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放浪王子と引きこもり姫の追放社不結婚  作者: 熊出
第十二章・父親期ミルド国奪還編

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(……兄の剣だ)

 対峙する。


「槍を捨てろよ」


 相手は剣一本を振り回しながら挑発するように言う。


「御免だね。身体能力が違いすぎる。これぐらいのハンデは許して欲しいもんだぜ」


 俺は冷静だ。

 高速移動、跳躍時に軌道変更に使うこの紐のついた槍は俺の必須装備だった。


「そうかい」


 そう言って、相手は剣を構えた。

 静かだ。

 水のように。


 悲鳴と怒号が飛び交う砦攻めの中で、俺と彼の間だけに静かな時間が流れている。


(……兄の剣だ)


 そう思って、内心震えた。

 兄に勝てたことは一度もない。

 兄が降参したのは、俺が策謀を使えば倒せると示したから。

 そう、俺のギフトは策謀。


 タイマン用のギフトではないのだ。


 ならば、魔術師同様に。

 速度で押し切る。


 俺は腰を落とし、剣を水平に構えた。

 相手は目を丸くする。


「大したものだ」


 駆ける。

 空間を湾曲せんばかりの勢いの突進。

 剣で斬りかかる。

 相手はそれを、弾いた。


 俺の体は後方へと吹き飛ぶ。

 槍を地面に突き刺して踏みとどまる。


 これが人外の力。


 相手が追いかけてきている。

 剣が振り下ろされた。


 糸を引く。体が槍の方向へと飛ぶ。

 剣がさっきまで俺のいた場所へと突き刺さった。


 槍を握って投擲する。

 それと同時に、頭上から槍が降り注いだ。


「ガイエル!」


 唱えて、相殺する。

 ガイエル、魔法殺しの式。

 青い壁に阻まれて赤い槍は消失していく。


 詰んだ、と思った。


 相手は追撃の姿勢。

 天然の身体能力が違いすぎる。

 俺は天に手をかざしている。


 無防備だ。

 その時、ギフト策謀がひらめいた。

 突進してくる相手に、自らぶつかった。


 剣を出される前に、ぶつかった。

 俺は吹き飛び、地面に刺した槍も地面からすっぽ抜ける。


「剣だけでやるんじゃなかったのか!」


 俺は叫ぶ。


「先に槍を持ち出したのはお前さんだろ」


 そう言って、相手は宙に浮かんだ。

 無限の槍、浮遊能力、身体能力。

 それに対して、こちらが有利を取っているのは頭脳のみ。


(リヒエルの時もそうだったが……ハイラルの仙人戦以上の劣勢!)


 しかし、ここを堕とせば王都へ進んだ際の背後の心配がなくなる。

 どうしても勝てなければならなかった。


(どうする、どうする)


 とりあえず空中では不利だ。

 地面に向かって槍を投擲する。

 そして、俺は糸を引いて地面へと着地した。


「ガイエル!」


 槍の雨が降り注ぐ。


(見出せ、勝機を見出せ!)


 俺は必死に頭を回転させた。

 こんな時こそ、俺のギフトが役立つ時だ。



+++



「のどかだね、アイリン」


「この辺りは陛下が平定されましたからね。しかし、異形はいつどこから現れるかわかりませぬ。いざと言う際は私が足止めするので、お逃げください」


「んー? アイリン姉は俺が守るよ」


 こうなってはアイリンも形無しである。

 実力的にはこの十も及ばぬ子に負けているのだから仕方がない。


「リア嬢との逢瀬は続いているのですか」


 レッドは途端に無言になる。


「リア嬢に誇りたくて武勲を立てたいのでは?」


 アイリンは揶揄う。


「違うよ、陛下の役に立ちたいんだ!」


 レッドは必死になって言う。

 まったく、まだまだ子供だ。

 生命のやり取りを知らない。

 王宮ではトップの実力。


 初陣前の怖いもの知らず。


(……ふむ)


 案外この子は失敗せずに進むのかもしれない。そう思った。

 自分が犠牲になって失敗を刻むのならば、それはそれで一つ。

 上司に懸想してしまった自分の罰だと思うのだ。


「殿下は守りますよ。私が命に変えても」


「アイリン姉も生き残ってね」


 ぎくり、とする。


「二人で生きる道を探そう。それが一番だ。死ぬつもりでいたら本当に死ぬよ?」


 この、相手の内心を突く能力。


(……陛下とミリィ様の子だ)


 苦笑まじりにそう思った。



つづく

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