ねらわれたまご14
それからの時間は、昨日からの騒ぎが嘘のように閑古鳥が鳴いていた。
魔王さんがドアまわりの掃除と消臭をやってくれたので、残りの場所を掃除する。部屋の真ん中に卵を載せたイスを置いてあれこれと動き回り、ぽてぽて落ちたテピちゃんたちもまとめてカウンターに移動させて売り物も埃を払って、キッチンへ移動する。テピちゃんたちに水浴びでもしてもらおうかと思っていると、テピテピーと主張される。
「卵は置いといても大丈夫でしょ。近くにいるし」
「テーピッ! テピ! テピーテピー」
「え? 何? ポケット?」
「テピ!」
「ここに入れるの? 逆に割れそうで危なくない?」
「テピーッ!」
テピちゃんたちは、私がエプロンのポケットに卵を入れぬ限り安心して離れられないと主張しているようだった。私としては逆に不安なんだけど。
でもまあ、私が托卵されてもなんとかやってこれたのは、テピちゃんたちが献身的に卵を守ってくれていたからである。ごはん以外はずっとお団子状態で重なっているのも大変だろうし、短い時間でも息抜きしてほしい。
しかたないので、私はエプロンのポケットに卵を入れた。左右計ふたつ付いているポケットは、マチもないしさほど大きくはない。片方にひとつ、もう片方にふたつ入れたけれど、ふたつ目の卵はポケットの入り口から見える位置にあって落とさないか不安になった。ミニタオルを詰めておく。
「テピー、テピー」
「ゆっくりしてね。おやつは金平糖だから」
「テピー!!!」
じっと卵を守っていたテピちゃんたちは見える汚れは付いていないけれど、水を張った洗い桶でチャプチャプと楽しそうに浮かんでいた。小さい手で泳いだり水を掛け合ったりしている。ほのぼのした光景である。
卵がゴロゴロしてるのでしゃがんだり動き回る床掃除は一旦おいといて、私は冷蔵庫の整理と掃除をしつつテピちゃんたちを水からあげてキッチンタオルの上に乗せたり、待機していたテピちゃんたちを洗い桶に入れたりした。
水浴びですっきりさっぱりしたテピちゃんたちは、金平糖をもらって目をキラキラさせながらおやつを食べたあと、てぴてぴ歩いてタッパーの周囲へと集まった。私が卵を戻すと、よじ登ってその上に山盛りになる。
「テピちゃんたちありがとうね。大変だけどよろしくね」
「テピ!」
ムニムニと揉みながら撫でて、掃除を再開する。
一通り綺麗にしたらカウンターに戻り、夕食のメニューを考え始めた。ふと思いついてスーパーのサイトを見る。
まさか自宅周辺でも卵目当てのひと? が出るとは思っていなかった。死の鳥さんが来てくれたからことなきを得たけど、あの適当具合からして毎日付き合ってくれるとは限らない。
今日は本の返却のために出かける必要があったけど、明日からは日々の買い物だけだ。なら、ネットスーパーとか通販とかでどうにかできないだろうか。
「あ、お届け時間がギリギリだなー」
時間指定の一番早い時間でも、遅いとお昼になってしまう。魔王さんが平均して11時から11時半くらいに来るので、それを考えるとちょっと迷ってしまう。高級果物を扱っているサイトも見ていたけれど、今すぐ頼んでもお届けは数日後、そしてやっぱりお届け時間が気になる。
「いっそ昼過ぎに設定して、ドア開けっぱなしで待ってる……いや配達の人にここ見られる可能性もあるか」
うちの玄関のドアを開けると、ここへと繋がるドアがギリギリ見える。毎日いろんなお宅を訪問している配達員の人も、さすがにありえない間取りでドアが開いていて異様な店が見えていたら、そしてそこからテピーテピーと謎の声が聞こえていたら、その違和感に気付いてしまうかもしれない。
「うーん……」
迷っていると、お店のドアノブを捻る音がした。
顔を上げていらっしゃいませを言う準備をするけれど、なかなか入ってこない。
というかドアがなかなか開かない。
ギ……ギギギ……
ほんの少しずつ開いていくドアを見ると、小さいサイズのお客様だろうか。ドアを開ける手伝いをしに行った方がいいのだろうけれど、またなんかやばい卵関係の人だと困るなと思ってちょっと躊躇ってしまった。
「いやこれクッソ重っ……」
「サフィさん?」
わずかな隙間から、なにかキラキラしたものが見えた。金髪とまばゆい顔だ。
いつもは普通に入ってくるサフィさんが、歯を食いしばって体で押し開けるようにしてドアをゆっくり開けている。
パントマイムか何かだろうか。
「いらっしゃいませー。何してるんですか?」
「重いんだよこのドア! ユイミーちゃんどんな術掛けたの?!」
「術?」
どうにかお店の中に体を滑り込ませたサフィさんが、ぜーはーいいながらドアと向き合っている。
「なんっだこのメチャクチャな魔力。怖っ」
「魔力? あっ、そういえばさっきお客様がそこ掃除してくれて」
「掃除ってレベルじゃないでしょ。つか人の魔術に上書きすんなよなー! 俺まで侵入者扱いになってるし! 雑魚避けはいいけどこっちの術はダメでしょ」
サフィさんはやいやい言いつつ、ヤンキーのようにその場にしゃがんでドアの近くの床を杖でガリガリと引っ掻いている。
どうやら、魔王さんの掃除ビームによってお店に入りにくくなっていたらしい。
「いや、だからこの術……あーもう、こんなところに入れるか普通?! あ、こらっチョコチョコ逃げ回ってこのっ誰だお前みたいのを刻んでったヤツは?!」
サフィさんが杖を動かすと、パチパチと小さな紫色の火のようなものがはじけたり、一瞬だけ文字みたいなものが光ったりしていた。それと格闘しながら、サフィさんはアレコレと文句を言っていた。
サフィさんが魔術と喋ってるのが面白い。
しかし魔王さん、何も言わなかったけれど、あの汚れで察して何か魔術をかけていってくれたのだろうか。
優しい。器が大きい。癒し。
見た目が怖いだけで、中身はすごくいい人だよね魔王さん。
「ユイミーちゃん何ニヤニヤしてんの? 言っとくけどこれ客ほぼ出入り禁止にする勢いのヤバい魔術だからね。俺だからどうにかできただけで普通の魔道士だと触れないレベルってちょっと聞いてるー? ねえー? 聞いてー?」
やっぱり明日も買い物行って美味しそうな果物買ってこようそうしよう。




