第三十話 それぞれの道(終)
松山がトイレから出て来るまで、私は待合室で座って待つ。
松山のマヌケな姿を見て力が抜けたのと同時に、全ての「呪いの言葉」を吐き出したことにより、心も身体も軽くなったような気がする。
戸田先生からのアドバイスとして「自身の経験を"物語"として語り、それを一旦自分から切り離して、第三者として"外在化"してみても良い」と教えてもらった。
つまり「こんな経験があったから自分はダメな人間に違いない」と考えるのではなく、「こんな問題が起きたこと自体が問題だ」と、"問題そのものが問題"と考えることが大切だと。
また、先生はこんな例え話もしてくれた。
『足元がおぼつかないお爺さんが道を歩いていました。その道には大きくて邪魔な石が落ちており、お爺さんは誤って躓き、転んでしまいました。あなたならどうした方が良いと思いますか?』
私は「転んでしまったお爺さんを助ける」と答えたが、先生の考えは少し違うらしい。
『転んだお爺さんを助けるのも、もちろん必要です。しかし、石を退けなければ、また同じような犠牲者が出てしまうでしょう。私個人の答えとしては、お爺さんを助けた後に道に落ちている石を退ける、です。』
つまり、「結果(転んだお爺さん)をその場しのぎする(助ける)ことも必要だが、また同じような問題(別の犠牲者)が発生しないように問題そのもの(石)を取り除く方が、長い目で見て救われる」ということらしい。
「これが社会の大きな問題点なんですよ。モンスター従業員を野放しにして、立場の弱い人へのメンタルケアは放置。有能なベテラン従業員に無理をさせて働かせて、無能なベテラン従業員のサボりは黙認。結果、有能な従業員は精神的に病んで戦力外通告を余儀なくされる。悪い人間に対しては、問題に関わりたくないからと彼らの言動を見て見ぬふり、結果重要な人材を手放して行く。医師としてこんなことを言うのも何ですが、患者さんこそ被害者なのに、精神を病んだ側が社会的立場も不利になって金銭的にも負担を強いられて、おかしいと思いませんか?人を貶める人間は、人を踏みつけたり人のせいにしないと、自我が崩壊する呪いでも受けてるのでしょうか?いや、そもそも本人たちは"悪いことをしてる"っていう自覚すら無いんでしょうね。いつか彼らを隔離病棟に監禁して倍返ししてやりくらいです。ははは。」
先生は落ち着きがあって安心感のある人だが、なかなかサイコパスなことを言う。
先生はその後、「ただ、人によって考え方が違うため、私の答えが100%とは思わない方が良いですし、釘本さんの答えも良いと思います。つまり、全ての事由を0か100かで評価せず、30とか70とかで考える方が良いのかもしれません。まずは白黒付けることを辞め、グレーも許してみる練習をしてみてください。」ともアドバイスしてくれた。
なるほど、と私は感心した。
確かに私は、何でも答えを出そうと考える節がある。
「0でも100でもない、1から99までのたくさんの可能性があっても良い」ということか。
「グレーも許す」って、ちょっと良い言葉だ。
松山が無事にトイレから帰還し、私たちは会計を済ませて病院を出る。
松山のおなかが不調なので、私はシュークリームはまた今度にしようと申し出るも、「食べる!絶対食べる!もう全部出したから大丈夫です!」と松山は食い下がった。
埒が明かないので、そのままシュークリーム専門店の行列に並ぶ。
「松山がおなか下して、先生も笑ってたぞ。"子供っぽくて変わった子です"って。」
「え!?!?」
「え!?って何だよ。何をそんなに驚いてんの?」
「俺って、"変わった子"なんですか!?」
「まあかなり変わってると思うよ。賢そうな時もあれば急にポンコツになったり、ふざけてるのかと思えば真面目になったり・・・掴みどころが無いと、私もずっと思ってた。ぶっちゃけ聞きたいんだけど、松山の"本当の顔"ってどれなの?」
「変わってるんだ・・・!俺って、普段から変わってるんだ!"普通じゃない"んだ!なんだ、"演じる"必要はもともと無かったんだ。俺は元から変なんだ!」
「???あのー、私の話、聞いてるか?」
「ごめんなさい、聞いてません!それより釘本さん、今日は奢ってくれるんですよね!?俺、パイシュークリームとクッキーシューに決めました!」
