(……兄の剣だ)
対峙する。
「槍を捨てろよ」
相手は剣一本を振り回しながら挑発するように言う。
「御免だね。身体能力が違いすぎる。これぐらいのハンデは許して欲しいもんだぜ」
俺は冷静だ。
高速移動、跳躍時に軌道変更に使うこの紐のついた槍は俺の必須装備だった。
「そうかい」
そう言って、相手は剣を構えた。
静かだ。
水のように。
悲鳴と怒号が飛び交う砦攻めの中で、俺と彼の間だけに静かな時間が流れている。
(……兄の剣だ)
そう思って、内心震えた。
兄に勝てたことは一度もない。
兄が降参したのは、俺が策謀を使えば倒せると示したから。
そう、俺のギフトは策謀。
タイマン用のギフトではないのだ。
ならば、魔術師同様に。
速度で押し切る。
俺は腰を落とし、剣を水平に構えた。
相手は目を丸くする。
「大したものだ」
駆ける。
空間を湾曲せんばかりの勢いの突進。
剣で斬りかかる。
相手はそれを、弾いた。
俺の体は後方へと吹き飛ぶ。
槍を地面に突き刺して踏みとどまる。
これが人外の力。
相手が追いかけてきている。
剣が振り下ろされた。
糸を引く。体が槍の方向へと飛ぶ。
剣がさっきまで俺のいた場所へと突き刺さった。
槍を握って投擲する。
それと同時に、頭上から槍が降り注いだ。
「ガイエル!」
唱えて、相殺する。
ガイエル、魔法殺しの式。
青い壁に阻まれて赤い槍は消失していく。
詰んだ、と思った。
相手は追撃の姿勢。
天然の身体能力が違いすぎる。
俺は天に手をかざしている。
無防備だ。
その時、ギフト策謀がひらめいた。
突進してくる相手に、自らぶつかった。
剣を出される前に、ぶつかった。
俺は吹き飛び、地面に刺した槍も地面からすっぽ抜ける。
「剣だけでやるんじゃなかったのか!」
俺は叫ぶ。
「先に槍を持ち出したのはお前さんだろ」
そう言って、相手は宙に浮かんだ。
無限の槍、浮遊能力、身体能力。
それに対して、こちらが有利を取っているのは頭脳のみ。
(リヒエルの時もそうだったが……ハイラルの仙人戦以上の劣勢!)
しかし、ここを堕とせば王都へ進んだ際の背後の心配がなくなる。
どうしても勝てなければならなかった。
(どうする、どうする)
とりあえず空中では不利だ。
地面に向かって槍を投擲する。
そして、俺は糸を引いて地面へと着地した。
「ガイエル!」
槍の雨が降り注ぐ。
(見出せ、勝機を見出せ!)
俺は必死に頭を回転させた。
こんな時こそ、俺のギフトが役立つ時だ。
+++
「のどかだね、アイリン」
「この辺りは陛下が平定されましたからね。しかし、異形はいつどこから現れるかわかりませぬ。いざと言う際は私が足止めするので、お逃げください」
「んー? アイリン姉は俺が守るよ」
こうなってはアイリンも形無しである。
実力的にはこの十も及ばぬ子に負けているのだから仕方がない。
「リア嬢との逢瀬は続いているのですか」
レッドは途端に無言になる。
「リア嬢に誇りたくて武勲を立てたいのでは?」
アイリンは揶揄う。
「違うよ、陛下の役に立ちたいんだ!」
レッドは必死になって言う。
まったく、まだまだ子供だ。
生命のやり取りを知らない。
王宮ではトップの実力。
初陣前の怖いもの知らず。
(……ふむ)
案外この子は失敗せずに進むのかもしれない。そう思った。
自分が犠牲になって失敗を刻むのならば、それはそれで一つ。
上司に懸想してしまった自分の罰だと思うのだ。
「殿下は守りますよ。私が命に変えても」
「アイリン姉も生き残ってね」
ぎくり、とする。
「二人で生きる道を探そう。それが一番だ。死ぬつもりでいたら本当に死ぬよ?」
この、相手の内心を突く能力。
(……陛下とミリィ様の子だ)
苦笑まじりにそう思った。
つづく




