獣の軍勢
外はまさに、お祭り騒ぎといった方が良いほどにぎわっている。外は絶好の雲一つない快晴、思わず外に出るとき手で頭を仰いだほどだ。
町の壁の外では、三方向から迫ってくる獣を対処するために、一方向は聖騎士たちがまるでアリのように規律よく列を作っていており、ミノもその中に入っているのが見える。
あの中に入ると、完全に有象無象って単語がよく似合うな! 群れる人間らしい。
指揮はワドさんが取っているようで、壁の上に立ちながら大声で指さし列を乱さぬよう指示を出し、頑張っている。
なんかワドさんは、キ リ フ ダ って言う、聖騎士達が危険になったら参戦する役とか言ってたような……。それまでは、若い人を育てるとも言ってたっけかな。
またもう一方向は依頼を受けた冒険者達が雄たけびを上げながら、手に持っている武器の剣や斧や槍を天高く上げている。
あれ面白そうだな! オオオォォ! なんてね。
どうせ斬っても、彼らじゃ大した威力は出ないんだろうな。
あれは、ワドさんとギルが異常なんだ。うん、きっとそうだ。実際、ミノ何てめっちゃ弱いしな。……精神は異常なほど強いけどさ。
おっ! よく見ればフィーもいる! ヤッホーとばかりに手を振ってみるが、集中しているのか全くこっちに反応しない。気づいてないな、あれ。
そして~、最後の一方は俺担当!
サキュバスだから戦力は一人で十分でしょ、を現すかのように、嘘みたいにそこだけ閑散としている。これって確か、店の中だと、 「閑古鳥が鳴いている」って言うんだっけか。
ほんと酷いよな聖騎士の幹部達も。まさか俺の所だけ一切の手助け無し。
そして開戦前に全方向に向かって暗黒魔法を撃てとか、どんだけ酷使するつもりなんだか。
――ま、男ならそういう時燃えるものだ! そう、教わったからな!
さて、今の俺の位置はワドさんと同じ、天高くそびえたつような壁の上にいる。アッハハハ! なんか偉くなったみたいだ。
開戦前にミノに何か言っておきたいが……、ああも隊列が乱れてないとな。
「あの、ワドさん? ミノに挨拶しに行っていい?」
俺は、両腕を組んで威風堂々が似合う仁王立ちをしているワドさんに、首をかしげて訪ねてみる。
「そうだな、ま、発破をかけるような事なら行ってきていいよ! 隊列を崩さないようにする事と、翼と尻尾を出さないようにね、サキ君」
「やったぜ!」
俺は思わず、胸のあたりで小さくガッツポーズ。
さて、早速あいさつという名の、発破をかけに行きますかね!
俺は壁にかけてある梯子を無視して、壁から勢いよく飛ぶ。
そのまま俺は、下に引っ張られる力に逆らわず自由落下していき片膝をついて、火魔法で爆発を起こしたような大きな音と、砂埃を巻き上げて草原に着地する。
俺の行動に、周囲の人はなぜか漠然と表情で見てくるけど気にしな~い、気にしない。
それと同時に俺は走り、堅苦しく歩いているミノのもとに行く。
「ヤッホー、ミノ! 元気元気?」
いきなり目の前に俺が来たためか彼は堅苦しい表情と姿勢を崩し、ひどく驚いた態度をとる。見れば他の人も驚いた態度を取っているけど、やっぱり気にしな~い。こういうのは気にしたら負けって言うしね。
ああ、なら獣を気にしてる俺は既に負けているのか。アハハ。いやそっちよりもサナの軍資金集める方を気にしますけどね、俺。頑張らないと。
「ちょっ何でお前がこっちにくんだよ! お前はあっちだろ!」
そう言って閑散としている場所を指さすミノ。
酷いねぇ。せっかく来たのにこの態度とは。フフフ、そう言ってられるのも今のうち、だぜ。
「どっちが多く倒せるか勝負しよう、ぜ」
「そんなこと言ってる場合か! これは生死がかかってんだぞ!」
おうおう、サキュバスに生死がかかってるというなんてな! アッハハ、ま、俺はそう言ううすら寒いギャグを言うあいつらがだいっ嫌いなんだがな。
見つけたらぶっ殺してやる。それか地獄を見せてやる!
「おいどうしたサキ、いきなり怖い顔をして」
俺は両手を頭の上に置き、何でもないとばかりにニット笑顔を作る。
「いや何でも、しいて言うなら、サキュバスが絡んできているかもしれないと考えてしまってな」
「ああそうだ。俺はあいつらを倒して」
そう真剣な表情で意気込み始めるミノ。今のお前の実力じゃ、到底無理だがな。精々いい家畜として飼われて終わりだろう。そうならないようフィーかサナにも頑張ってもらわないとな。
「そうか、がんばれよぉ! じゃあな!」
と俺はまるで何かの嵐のようにワドさんの元に戻っていく。背後から、 「おいミノ! 誰だあの美少女は!」とか聞こえるね!
アッハハハ、体はどうあれ、俺は男だ!
それだけはあの時から絶対に変わらない。あの周りとは違うサキュバスの俺を、救い出してくれた男性と話した時から。
――あの人、元気にやってるかな? まだ生きてるといいな!
「いい発破、かけてきたかい?」
そんな俺にいつもの優しい表情で尋ねて来てくれるワドさん。
「う~ん、俺なりにはいい発破かな?」
「そうかそれは……どうやら来たみたいだな」
ワドさんは優しい表情から一転、聖騎士の隊長としての凛々しい表情に変わり草原に目をやる。
「おっ、そうだな!」
俺もワドさんに釣られて草原の方に目を見張る。
ズシンズシンと聞こえる、草原を踏み荒らす不届き物の足音、一つ一つは小さいが、そのすべてが重なって収束するようなうるさい咆哮。
砂埃何て、巻きあがりすぎて砂嵐になっている。
その砂嵐から徐々に姿を現していく二本の角を持った昨日討伐した奴、顔がイノシシに似ている斧を持った巨体、醜悪な顔つきをしている小さいが数はいっちょ間にそろってる子どものような奴。
アッハハ、あれはたしかに軍勢だ!
「さぁ、魔物の軍との戦争だ」
この光景を目にしていたワドさんが、小さくそう口にした。