ズコーッ。
なぜか松山は、戸田先生に"変わってる"と言われたことを何度も反芻し、悦に入っている。
かと思えば、急にシュークリームの話に戻っては目を輝かせ始めた。
とことん掴みどころの無い男だ。
"変わってる"と言われて嬉しそうにするなんて、やっぱり松山は変な奴だ。
彼の"真相"を聞き出そうと質問したが、本人は語る気が無さそうなので、私は諦めることにした。
これ以上執拗に聞いては、私も嫌なおばさん入りを果たしてしまうからな。
"本当の松山"は、本人のみぞ知る。
さて、私は計画中の旅行を楽しみに、しばらくのんびり過ごそうと思う。
仕事を辞めるか続けるか、この土地に住み続けるか移住するかは、帰って来てから考えよう。
あわてない、あわてない、一休み、一休み。
大丈夫、心配するな、何とかなる。
そうだ。生き急ぐ必要は無い。
私は頭の中で、一休さんの言葉を繰り返す。
* * *
俺は仕事を辞めた。
いや、正しくはサンセットが潰れたのだ。
理由はいろいろとあり過ぎるが、主に俺の火傷がトリガーとなった。
今回の火傷は業務上に起きたことなので、俺は本社に労災申請した。
ところが本社は「それはあなたの不注意によることなので、労災と言われても困る」「会社の印象に関わるため、労災ではなく傷病手当の申請にしてくれ」などと述べ、いわゆる「労災隠し」に踏み込もうとしたのだ。
俺はすぐさま弁護士の父さんに相談し、法の力を借りることにし、労働局にも申し出た。
しかし本社もなかなか手強く、「証拠の音声も映像も残っていないのになぜ労災なのか」だの「親子で訴えるのはそもそも怪しい、捏造だ」だの言って引き下がらなかった。
以前極秘に設置していたボイスレコーダーは、赤山の逮捕に伴い警察に提出してしまったため、証拠が無くて困った。
そんな中、タイミング良く(?)杉田さんまでとある訴えを起こした。
それは「早川店長の業務上の横領」である。
早川店長は以前からよくお惣菜をつまみ食いしていたようだが、俺が火傷で仕事を休み始めた日にも同じことをして、杉田さんに警告されたそうだ。
しかし早川は行動を改めることも無く、杉田さんが休憩に行っている間にお弁当用のご飯とパック用の揚げ物を、会計することもなく作業場で食べていたらしい。
嫌な予感がした杉田さんが踵を返して戻り、ガラケーの動画撮影を起動させたまま作業場の扉を開けると、案の定だったようだ。
杉田さんはすぐさま労働局と知り合いの弁護士に"証拠"を訴えかけた。
労災隠しと業務上横領が同じタイミングで労働局と弁護士に申告され、地元ニュースとして取り上げられた。
その後、特定厨により「大場市の不同意わいせつ罪の容疑者もサンセット大場店の従業員だった件」というスレで拡散され、サンセットはダメージを受ける。
また、サンセットの問題は大場店だけで終わりではなかった。
本社及び本店の問題まで明るみになったのだ。
俺たちの勤める大場店の「不同意わいせつ罪で赤山容疑者逮捕」「被害者の女性従業員の休職」「男性従業員(俺)の業務上の怪我への労災隠し」「店長の業務上横領」から始まり、本社本店の「社長のパワハラ揉み消し」「食品衛生法違反」「過大な見積もり」「広報担当による、SNS裏アカウントに投稿したつもりの、ライバル店への故意の嫌がらせ動画とネガキャン投稿をサンセット公式アカウントに誤投稿」など、次から次に問題が浮上した。
初めは地元ニュースでしか取り上げられなかったものの、次第に全国ニュースになり、サンセットは八方塞がりとなった。
そして、ものの数か月でサンセットは倒産を余儀なくされた。
ちなみに杉田さんの"証拠提出"は「ガラケーバッバ、大手柄!」というスレで一部で盛り上がった。
サンセットは文字通り、太陽が沈んだように光を失い、終わってしまった。
俺は、勤続一ヶ月にも満たずに職を失った。
* * *
私が長年勤めたサンセットが、お偉いさんたちの汚職等で倒産した。
私ももう72歳。
息子から「サンセットには母さんの力が必要だ!」と言われ続けたから頑張って来たけど、今回の事件等で完全に摩耗した私は、引退を決心した。
「お、お義母さん引退するんですか!」(えぇー!お義母さんがこれからずっと家に居るってこと!?どうしよう、嫁いびりだけは勘弁して!)
