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箱入り最恐サキュバスは精を搾らない  作者: 氷水
最強のサキュバス外の世界に出る
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サキ無双と他力本願


「じゃ早速、サキ君!」


「かしこまり!」


 俺は頭の中で想像をしながら手のひらで魔力を練っていく。


 想像するは初めて会ったワドさんから受けた、あの魔法。


 絶対的ですべての魔を滅さんとばかりの強大な人類の希望の光。その光が堕天して闇に堕ち、希望から絶望に相転移。


 生きている物すべてを包み込み、死という概念こそを絶対とする黒い柱!


 自分でも分かる今まで練ったことが無いような魔力が手のひらに集束していく。思わず制御が効かなくなりそうだが、男だろうが女だろうが度胸が大事! 頑張って踏ん張る!


 これこそはまさに絶望、そして人類の希望! 


「必殺、ワドさんの見様見真似神聖魔法、暗黒魔法版!」


 俺は叫んで魔力が集束した両手を前に突き出し、敵の軍勢のど真ん中に発動地点を設置。


 獣の軍団の下に黒い魔方陣が描かれていき、――刹那、真上から邪神の天罰ともいえる黒い柱が突き刺さる。

 辺り一面に漆黒が彩られ、まるで隕石が落ちてきたかのような衝撃。


 全身を突き抜ける風はどこまでも振動して波状となり、支えが利いてない鎧を着た冒険者を片っ端から吹っ飛ばす。


 立ち昇る暗黒の柱からは火の粉が飛び散るかのように闇が放たれ、運悪く当たった獣を、死を自覚させることなく粉にして、天に上るように消滅させていく。


 闇は一つに収束して納まり、最後に残ったのは強大な穴と無。

 砂埃もすべて消滅しているところはまさに消滅の闇魔法だな!


 ここまで災害が起こっているが、幸いにも味方の陣営には何の被害も出てないようだ。運がいいなぁ!


 そして俺の足が震えだし、力なく片膝をつく。全身から汗が吹き出し、濡れた服と髪が肌にまとわりついてきて気持ち悪い。下に来ている物も、服が白いせいか浮き出てきている。

 全速力で1200メートルを10回も走った時のように息が乱れ、肩も乱雑に上下する。

 

 こっれは、久しぶりに魔力を全消費したかもしれないな。そして、こんな魔法を撃っても疲れどころか普通に魔法を撃ってくるワドさん、流石です!

 ほんと、よく耐えれて、この場で膝を、付けることが、出来た……よな、俺!


 隣のワドさんは聖騎士達に「進めぇ!」と大声で指示を出す。それに釣られたのかは分からないが、冒険者達も大声を出して獣の群れに突貫していく。


 さぁ、さぁ、ここからが大見せ場! 俺も開戦じゃあ! ……のその前に、


「ワドさん、予備の服とか持ってません? すごい気持ち悪いんですけど」


 俺はその場で、そのまま風呂に入ったんじゃないかと思うくらいびしょ濡れになった服を脱ぎ捨てる。勿論下もだ。

 そこから下着姿になった俺は、青年から貰った小さな収納袋から禍々しさを前面に押し出している鎌を取り出し適当に振る。今の力は大体、本調子の1000分の1くらいかな。かなり体が重い。


 ああ、なんか団扇のようになって風が涼しい。


「悪いけど流石に服は持ってきてないかな。え~と、う~ん、私が今着てるシャツでも着るかい?」


 困ったような表情のワドさん。


「ああ、困らせているようならいいです。このまま戦ってきます」


 俺は下着姿のまま鎌を持って飛び降りようとすると、


「待ちなさい! ほらっ」


 と投げ渡されるきれいで乾いてる上下そろった無地の服。サイズはあってなく、かなりぶかぶかだ。


「恥じらいが無いところは、まさにサキュバスと言ったところね」


 と頭を押さえて嘆息する、会議の時にいた一部分がデカい女性。


「あ、ありがとうございます!」


 早速とばかりに俺は服にそでを通し、聖騎士の幹部たちがいる方に振り向き、 「じゃ、行ってきます!」と頭に手をビシッとミノがやっていた、け い れ い 、と言うやつをやってから、再び壁の上から飛び降りる。


 さ~て、獣はかなり削れたな。だいたい千はいたけど、今は三百くらい? 

 ま、どうでもいいか。どうせ全部死ぬんだから。


 俺は自分専用の場所まで走っていき、押し寄せる獣の首を鎌を振り上げ斬り捨てる。


 頭が無い首からはきったねぇ鮮血が吹き、それを浴びた鎌が妙に喜んでいるような。なんか赤さが増して刀身が黒いのも相まって赤黒くなっているような気もするが、気のせいだろう。


 俺はさっさと獣を切り捨てると、次、また次と、伝承に出てくる死神のように慈悲なく首を跳ね飛ばしていく。

 

 フッフッフ、かいしゃくしてやるぜ、残らずな! あの人の国はこうやって殺されるとき、素直に首を差し出すのが普通、とか言ってたしな! まったく、恐ろしく死を怖がらない人間もいるもんだ。


