだ響樹に対し、湊と雛はズコーッと滑り転げた。
「ちょっと!!君の兄貴どういうつもり?!」
「あ、今日のおやつが兄様の好きなガトーショコラなんです…」
「だから何だっていうの?!そんなことで力使うなんて!!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ雛を湊はまぁまぁとなだめていた。
「お取り込み中申し訳ないんだけど、いいかな?さっきからノックしてるけど誰も気づかないんだよね」
声のした方に四人が一斉に振り向くと、今まで話していた人物が部屋の扉に立っていた。
「…で、出た…」
「出た」
「出たな」
「Gが出た時みたいな反応しないでくれる?」
「に、兄様…おかえりなさい…今日は遅くなるんじゃあ…」
シロは視線を合わさず、肩身狭そうに言った。
「なんだっていいだろ…予定が変わることだってあるんだ。それより、すぐ返事しろよ。あと話す気ないなら話しかけるな」
「ちょっと!そんな言い方ないでしょ!弟に対して、っ?!」
シロに対して言ったクロの言葉に腹を立てた雛は、掴みかかろうとしたが響樹に止められた。
「それよりもお前、双海クロに話がある」
「なんだい?話って」
「…その、ここのガトーショコラってそんなに美味いのか?」
…………
あああああああああああ?!?!
「あぁ!もう絶品だよ、良ければ一緒に食べないか?」
「…じゃあ、遠慮なく」
そうだった…
大の甘党好き、特にケーキには目がない奴がいたわ…
湊は腹の底から深い溜息をし、脱力感を覚えた。
隣にいる雛を見ると…
「響樹せんぱい、さっきの子供かよ発言撤回して下さいね」
雛は笑っていたけれど目が笑っていなかった。
響樹くんは甘いものがあれば他人の話聞かないのかな…笑