「もう、いろいろと限界を感じたのよ。それと正美さん、今まで嫌味ったらしい婆さんで申し訳なかったわね。」
「えぇっ!?」(なんで急に?何を企んでるの?)
「私ね、サンセットに入社してきた新人の男の子に、いろいろ考えさせられたわ。もう老いぼれで動けないこととか、人に強く当たる老害は時代遅れだとか。」
「そ、そんなことを言う若者がいたんですか!」(なんて勇気のある・・・。)
「だから、私も悔い改めることにしたわ!私もいつ死ぬか分からないから、残りの人生は人に優しくしなきゃ。極楽浄土へは行けないわ!」
「お義母さんはまだまだ元気だから、長生きしますよ!これからゆっくり過ごしてください!」(厚かましいお義母さんなら100歳ぐらいまで生きそう。でも優しくなろうと決意してくれたのは助かるわ。)
「ありがと!でも、家にじっとしてるのも落ち着かないわ!そうだ、老人会に本格的に参加して、ゲートボールにでも勤しもうかしら!」
「良いですね!それが良いと思います!」(お願い!絶対に老人会に参加して!家にずっと居られると私も気まずいから!)
私はボケ防止のために、これから老人会で皆と余暇を楽しむことにした。
明日町内会長さんに話をつけてみようかしら!
* * *
もー!杉田さんが店長のつまみ食いをバラしたせいで、サンセットが潰れたー!
大人しく引退してくれれば、私が近々トップの座に上って皆を牛耳れたかもしれないのに。
57歳の今、これからどう転職活動すればいいんだろう。
会社都合の退職だから失業保険は貰えるけど、年金生活までの稼ぎは頑張って作らないといけないのに。
履歴書の書き方とか面接の仕方とか、もう覚えてないんだけど。
そういえば、青果の渡辺さんの息子さんは農園を運営してたんだっけ?
先月その話になった時、人手不足で困ってるって言ってたよね?
渡辺さんにお願いすれば、コネで私も仕事させてもらえないかな?
私は渡辺さんに電話することにした。
「はい、渡辺です。」
「渡辺さん、こんにちはー!サンセットの倒産、困るよねー。・・・それで相談があるんだけどさー、渡辺さんの息子さん、農園やってるんでしょー?渡辺さんから私のことを話して、お仕事させてもらいなーい?」
「ごめんなさい、前野さん!実は今、作業員がたくさんいるから新たな募集はして無いの!」
「えー!?嘘ー!だって先月は人手不足で困るって言ってたじゃーん!」
「あの後たくさん募集が来たらしいの!これ以上人が増えても困るような状況みたい!ごめんね~!」(やめて!来ないで!他のパートさんは何人か一緒に働いてくれることになったけど、前野さんは嫌!どうせ誰かの悪口を言いふらして居心地を悪くするんでしょ!?絶対に仲間に入れてあげない!)
「ふーん、そっかー。他を当ってみるー。」
「は~い、ごめんなさ~い!」(良かった、引き下がってくれた!この様子だと他のパートさんにも聞いて回るかもしれない!精肉の江藤さんにも教えとこう!)
なーんだ、使えないなー。
他のパートさんに、コネが使える人って居なかったかなー?
あ!そういえば精肉の江藤さんの旦那さんも、何かの自営業じゃなかったっけ?
清掃員でも良いから、ちょっと聞いてみようかな?
あれ、通話中だ。タイミング悪ーい。
* * *
なんで皆ここぞとばかりにハプニングを起こすの!?
これから私はフルタイムで稼がないといけないのに、皆のせいで職場が無くなったじゃん!
もう、また周りの人間が私の人生の邪魔をするっ!
私の人生何なのっ!?
私は、これからどうすればいいのぉ~っ!?
・・・待って、会社が潰れたんだから失業保険は貰えるんだよね?
でも、失業保険ってどうやって貰うの?
私は「分かりやすく」でインターネット検索した。
やったぁ~!
私は勤続3年目だったから、150日分貰えるってことぉ~?
これでしばらく働かなくて済むぅ~!
これって会社からハローワークに情報が送られて、勝手に振り込んでくれるってことなのかなぁ~?
