13 約束
ゆったりと湯殿からあがり、用意された服を着て、順番を待っているはずの女王に声をかける。
「陛下、あがりました」
「ああ…あっ!?」
こちらを振り返った女王と、ぱちりと目が合ってしまう。
《ちょっ…!お風呂あがりの無防備なアルヴィンとか、全私が待ち望んだ光景!目のやり場に困る!しかし見る!しっかり見させていただく!っていうか、見れば見るほど胸元がいい感じにはだけてる…色気どない?湯殿で色気に浸かって来られたんですか旦那様?》
「あ、ええと…何か着方を間違えているでしょうか。胸元が広く開いているようで気になるのですが」
「いや!いや…間違っていない。そんな簡単な服で間違えようがないだろう」
「そうですね」
女王は目を逸らし、赤い顔で「んん」と咳払いする。
「湯殿は気に入ったか?」
「ええ。ちょうどいい湯加減でしたし、石鹸からは陛下の香りがして、まるで陛下に包まれているような心持ちがいたします」
「んなっ…!?」
女王の赤い顔がますます赤くなった。
《包まれる!?それは私がアルヴィンを抱きしめる的な?それとももっと…二人の間に余計な布とかがない状態で密着した感じの…ああああああああ!だめ!考えるな、私!あああああ、でも考えちゃう!だめだめだめだめ!》
これは僕のせいなんだろうか。彼女がロマンチックと破廉恥のボーダーラインを超えてきそうなので、これ以上心を読まないよう、目を伏せる。
「それ以上馬鹿なことを言うな!そして近づくな!」
「かしこまりました」
「…入る」
「いってらっしゃいませ」
ウエスパシア帝国と違って、テム王国の貴婦人は一人で入浴するものらしい。女王は侍女もつれずに湯殿のドアをバタンと閉めた。
中から「ああああああ!」という叫び声が聞こえる。いつも心の声で聞いている叫びだが、これは現実の声だ。おもわず「ふふっ」と笑みが漏れてしまう。
「ふ、あ…」
今の今まで女王が座っていたソファに腰掛けると、思わず声が出る。
移動の疲れ。湯に浸かって温かくなった身体。満腹感。離宮にはなかったふかふかのソファ。
その組み合わせでついうとうとしてしまう。本当なら女王があがってくるのを待っているべきなのに。
だめだ、寝るなアルヴィン、さすがに失礼だぞ…
寝るな…寝ちゃだめだ…
だめ…
ーーー
「アルヴィン、寝ちゃった…?」
優しくて寂しそうな声が聞こえる。「寝ていない」と答えたいけれど、口が動かない。
「運ぶよ?」
背中と脚に腕が触れたと思ったら、ふわっと自分の身体が宙に浮く感覚がした。
《そりゃそうだよね。ずっとあの狭い離宮に閉じ込められてた人が、いきなりこんだけ移動したんだから疲れるって。こんなに軽いのにリトの無茶な食トレにも耐えて…おかげで今日は婆ちゃんに半殺しにされずに済んだわけだけど》
「よっと」
ソファよりさらにふかふかした場所に着地する。ベッドだろう。
《アルヴィンはすっごく無理してる。急に結婚することになっても、いきなり連れ出されても、文句ひとつ言わずについてきてくれて》
温かい指で、さらりと前髪が流される感覚。
《《《私は約束を守ったつもり》》だけど、アルヴィンからしたらどう考えたって政略結婚なんだから、夫婦一緒の寝室だって、本当は嫌かもしれないよね。なのに自分だけ盛り上がって馬鹿みたい。アルヴィンに好きになってもらいたいなら、もっとアルヴィンの気持ちとか体調を考えなきゃいけないのに…》
脚や腕に想像したこともないくらい軽くて柔らかい織物が触れ、僕を夢の世界に連れて行こうとする。
《これでいいんだ。私だってまだ、心の準備ができてない。彼に自分の身体を全部見せられる勇気なんてない》
意識が持っていかれる間際に、頬に温かい手が触れた。
《アルヴィン、無理やり連れてきてごめんね。でも絶対幸せにするから。約束するよ》
「ん…ありがとうございます、陛下…」
「ふふ、どんな夢見てるの?いつか本当に私に感謝してくれたら、いいな…」




