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バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

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ねらわれたまご15

 むすっとした顔でもキラキラしているというのは、ある意味才能かもしれない。


「ユイミーちゃんの浮気者ー」

「は?」

「俺に魔術頼んだくせに、こんなに乱暴に上書きさせるなんて!」

「いや魔王さんは掃除してくれただけで」

「こんなに焼き付けてたら剥がれないでしょうがー! ひとの魔術書き換えなんてすんごい野蛮行為なんだからねー!」


 サフィさんがドアの手前に座ってやいやい言いながら床を弄っていると思ったら、なんかこっちにもブーブー言ってる。


「せっかく心配して様子見に来てあげたのにー」

「あ、だから今日は早かったんですね」

「なのに俺まで締め出すような真似して! ひどい!」


 魔王さんがビーム消毒してくれたおかげでお店に漂っていた変な匂いは消えた。そして同時にドア付近に入りにくくなるような仕掛けも作られていたようだ。

 サフィさんいわく「そりゃこんだけ強かったら雑魚も近寄れないだろうけど」ということだったので、今日の平和な時間はその強力魔術のおかげだったのかもしれない。


「すみません、私には魔術だの何だの全然見えないし、たぶん魔王さんも親切心でやってくれたんだと思います」

「普通魔術の上書きなんか親切心でやらない! もーこいつほんとウロチョロするなー!」


 このこのと言いながら杖で何かを追いかけているようだけど、私にはただ木の棒で床をコンコン突いているようにしか見えない。たまに火花とか散るから何かがあるんだろうなと思うだけだ。


「あの……今サフィさんが何かやってるのも魔術の上書きなのでは?」

「そだよー」

「ひとの魔術を書き換えるのは野蛮な行為なんじゃ」

「相手が先にしてきたんだから俺もやっていいのー」


 自分で言ってたことなのに、サフィさん的にはその辺に矛盾はないようだ。


「大体このままほっといたら普通の客も入れなくなるよー? いいの?」

「あ、それは困ります。財宝鳥さんらにも来てもらわないといけないし」

「でしょ。だから俺がこの無駄に多い魔力をいい感じの術に組み込んでおいてあげるわけよー。普通こんなサービスしないんだからねー」

「ありがとうございます」

「本当にそう思ってるー?」

「お礼のしるしに今日はニンニクを使った料理にしますね」

「やった、いっぱい使ってね」


 私が頷くと、サフィさんも満足げに頷いた。

 元々その予定でニンニクをいっぱい買ってきていたのでメニューに支障はない。サフィさんがニンニクで機嫌を直すタイプのヴァンパイアで本当に良かった。


 それからしばらく、サフィさんはドアの辺りにいたけれど、何度かドアを開け閉めしてスムーズに動くことを確認してヨシと頷いていた。何やら問題は解決したようだ。


「これでたぶんオッケー。面倒そうな客が来たらいい感じに追い出す仕組みになってるけど、試してみる?」

「試すってどうやるんですか?」

「大体の雑魚は俺が店にいると入ってこないから、一旦離れてしばらく待つ。アイツら昨日からその辺やたらウロウロしてるから、すぐまた寄ってくると思うよ」

「試さなくていいです」


 昨日入ってきたようなのや、朝の買い物で見掛けたようなのをわざわざ寄せ付けるのは流石に嫌だ。せっかく平和なバイト勤務だっただけに余計にそう思う。サフィさんがいてくれると入って来れないなら、むしろサフィさんがずっといてくれたほうがありがたい。


「サフィさんがいると、普通のお客さんも入ってこれないんですか?」

「いやーこの辺に元々住んでるようなのなら問題ないよ。俺の気配で遠慮して入ってこないかもしれないけど、そういうのは俺も気付くし」

「じゃあ今日はしばらくここにいてくれませんか? おやつにニンニクの味噌漬け出すので」

「オッケー! じゃあ夕食までこの辺で仕事してるねー」


 味噌漬けのニンニクがこんもり盛られた小鉢を脇に置いたサフィさんは、お店の床に座り込んで何やら仕事をし始めた。丸めた紙を広げて何か書き込んでいるようだ。時々ニンニクをポリポリと食べながらも静かに作業している。

 私も夕食の下準備をしておくことにした。サフィさんの小鉢がまだ空になっていないことを確認してから、卵とテピちゃんを持ってキッチンに移動する。


 サフィさん、何だかんだいって魔王さんの強力過ぎる魔術をお店の営業に支障がないように変えてくれたし、そもそも様子を見にきてくれたところも親切だ。

 たぶん仕事としてお願いしたらとても高い報酬が必要なことなのに、ニンニク料理だけしか欲しがらないあたり、サフィさんだって魔王さんに負けずいい人なのかもしれない。


 托卵されたことは財宝鳥を追いかけ回したいくらいには厄介だし、卵を求める迷惑カスタマーは怖い。でもよく考えると、死の鳥さんや魔王さんやサフィさんが助けてくれるので、私は何をするでもなく問題を解決してもらっているのだ。

 優しいお客さんが多いところだなあ、としみじみ思う。日本でいうと、田舎の商店のような繋がりだろうか。迷宮ダンジョンだし最強エリアだけど。


 こんなに親切にしてもらってるんだから、早めに孵化して早めに親元へ帰るんだよ。

 テピちゃんたちの間に指をむにっと突っ込んで、そう願いながら卵をつつくと、ゴロリと動く感触がした。


「ユイミーちゃん、ニンニクおかわり山盛りで!」

「鼻血出ますよ」






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― 新着の感想 ―
[良い点] ニンニクで機嫌を直すタイプのヴァンパイアで本当に良かった [一言] 何気にすごいパワーワード(^_^;) 毎話、楽しく拝見しています♪
[良い点] >ニンニクで機嫌を直すタイプのヴァンパイア この珍妙なワード [一言] 地球の地元の様子の相談を、サフィさんにした方がいいんちゃいますかね? 女性店員がストーカーに遭ってる場合は上司や先輩…
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