10 乾杯(純真)
「ホントに活きいいな、こいつら」「酒と喧嘩は祭りの華。存分にやらせよう」
「アホ言ってないで止めろ、バカ」
鞘当ての気を散らす外野を封じた声と打撃音に思わず振り返る。
見れば、肉塊先輩×2がさほど痛くもなさそうに揃って後頭部をさすり、その後ろで切れ味鋭いスタイリッシュ細メガネイケメンが呆れ顔をしていた。
「入学早々元気が有り余ってるようで何よりだよ」
振り向いた俺達に苦笑を溢しながら、シュッとした白インナーに黒ジャケット、ベーシックモノトーンコーデがお似合いの細イケメンは首を振っている。
「あ、いえ」
イケメンの存在感とそつない振る舞いに、冷や水をかけられたように冷静に戻される。
「仲が良くて何よりだけど、そろそろ全員集まったみたいだ。始めさせてもらうから、続きは乾杯の後にでもしてくれるか?」
「「は、はい」」
提案しているようでいて、有無を言わせない迫力と魅力に思わず俺達は揃って頷く。
「助かるよ。じゃあ、また後で」
颯爽と細イケメンは身を翻し、中央のブルーシートの前に立つ。
「皆さん、こんばんは」
大声を出しているわけではない。それでも、これだけの人数、ざわめきの中、不思議と通る声で細イケメンは呼びかけた。
「まずは入学おめでとう」
爽やかな笑顔は不思議と存在感がある。
「そして今日は来てくれてありがとう。一応、これはやどかり祭実行委員会の新歓なわけだけど、これだけ綺麗な桜の下で余計なことは無粋だね。主役は新入生の君達だ。委員会に入る入らないも先輩後輩も置いて、今夜は純粋に楽しもう」
ということで、と細イケメンさんは手の紙コップを掲げる。
「飲み物の準備はいいかな?」
何も手にしていない俺が慌てると、筋肉先輩が紙コップを渡してくれる。
「引っ越しやらなんやらで金欠だろ? 今日は先輩の奢りだ。存分に飲んで食べて楽しんで」
肥満先輩がビールを注いでくれる間も、細イケメンさんはそこかしこで飲み物の準備をするみんなの間を繋ぐ。そして、全員の準備ができたのを見計らって、
「それじゃあ、乾杯!」
「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」
細イケメンさんの発声に、喧しくも和やかな唱和が返り、皆は楽し気に杯を振り上げた。




