4 エロい花には罠がある
「大丈夫、大丈夫!」
俺の落胆を見取ってか、慌てたように天使が胸の前で両手を振る。
何それ、可愛い。
女子にしては背の高いスタイルのいい美人さんなのにどこか小動物っぽい動きの可愛さギャップがマジ天使。尊死。
「お祭りって年一回しかないでしょ? そして、さっき話した通りやどかり祭って二か月後なの」
天使が何を言いたいのかよくわからないけど、とりあえず可愛いから何でもいい。
「だからね、委員会っぽい仕事って二か月しかないの」
「じゃ、じゃあ! 他は何をするんですか?」
バイカー(笑)が、ようやくどもりながらも会話に参戦してくる。
ブサイク金髪、細モヤシと異なる最初から今まで変わらぬ伝統のキモさにほっとするが、顔だけはなぜか無駄にイケメンでむがつく & 危険だから引っ込んでろ。
「お祭りが終わっちゃえば、後は自由。みんなでボーリングしたり、カラオケしたり、海行ったり、旅サークルみたいに泊りで温泉行ったり♪」
泊りで温泉……だ、と!?
目を見開く俺の前で、天使は前屈みになって下から俺達を覗き込むものだから、
「一緒にお祭り作って、一年中一緒に遊んでるから皆、すっごい仲良いの!」
天使は両手を握りしめ、胸の前でグッと両腕を畳むポーズが尊可愛いが、その両腕の間の秘密のエデンがチラチラとチラついてるからもうなんというか言葉にできない。
「あ、でも、メインの活動時期は決まってるから、全然他のサークルの掛け持ちだってできるし、バイトだってできるの! バイトとサークル四つも掛け持ちしてる人だっているんだよ!」
あなたに会えて ほんとうによかった。
「今日の夜、新入生歓迎会があるの」
嬉しくて 嬉しくて 言葉にできない。
「寮の近くの桜並木、わかるかな? あそこでお花見するんだ。あ、大丈夫。来たからって必ず入らなきゃいけないわけじゃないんだよ?」
ラーラーラーラララー。
「だから、まずはお試しってことで参加してくれないかな?」
「「参加します」」
俺とバイカー(笑)の即答がハモる。
お前は余計だ、引っ込んでろアアンとねめつけるが、バイカー(笑)はイケメン崩壊、醜き威嚇顔で返してくる。
アアン、オオンと威嚇しあうが、ふと気付く。
バイカー(笑)だけ、だと? 他のブサイク共はどうしたと様子を伺えば、
「すいません。本当に残念なんですが、運動系のサークルに入ろうと思ってるので、そちらを見てからでいいですか?」
「俺も今日は高校の先輩から別のサークルの歓迎に呼ばれてまして」
ソフモヒゴリラとブサイク金髪が信じられない断りを口にする。
バカな!?!?
この天使より優先すべきものが他にあるというのか? いやない。
ついでに細モヤシはどうしたと思えば、それにいたっては気付いたら存在さえしていない。なんだインポか。
「そうなんだ。それなら仕方ないね」
麗しき天使のご尊顔が悲しみに陰る。ブサイク×2の分際で俺の天使に悲しみを感じさせるとは極刑に値する。埋めるか。
「本当に残念です。だから、俺達の代わりにこいつらを案内してやってください」
と思っていたら、ブサイク金髪が信じられないことを口にした。
――心も顔もブサイクで、どうしようもないクソ野郎だと思っていたのに。
目頭を熱くして口元を手で覆う俺とバイカーに、ブサイク金髪は微笑んで首を横に振り、ソフモヒゴリラは俺に折られた親指をサムズアップした。
「「お、お前等」」
天を仰ぎ、今にも涙がまろびでそうな目元を指で押さえる。
――入学早々、俺はいい友を持った。
「それじゃあ、二人はライン交換してもいいかな?」
「「はい、喜んでぇ!」」
颯爽と去るブサイク二人を背に、俺達は天使の連絡先ゲットの歓喜に打ち震えた。
スマホに目を落とす俺達の上で、下卑た笑みを浮かべるブサイク金髪と、天使が意味深な視線を交差させたことなど知るよしもなく。