よく分かんないけど、ラッキー♪
白石は気づいていない。
失業保険の申請は自分で行わねばならないことを。
雇用保険説明会に参加せねばならないことを。
そして、離婚したことでマイホームの固定資産税と維持費を支払い続けねばならないことを。
* * *
あたしはニュース番組を観て、サンセットが倒産したことを知った。
今かおりさんは休むべき時だから、あたしは松山に電話する。
「松山!マジかよ!潰れてんじゃねぇか!ニュース観たぞ!サンセット!」
「歩さん、こんにちは!そうですよ!サンセットは文字通り、日没を迎えました!それにしても歩さん、文法がめちゃくちゃです。すごく理解不能です!」
「わりぃ!慌てちまった!それより、あんたらこれから仕事はどうすんだ?」
「俺は」
「おう」
「俺は!」
「はい!」
「ある計画がありますが、俺の自己満足で、夢で終わる可能性もあるので、あえて語りません!」
「なんだよ!引っ張っといて!言ってみろよ!自己満足でも夢でも良いじゃねぇか!あたしが笑うとでも思ってんのか?坊ちゃん、言ってみろ!」
「じゃあ語りますが・・・俺、開業しようと思ってるんです。」
「マジか!お前は精神科医の医師免許持ってるんだっけ?ってことは、開業医になるってことか?」
「いえ。実は・・・フリースクールを運営しようと思ってるんです。」
「フリースクール!」
すげぇ!フリースクールか!
一緒にヒーローショーの臨時スタッフをやってる時から感じてたけど、松山は子供に好かれるし、子供が好きそうだからな!
「お前すげぇじゃん!いつ頃から?何ならあたしも一緒に働きてぇぐらいだ!」
「本当ですか!?」
「ったりめぇよ!こう見えてあたしだって社会福祉士の資格持ってんだよ!持ってるは良いが、この言葉遣いで一般企業の求人に応募すると、煙たがられていつも面接落ちだけどよぉ!がはは!」
「マジですかー!!それは心強いです!開業して本当に働いてくれるなら歓迎しますよ!時期はまだ決めてないんですが、場所はもう決めてるんです。うちです。今俺たち松山家が住んでる家を施設にしようと思ってます!そして、松山家は隣町の小さな土地を買ったので、そっちに移る予定です!」
「もうそんなに話進んでんのか!」
「はい!実は大学に入学したあたりから、何となく計画してました!」
この一家の行動力ハンパねぇな。
「そうか!でもなんで、計画とは正反対の惣菜っていう業種に就いたんだ?」
「それは"研究"のためです。」
「研究?」
「はい。惣菜って、クセの強いマダムがたくさんいるってよく言われてるじゃないですか。だから思ったんです。"フリースクールに通うことになった青少年たち"を"そうさせる原因となった問題児"を"問題児に育て上げた親"は一体どんな奴らなのかなって。」
「原因の原因の原因は何かってこと?」
「大体そんな感じです。いじめっ子などの原因になってるであろうクセつよな人間に迫って観察すれば、おのずと問題児や問題児に嫌がらせを受けた子たちへの改善策や深層心理に迫れるんじゃないかと思って。だから"潜入捜査"してました!」
「ほ~。」
なるほど。
よく分かるような、分からんような。
「で、成果はあったのか?」
「結局、よく分かりませんでした!」
「何だよそれ!」
「俺、かおりさんや歩さんを見て思ったんです。親や兄弟がどんな人であっても、自分とは切り離して考えて良いって。親が立派でも、兄弟がおっちょこちょいでも、それは個人の自由です。ゆえに俺はどう生きてても良いんだって感じました。正直に言って、俺は死んだ兄さんに嫉妬してました。良くも悪くも、兄さんはいつも誰からも注目されるのに、俺は"目立たないどこにでもいる子"だったので注目されませんでした。兄さんと俺は別の個体だから比べる必要は無いのに。頭では分かってるはずが、嫉妬ばかりしてました。俺は兄さんが死んだ後、兄さんが乗り移ったような生き方をすれば注目されると思ってしばらくそうしてましたが、結局"俺本人"の承認欲求が満たされることはありませんでした。だってそれは"兄の力"を借りてるだけで"俺自身"では無かったからですね。でも、歩さんに焼き肉に連れて行ってもらった時、歩さんの"自分軸で生きる姿"を見て、もう"兄のふり"をして生きるのはやめようって思いました。これからは"俺自身"として生きます。」
言っていることが意味不明過ぎて私にはピンと来ないが、松山は真剣に未来を変えようとしているようだ。
「・・・その話、オチねぇの?」
「何だよ!俺がせっかく真剣に話してるのに!歩さん、俺のことバカにしたでしょ!?」
「それだ。」
「は゛!?」
「お前、今初めて感情をむき出しにしたよな?それだよ!その感情が"お前自身"ってことだ!」
「は、はぁ?」
「分からねぇなら別に良いや!お前はそれで良い!ってことで、フリースクールを本当に開設する時が来たらまた連絡くれよ!あたしもそこで働きてぇから!そろそろ電話切らねぇと電話代がバカにならねぇ!じゃあな!」
「ちょ、歩さん!勝手に切・・・」
(通話終了)
松山はやっと"自分"として生きる道を見つけたみてぇで良かった!
