8 ※ 本作の登場人物は全て二十歳以上です。
「失礼しました。どういうグループ分けですか?」
混乱させてしまったことを詫びて、マイホーリーマザーに問いかける。
「あ、うん。まずお酒を飲んだことない人、飲めない人のグループ」
聖母は一番手近のブルーシートを示す。
「次に飲んだことないけど飲んでみたい人、飲んだことあるけど強くない人のグループ」
真ん中のブルーシート。
「最後にお酒が強い人のグループだよ」
一番奥のブルーシート。
「なるほど」
聖母の簡潔な説明に俺は頷き、
「先輩達はどのグループなんですか?」
肝心の確認をする。
「私? えっと、私は新人の子と話してみたいから全部回りたいなって思ってるけど、基本は一番奥かな」
いと尊き恥じらいを見せながら、聖母は奥の酒が強いグループのブルーシートを示した。
「私も同じだよ」
天使も聖母と同様の答えだ。
天の御使いである二人は、そのいと尊き御身に当然のことながらアルコールを含む毒物への耐性を備えているようだ。
「なるほど。では、俺もそこでお願いします」
一ミリの迷いもなく、俺は追随する。
「え? えっと、その嬉しいけど、本当に大丈夫? あそこのグループは本当に飲むと思うよ?」
あわあわと両手をわたわたさせながら、聖母は俺を気遣ってくれる。
おお、なんと慈悲深きことか。その慈しみに感動が涙となって溢れ出しそうだ。
「大丈夫です。田舎育ちなもので、鍛えられてきました」
俺は聖母の優しき心を安んじようと胸を叩いて保証する。
嘘ではない。別に好き好んで飲んでいたわけではないが、親戚のおっちゃんの首ホールドからのビール瓶口突っ込まれ事件は、物心付く前の幼き日の出来事でありながらもトラウマチックに記憶に残っている。それ以降も、親戚の集まり、夏祭り、〇校生の思い出ぽろぽろ、多少はアルコールに慣れ親しんできたつもりだ。
「そうなんだ。えっと、もう一人の君は?」
自信満々な俺の様子に納得したように頷いて、聖母はダサメンの確認に移る。
「お、俺も先輩方と同じでお願いします」
聖母を真っすぐ見ることもできない反応チェリー、残念ダサメンが真似をしてくる。こっち来んな、お邪魔虫が。
「き、君も? 二人とも本当に大丈夫?」
新入生が揃って酒飲みグループを選んだものだから、聖母は心配そうに俺達の身を案じる。くそ、このバカのせいで俺までとばっちりが。
「お前、本当に飲めるのか?」
ダサメンは見た目といい、おどおどした様子といい、勝手なイメージだがあまり〇校生までに酒を飲んでいたようなタイプには思えない。
「ああ。不本意ながら男子校で鍛えられたからな」
「それって関係あるのか?」
よくわからないダサメンの理屈に疑問が口を突いて出る。
「男子校にはな、男子校の法律があるんだよ……」
ダサメンは昔を思い出すように遠くを見つめた。
それはどこか闇を感じさせ、深く突っ込みづらい。特に興味もないし、憂い顔がダサメンのくせにイケメンな面に似合っててムカつくので当然スルーだが。
「とのことのようです」
聖母に向き直って俺はまとめる。
「そ、そっか。それじゃあ、二人とも奥のグループで待っててね」
一応ご納得いただけた様子の聖母の勧めに俺達は従う。
「それじゃあ、私も同じグループだからまた後でね」
「はい、お待ちしてます」
天使への心からの返事。かつて親戚の集まり等の強制イベントで飲まされる時は心躍らなかったのに、天使、聖母と飲めるとなるとまるで別物のように感じられてくる。
俺はアルコールに上気するマイエンジェル & ホーリーマザーの御姿を脳裏に思い描き、期待に胸躍らせながら一番奥のブルーシートに軽やかに足を運んだ。