表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴィーナスの苦悩(3):八角龍伝 起動編  作者: 利久(RIKYU)
1/1

八角龍伝 起動編

17.

チーム八角龍の作戦は大成功だった。政府内での反対陣営も成功の祝いの言葉を掛けてきた。防衛大臣からも祝福のメッセージが届いた。来年度の予算も防衛費の中に八角龍本部の予算が別枠で取られると言う朗報も舞い込んだ。ヴィーナスやサターン達の研究が理想的な環境下で行えるようになった。彼女のチームにも優秀な研究者を送る事が可能である。医療班にも予算が取れるようになった。

サンとアースは政府高官や政治家等との会合で振り回されていた。作戦が成功してから、毎日のように呼ばれている。また、テレビでの出演依頼も舞い込むが、秘密組織である故に、防衛大臣が全ての説明や解答を行った。その時のアドバイスをアースがインカムで行ったのである。組織のメンバーの正体は絶対に明かさないと言う条件で対応した。毎日が忙しく走馬灯のように月日が流れた。だがヴィーナスとマーキュリーの二人の時間は止まったままだった。特にヴィーナスの落ち込みは激しい。事件から帰って来た頃は放心状態で受け答えが出来なかった。現在も口を閉ざしている。毎日、言葉を忘れたかのように宙を眺めていた。サターンに診察を依頼し、必要な検査を行ったが異常は何処も見当たらなかった。やはり心の病気である。専門のマーズに託したが、マーズ曰く、時間が解決すると言う事だ。今は、彼女を一人にして自分の世界に浸して上げていれば良いと言う事だった。一方、マーキュリーも傷が癒えるまでは精神的にも不安定だったが、傷が治ると同時に、いつもの明るいマーキュリーに戻っていった。ただ、事件の記憶は殆ど無いと言う事だ。人格が入れ替わっていたせいもあるが、新しい人格が形成された可能性も考えられる。注意深く観察するという事で、暫らくはマーズに預けた。元々仲の良かった二人なので、問題も無く時間が過ぎていった。

一か月ほど経った頃に、マーズからアースとサンに報告があった。まずはマーキュリーだが、完全に元に戻ったようだ。ただ、三重人格は以前のままである。新しい事実も分かった。マーキュリーが二人目や三人目の人格に入れ替わった際、精神的に大きなダメージを受けた状態(今回のような瀕死の状態になったような場合)は、元の人格に戻る事が分かった。マーズが言うには、元々彼女が作り上げた人格なので、生死に関わる状態になれば防御反応で元に戻るのではないかと推論された報告書が提出された。この分析は理にかなっておりサターンからも同意を得る事が出来た。今後、彼女の人格変動が起こった際に役に立つであろうと言う総括で締めくくった。

次にヴィーナスだが、かなり自尊心が傷ついたようだ。一時は、自分を責め過ぎて精神の破綻を起こす寸前にまで重症化していたが、ヴィーナスが潜水艦内で見た敵の武器と同じような物が作れないかと、アースから相談を受けた辺りから急速に好転し始めた。やはり彼女は何か目的が無いと前進できないようだ。アースは冗談交じりで言ったのだが、結果的にはその言葉でヴィーナスの精神は安定しだした。一日ほどで元に戻り始め、現在は研究室に籠ったまま、武器を試作している。マーキュリーもその武器を見、戦った訳だが、全く記憶が無いと言う事だ。事の真相を明らかに出来るのは、ヴィーナスだけだった。

最後にサンから報告があった。C国の国家主席がお礼を述べたいと言って、忍びで八角龍の全メンバーを自宅に招きたいそうだ。リスクを考えて三人ずつの訪問を考えているらしい。ネプチューンからは本人の辞退があり、今回の訪問には参加しないと言う報告も追加された。


国家主席の自宅訪問の朝、ヴィーナスがようやく姿を現した。その顔には満面の笑みが零れている。

「見て~や!出来たで!マーキュリーの必殺刀や!鋼鉄の鋼の強さと粘り、ほんでジルコニウムを薄く削ってコーティングした刃や。未だあるで!先端と鍔の間にレーザービームを張って、殆どの物を切る事が出来るようにしたんや。やっぱり、あたいは天才や。これで悪い奴らにも対抗できるで。あたいの武器も現在作成中や。もう、あんな奴らに負けへんで!」

ヴィーナスは、必殺刀の先端に電源を入れ、レーザービームを起動させた。そして、本部玄関の横に日本庭園の趣を出す為の存在感がある大きな岩めがけて一振りした。その岩は音もなく真っ二つに切れ、切り口は綺麗な状態で口を開いていた。チームの全員がその光景を見て鳥肌がたった。これをマンティスに渡して良いのだろうか?誰もが思った疑問である。だが、マーキュリーは気に入ったらしく、直ぐに自分の背中に紐を通して掛けるのだった。彼女がマンティスに変わった時、恐ろしい光景が予想された。彼女の最終兵器にしておこうと、皆が考えたのだった。


エピローグ


1.

