9 肉塊二人
「お、一年が来たか!」「活きがいいな!」
即落ち一秒、後悔しかない。
奥のブルーシートで真っ先に俺達を歓迎したのは縦にも横にもデカい巨漢二人組。
片方はソフモヒゴリラを二倍にビルドアップしたような筋肉塊で、もう片方は脂肪の塊、肥満体。サイズ感がおかしく、気分はガリヴァー旅行記の小人。
俺にビールトラウマを植え付けたおっさんよりもサイズ感がデカいので、本能の危機感知センサーに従って逃走を検討するものの、
「どうした? 早く座れよ」
プロレス顔負け巨人タッグは邪気のないフレンドリー笑顔を浮かべているため、そうもし難い。そもそもここにはマイエンジェル&マザーが降臨する予定なのだ。撤退の二文字はない。
ええい、多少の命の危機がなんだというのか。
「失礼します」
気分は清水舞台ダイブ。意を決して靴を脱ぎ、俺はブルーシート上という名の戦場に足を踏み込んだ。
「おう。とりあえずビールでいいか?」
ビール腹というか樽腹先輩が、脇のクーラーボックスに手を突っ込みながら聞いてくる。
「はい! ありがとうございます」
マウス・トゥー・ビール瓶事件のせいで、ビールは正直得意ではない。ないが、戦場で背を向けることは死を意味する。正面から正々堂々戦うしかない。
サムライ ニンジャ ハラキリ!
「どうした? 座らないのか?」
筋肉祭り先輩の言葉に振り返れば、ダサメンはいまだに戦場の外で足踏みしていた。
フッ、チキンめ。関係も興味もないが、一緒に来たよしみだ。忠告くらいはしてやろう。
「どうやら新兵のお前にはまだここは早すぎたようだ。大人しく隣の安全地帯から始めるといい」
チキンダサメンにお似合い、隣のお試しシートを親指でクイクイと勧めてやる。
「アアン!? 新兵はお前も一緒だろうが!?」
イキリチキンが噛み付いてくる。まったく戦場に踏み込む度胸もないくせに威勢だけは一人前か。
「それはそうかもしれんが、同じ新兵でも出来の違いというものがあるだろう? お前にはまだこの戦場は早い。大人しく下の世界で訓練を積んでから出直すといい」
親切な俺は、物分かりが悪い新兵にやれやれと首を振りながらも懇切丁寧に説明してやった。
「上等だ! このダサメガネ!」
だというのに、なんだこの恩知らずバカ!
「アア!? 誰がダサメガネだ!?」
「お前以外にいるか! んだ、その黒フレームメガネ!」
「オオン!? フッツーのメガネだろうが! お前みたいに季節感も花見感もガン無視、TPO行方不明ライダー(笑)にダサいなんて言われる筋合いねえぞ!?」
このバカダサメン、何ぬかしやがる!
「誰がライダー(笑)だ! ダサメガネの分際で!」
「アア!? お前だ、お前! 鏡見てこい! コスプレしたバカが映ってんぞ!」
「オオン!? お前こそ見てこいや! メガネが本体みたいな太フレームしやがって! でっけーメガネのおまけが映ってんぞ!」
「アアン!?」「オオン!?」
バカの醜い怒り面を睨みつけ、俺達は額を突き合わす。上等だ、このハゲ。