過去は覆せねぇんだ、これからの未来をお前の通りに生きろ!松山!かおりさん!
あれから釘本さんは変わった。
メンタルケアのために出かけた旅行が思いの外楽しかったらしく、その後も定期的に旅を続けた。
そして彼女は、旅の楽しさと知らないものを発見することにインスパイアされ、旅先の隠れた名店や穴場スポットを紹介するブロガーになった。
しかし閲覧者数が伸びず、アフィリエイトでは稼げないと判断したようだ。
その後、たまたまハローワークでコアな雑誌編集者の求人を見つけ、応募したら受かったらしい。
よく「やめとけ」と言われがちな仕事だが、文字の執筆と分かりやすく言語化するのが得意な釘本さんには天職だったようで、とにかく楽しいらしい。
一般受けのする記事を書くと「レッドオーシャン」のため、売れるにはライバルが多いが、釘本さんのどこかズレた視点で生み出される企画と、独特の口調が良い意味で目立ち、今や「ブルーオーシャン」で大活躍中だ。
コアな雑誌編集者であることも、彼女の良さを活かせる所以だ。
久しぶりに釘本さんが地元に帰って来た。
他県で買った「にんにくキャラメル」というクセつよお菓子と、「岩石バウムクーヘン」という岩石のような灰色に着色されたバウムクーヘンをお土産にくれた。
「"サンレンジャー"の二人ような大食漢は、クセつよお菓子や視覚的に食欲が落ちそうなものでもペロリと平らげるのか?」というふざけた企画らしい。
ちなみにこの企画で、俺と歩さんは『正義戦隊・サンレンジャー』として写真付きで雑誌に載せられることになっている。
一応、これも"臨時キャストの仕事"なので、仕方ない。
そして俺はというと、宣言通りフリースクールを開校した。
「若造のくせに運営できるわけがない」「どうせすぐに閉校になるだろう」と教育委員会からたくさん批判を受けたが、役所に勤める小学生時代からの友人である竹内君が熱弁してくれ、無事に開校することができた。
また、父さんや母さん、歩さん、絵美ちゃんのパパである和也さん、彼のパパ友である木村さんや松本さんのサポートもあり、何だかんだで上手くいっている。
人は周りに支えられて生きるものだと、改めて実感した。
絵美ちゃんを初めとして、今では学校生活に窮屈さを感じる子供たちがたくさんフリースクールに通っている。
自分たちの好きなように伸び伸びと過ごしてくれることは喜ばしいことだが、一方でそれは各学校の交友関係にそれだけの数の問題がある裏付けでもあるため、複雑な心境でもある。
社会という集団生活がある以上、問題は必ず生まれるのだ。
これは人間だけでなく、イルカやニワトリなど動物の世界でも起きている。
必ずしも全ての問題を一人で抱える必要も無いが、だからといって他責思考で周りのせいにして自分を正当化することも良くない。
人格否定するような叱責は大問題だが、叱るべきことにはきちんと叱るべきだ。
それはパワハラではなく、指導だからだ。
その塩梅について、我々はもっと真剣に向き合った方が良いとも思う。
しかし、そうは言っても人生は上手くいかないことばかりだ。
人生は、この先もなるようになるだけ。
俺は毎日喜びと苦しみに"生きてること"を感じながらも、結局人間は血と肉でしかない。
波打つ人生の水流には逆らえず、ただ身を任せて流れるしかないのだ。
死んだ後の自分のことは死んだ後の自分が何とかする。
大丈夫、心配するな、何とかなる。
そう言い聞かせて、俺は今日も生き延びる。