ラドンは、研究室にいた。その手に持っている小さな透明の容器を眺めていた。

「これが、世界を破滅させるウィルスか?ようやく出来たのか?」

「はい、ラドン様。我々研究チームが総力を挙げて開発したウィルスです。元はC国の湖北省B市近郊の豚の体内に有ったものです。それに二千年前に流行ったコウモリ型ウィルスの情報なども解析しました。その二つを掛け合わせ、コウモリと豚のDNA情報を持ち派生したタンパク質からRNAゲノム解析をした結果出来上がったものです。このウィルスの特徴は、最初は弱い症状しか人間に影響を与えることしかできないのですが、時間と共に変異し、変異次第では致死率がMARSを超えエボラ熱以上になります。後は天に任せるのみです。」

「ワクチンや治療薬はあるのか?」

「ハイ、最先端のゲノム解析とバイオテクノロジーの研究で、ナノ粒子をドラッグデリバリー(薬物送達)出来る事に成功しました。そこから、メッセンジャーRNA(mRNA)を人工的に製造できるようになったのです。つまり、ワクチンが作れるのです。ウィルスが変異しましても、ゲノム解析をする事により、対応出来るワクチンを随時製造できます。アメリカの科学者の論文から参考にし、金でその科学者に試作品を作らせました。人体実験の結果良好な結果も出ております。」

「よし、ではまずテストを総統にしてみよう!総統用に、変異した末期段階の強いウィルスを特別に作ってくれ。確実に死に至らしめるものだ。」

「仰せの通りに、ラドン様。次期総統はあなた様です。その時は私のチームを御贔屓にお願いいたします。」

「よし、よし、任せておけ!私が総統になった暁には、このウィルスを世界にばら撒いてやる。そしてワクチンでひと儲けだ。無用な者を排除でき、且つ莫大な利益を得る事も出来る。一石二鳥の代物だ。組織の経済力を高め、もう一度世界征服だ!準備せい!」

「ハッ!」


2.

サターンが急ぎ足で本部最上階にあるサンの個室に入室した。先ほど、本部内インターコムで連絡を貰い、緊急案件の相談があるからと言われた。その数分後、サターンが来室したのだ。

「サン。ヴィーナスの検査結果を見て下さい。彼女には異常なしと伝えましたが、驚愕の結果が出たのです。」

何時もなら、鷹揚でゆっくりとした言動なのに、余程興奮していると言える。サンは、サターンの異常な行動に驚いている。

「どうしたのですか、サターンさん。何時ものサターンさんらしくないですよ。」

「見て下さい。この診断結果を。私の診断では納得がいかないのです。そこで、サンにも意見を聞きたいのです。」

「私は医学の知識は余りありません。サターンさんに相談される事は光栄ですが、果たして期待されるほどの結果を言えるでしょうか。」

サンが答える前に、サターンは資料をテーブルの上に放り投げた。そして、付箋紙が張ってあるページを開くと同時に、興奮気味に口を開いた。

「簡単に言います。ヴィーナスは宇宙人です。」

余りにも唐突な話題だったので、絶句した状態で、2人は見つめあったまま数分が過ぎた。ようやく我に返り、サンはかぶりを振りながら返答した。

「何を言っているのですか。彼女は列記とした日本人ですよ。大阪弁の上手い天才少女です。目から光線など出しませんよ。」

「違うのです。見て下さい、この資料を。」

そう言いながら、サターンの女性のような細長い指が、カラーで印刷された螺旋状の紐らしき図を示した。

「これが、彼女のDNAです。普通の人間DNAは、アデニン、グアニン、シトシン、チミンの4つの塩基からなり、その組み合わせが2重螺旋構造をなしています。ですが、彼女の場合、4重らせん構造になっており、塩基類も我々の知らない構造の物があるのです。基本的な4つの塩基類と、他に未知の塩基類が4つあります。合計8つの塩基類の組み合わせで4重螺旋を成しているのです。ですから我々の科学では彼女の身体を解明できる事は不可能です。もし、彼女が病気になっても、治療は難しいと言う訳です。」

「本当ですか。」

サンは、未だ理解出来ない状態のままだ。話についていけないのだ。それを察してサターンは話を続けた。

「そうです。事実です。サンは、彼女の生い立ちを知りませんか。親や兄弟などの情報など。」

「いいえ、知らないですね。申し訳ありません。彼女は1人だと言う事しか知りません。母親は勿論いらっしゃいましたが、今は何処でどうしているのかも知らないと彼女は言っていました。兄弟もいません。天涯孤独だと言っていましたよ。父親は存在しないとか。訳の分からない事を言っていました。一度、戸籍を当たって調べる必要がありますね。彼女の親や祖父母などを特定しないといけないですね。前代未聞ですよ。ですが、サターンさん。公表はダメですよ。彼女に知られる事もダメです。彼女は、か弱い女性ですから。これ以上、彼女に重荷を背負わせたくないのです。ようやく精神的に立ち直りだした時ですから。よろしいですね。」

「了解です。充分、承知しております。」

サターンは答えた。やはり、このチームのメンバーは何かの繋がりがあるに違いない。アースの後頭葉に張りついている謎の有機体。ヴィーナスのDNA。もしかすると、ユーラナスの多肢症やマーキュリーの3重人格もそうなのかもしれない。疑問は深まるばかりだ。サンもサターンも、大きな疑問を背負う事となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