 それに、魔法なんかなくっとも俺にはこの身体能力がある。


「ほらほら、かかって来いよ雑魚ども! すべて灰塵に消してやるぜ!」


 俺は全身を血まみれにしながら、鎌を首もとでトントンして、獣たちに向かって中指を立てて叫ぶ。灰塵といっても消滅どころか燃えてもいないが。


 ああ、何か快っ感! さてミノの方はっと。


 おお、二人、いや三人か? 三人一組になって連携して獣を着々と倒してる。ミノが誰かと連携しているところって初めて見るな。盾で防いで剣で斬って魔法を撃って。


 その割に聖騎士って一人でサキュバスを倒せる実力が無いと隊長になれないんだよな。それなのに普段は連携するって……。これを、矛盾、って言うんだろ。


 冒険者達の方も大丈夫そうだなっと、俺はよそ見をしているところを狙って背後から襲ってきた獣の胴体を一刀両断。


「斬り捨てごめん! ってね」


 そろそろ俺の所はいなくなってきたな。確か全員倒し終わったら聖騎士に参戦すればよかったんだよな。


「じゃ獣たち~、歯、食いしばれよ、痛いから! いやどっちにしろ死ぬけどな!」


 俺は残った獣を殲滅するために行動を開始する。


  *  *  *



 これで終わり。


 俺は最後の獣を切り捨て、言われたとおりに聖騎士の所に移って無双を開始する。

 流石聖騎士達というべきか、それとも事前にワドさんから聞いていたのかは分からないが、いきなり入ってきた俺に驚くことなく獣と対峙している。

 ちょっといたずらがてらミノの所に、


「ええ~! なんでこんなにやられているの!」


 と、明らかに戦場に場違いな子どもの拗ねた声が空から聞こえてくる。


 俺がそこに目を移すと、赤く短い髪と瞳に俺くらいの背丈、決して美人系ではなく、もしミノとかの男子が見たら思わず歓声を上げたくなるかもしれないほどの可愛さ。


 そんな女の子が俺と同じ尻尾と翼を生やし、両手を上げて口元を膨らませながら見下ろしていた。


 ああ、……こいつか。サナの村を襲ったサキュバスというのは。


 魔法の疲れを忘れさせるには十分なほど、体の芯から冷えていく感覚。


 聖騎士達は彼女が出てきたところから何人かが目を奪われ、何人かが関係ないとばかりに獣を切り倒し、何人かが町の壁の方まで走って逃げだす。


 そんなまとまりがない聖騎士達が一つとなる瞬間が訪れる。


「え~い! みんな、欲望をさらけ出しちゃえ!」


 と、赤毛のサキュバスが一言を発すると、聖騎士達の動きが変わる。

 それぞれが胸のあたりを押さえ苦しみだす。


 ……ああ、淫魔法か。残念だけど、淫魔法って同じサキュバスには効かないんだよね。


 俺は脚力で地面を切り上げて飛び上がり、いまだ呑気に笑ってやがるビッチの脳天に鎌を振り下ろす。

 まさかこの状態で攻撃が来るとは思ってなかったのかは分からないが、あほみたいな表情をさらけ出して地面に墜落するビッチ。


「えっ? 何で効いてないの? ほらあなたも!」


 慌てた様子で再度試みようとしているようだが、


「効かねぇよ、んなちんけな淫魔法。それよりどうした、さっきまでの余裕な態度は」


 俺は地面に降り立ち中指を突き立て、ビッチまで歩いてく。


「なんで、なんでなんでなんで! 私の淫魔法は里の中では結構上位なのに!」


 そうか、上位程度か。俺なんて一番上だぞ、しかも魔法って想像力で発動する奴だから、一番あれが強いとか噂されてたし。

 ……全部魔力のごり押しだがな。


「こうなったら、みんなぁ! 私を守ってくれたらいいことするよ!」


 とビッチは立ち上がり赤眼を何処までも明るく光らせ、魅了眼を発動する。

 近くにいて不幸にもその目を見てしまった男子たちは、とろんと感情を写さない虚ろな瞳に変えていく。


 だがその中で、一人だけ目に絶対的意思を宿し、頭に手を置いている男が立っている。



 ――ミノだ。


 

「ハァー、頭が前間違えて酒を飲んでしまったかのように、思考が定まらなくて気持わりぃが、多分これ魅了眼か?」


 何でなのか本当に分からないのか、両手を振り下げひどく困惑した様子のビッチ。


「なんでなんで! なんであなたも効いてないの!」


「あいにく、俺はどっかのクソサキュバスのせいで魅了眼はくらいまくってんだよ! この程度、あいつのに比べたら軽いどころか気にもならない。むしろ、興奮することが無くて楽になった」


 へぇ~、あいつは俺の事をクソだと思ってたのか~。

 そうかそうか、今度サナに無理やり買い物に行くよう頼み込もう。大丈夫、女子は買い物好きだろうし。あいにくマリアはこの前稼いだばかりだ。

 何であんな見て回るだけで結局何も買って行かない行為が好きなのか。理解出来ん。


「でもでも、私の魅了にかかってないのは、あなたとあなただけ! みんな私を守って!」


 そう、ビッチは俺とミノを指さし叫ぶ。

 まるで、伝承に出てくるアンデッドのようなフラフラとしてゆったりな動きで、ビッチを囲う様に立ちはだかる聖騎士達。特A級の魔物と言われている理由が良く分かる。

 そんな絶望的な中、ミノはただ不敵に笑い首を振る。


「そうか? そうでもないのが俺達聖騎士だ!」


 ま、流石にこうなったら黙ってませんよね!


 ワドさん達!


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