第14話「双子」
孤児院に行く前に、例の村の焼け跡を覗きに行った。
この間、この近くに来てはいたのだが、用事が用事だったので、終わるなり直帰した。だからここに来るのは初めてだ。
「はは。ほんとに燃えてら。消し炭じゃん」
「間違いない。バンガルシアはここで何かと戦ったのだな。村全体を燃やすことになるほど凄まじい何かと」
ヴァローナはそう言った。
どうだろうな。最近のバンさん、自己矛盾に耐えられなくなってきてたから、シンプルに魔女を庇ってたか何かで村焼いたんじゃないかな。
とは思う。
「……これ」
ヴァローナが何かを見つけたようだった。
村の近くの林に、何十個も盛り上がった土の上に石が置かれている。自然物ではない。見るからに誰かが作ったものだ。
……墓のつもりか?
誰が何の目的で?
まぁいいか。近隣の村のやつが作ったとか、そんなところだろう。
「もしかしたらって思ってきたけど……あんまり手がかりは無さそうだな」
「……そうだな。やはり、その生き残りの子供に話を聞くしかない。せめて能力の詳細でもしれたら上々だろう」
「にしてもラッキーだよな。その子供。バンさん殺すレベルのやつから逃げ切れるなんてよ」
「……そうだな」
***
「大体どの魔女も、魔法陣を書いた何かしらの道具を身につけて魔法陣を描くことを省略してるのよ」
ノワールがそう言って、ひらっと自分の服をまくりあげた。下着になにかの魔法陣が書かれている。
「風の魔法の魔法陣が必要ってこと?」
「そう。それを常に携帯できるものに書いとく」
「で、その魔法陣ってどんなの?」
そう聞くと、ノワールは万年筆でサラサラと紙に紋様を書いていく。
30秒ほどして、それらしい形のものが出来上がった。円の中に卍のような紋様が描かれている。
思っていたよりシンプルな形だ。
「これが基礎ね」
ノワールが言った。
「基礎?」
「そう。基礎。これはあくまでも風の精霊に呼びかける魔法陣。この外枠にどういう動作をさせるかの古代文字を並べて更に円で囲うのよ」
なるほど。
「ちなみにどんなのがあるの?」
「うーん……まぁ簡単なのでいえば、風の刃を飛ばすとか、相手を吹き上げるとかそんなものか知らね。上級者になってくると風の鎧とか剣とか作るんだけどね」
「魔法陣を書いて詠唱するだけなのに上級者とかって差が出るんだ」
「出るわよ。そりゃ。あなただってやったでしょ?風の精霊を感じる訓練。あれは厳密には風の感覚を掴むものなの。なんて言えばいいかしらね……イメージをしっかり定着させるものなのよ」
ノワールが続ける。
「だから、慣れている人間程魔法の扱いが上手くなる。経験からより深い感覚へと染み込んでいくから」
「……なるほど。経験が少ない魔女ほど、より原始的な形の魔法しか扱えないって事ね」
「そう!そういうこと!」
「……なら私が今学ぶべき風の魔法の形は?」
「やっぱり、さっき言った風で相手を切るやつと浮き上がらせるやつかしら」
「分かった。その魔法陣の書き方と詠唱を教えて!」
「がってんしょうち!」
そう言ってノワールは力こぶを作る真似をした。
***
件の孤児院に着いた。
ここに、あの村の生き残りがいる。
聞けばまだ12の子供だと言う。その歳で親も親しい人も村も無くして……一体どんな気分だろうか。想像もできない。
ライトがズカズカと孤児院に入っていく。
この同僚は、いつも思うがなんとも自分勝手な節があるというか、自分の尺度で生きすぎている節がある。
「お邪魔します」といって、少し背をかがめて私も中に入る。
「ヴァローナ。この子らだ」
視線の先に、小さな男の子と女の子、そしてライトの姿がある。
二人は少し、怯えているような感じがした。
私はしゃがみこんで、目線を合わせなるべく優しくて言った。
「ごめんね。突然のことで怖いよね。でも、お姉さん達は君達の村を襲った犯人を探してるの。悪〜い魔女なんだけど、何かみたりしなかった?どんな事でもいいの。思い出すのは辛いと思うけど……話してくれると嬉しいな」
二人は顔を見合せて、男の子の方が私を見て言った。
「実は……僕達、その……見てないんです。あの日、アタナシアお姉ちゃんが煙を見て、火事だと危ないからって僕らを残して……だから、見てないんです。今でも……パパやママが死んだってのも実感がないくらいで」
……そうか。この子らは村にいなかったから、バンガルシアと魔女との戦闘に巻き込まれず、助かったのか。
「でも、アタナシア姉ちゃんなら何か知ってるかも。僕ら1回、変な魔女に攫われて……その時もアタナシア姉ちゃんが助けてくれたんだ!」
「待って……生きてたの?そのアタナシアって人」
村を見に行ったなら確実に巻き込まれているはずだ。
「うん。でも……戻ってきた時、すごいボロボロで……見たことの無い黒いローブを羽織ってた。それで、『私のせいで村が』とか言ってたよ。全くなんのことか分からなかったけど」
……。間違いない。おそらくそのアタナシアとかいう女の子が。
いや。でもおかしい。
それだと、バンガルシアは魔女を見つける前に村に火を放ったことになる。
……どういうことだ。危険な魔女を捕らえに行ったのではなかったのか?
この子の話を聞く限り、危険な魔女だなんて到底……。
「そのアタナシアってのはどこに?」
ライトが聞いた。バンガルシアの行動に不思議そうな様子すらない。
「……分からない。僕らをここに置いて、どこかに行っちゃった」
「……そうか。話してくれてありがとうな。ボウズ」
そう言ってぽんぽんと、彼は男の子の頭を軽く叩いて出口へ向かった。
「待て」
そう言って彼の後を追う。
「待てって。なんでそう平然としてられるんだ。あの子らの話を聞く限り……バンガルシアは」
「知ってたよ。そうだろうなってくらいは予測してた」
「はぁ?なんで」
「なんでもかんでもないだろ。見るからに最近のバンさん、頭のネジ落っことし過ぎだったろ。いつかやると思ってたさ。今まで黒魔女ぶっ殺すだったのが、黒魔女を庇うやつまで広がっていってもおかしくないだろ」
確かに、あの男の子の話ぶりによれば、相当親しまれているようだった。
けど……それじゃあ
「それじゃあ、バンガルシアは罪のない村人まで手にかけたことになるじゃないか……!」
「あの人はそいつらを悪と見定めたんだろうよ。と言うか、罪のあるなしで言うなら魔女だってそうだぜ。古・原典主義じゃ魔女ってだけで悪なんだから」
それは……そうだが……それじゃあ……。
「俺たちはそれでも悪を定めなきゃなんないんだ。正義であるためにな」
揺らぐなよ。と、彼は言った。




