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バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

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ねらわれたまご12

「アーコレ〜コノカスタード〜フルーツトノハーモニーイツ食ベテモ美味ダヨネ〜」


 この部屋で上機嫌なのはただひとり。いや1羽。

 私とテピちゃんは、じっと見つめ合っていた。


 無事に本を返却し、大量の野鳥と何やら集会していたシノちゃんこと死の鳥さんと一緒に買い物に行き、あれこれ買ってようやく帰宅。

 死の鳥さんの「タルトネ〜ヨンブンノイチニ切ッテ〜太ッチャウカラ〜」というダイエット女子みたいな言葉に従ってフルーツタルトを切り分け、残ったものを私とテピちゃんで分けて束の間のお茶タイムとした。バイトに出るのがちょっと遅くなりそうだけど、色々疲れていてそのまま出勤はできなかった。


「……テピちゃん、だからさっきのアレってなんなの?」

「テピ」

「ちょっと私にやってみて?」

「テーピ!!」

「なんでなの? そんなやばいモノなの?」

「テーピ、テピ、テピーッテピ!」

「やばくないならちょっと私にもやってみて」

「テーピッ!!!」


 食べやすいように細く切り分けたせいで原型が分からなくなっているタルトにかぶりつくテピちゃんたちとの会話は平行線だった。たぶん。相変わらず言語理解が進んでいないけれど、少なくとも私に対してあの「てっ」攻撃をする気はないらしい。

 溜息を吐くと、クリームをあちこちに付けたテピちゃんがそっと私に近付いてきた。


「テピ……?」

「いや、心配しなくても怒ってないし、あの人たちを追い払ってくれてすごくありがたかったよ」

「テピ〜」


 濡らしたハンカチでクリームを拭き取りつつテピちゃんをムニムニする。

 ありがたかった。ありがたかったけど、得体のしれない何かで追い払われるとやっぱり心配になる。

 テピちゃんたちも迷宮ダンジョンの住人である。どう見てもか弱いちっちゃいいきものだけど、あのお店があるエリアは迷宮の中でも強いものが集まっているところなのだ。そこを生きてこれたというのは、やはりテピちゃんたちもただものではない、のかもしれない。プニプニテピテピしてるけど。


 先程の攻撃がその片鱗だったらどうしよう、という心配がちょっとだけある。

 なんかこう、死の呪い、とかそういう物騒極まりないものだったらさすがに寝覚めが悪い。あの4人組のことは好きではないけれど、積極的に絶望的なほど不幸になれ、とも思わない。もう関わってこないでほしいなレベルの相手なので、変に可哀想なことになったら困る。


 それよりも、もしテピちゃんが原因で彼女らに何かが起こったとして、それを追求されたらかなり困る。テピちゃんを連れ出した私の責任にもなるだろうし、テピちゃんだって普段はあんなことしない温厚で頑張り屋ないきものだ。

 面倒事もイヤだけど、私を庇ってくれたことでテピちゃんたちが何らかの罪に問われたりしたらもっとイヤだ。

 いざとなったら色んな羽根を現金に変え、慰謝料として金にモノを言わせどうにかするしかない。

 なのでとりあえず、何をしたかだけでも知りたかったのだけれども。


「テーピ!!」


 つーんと非協力的なので、とりあえず気が済むまでムニムニしてやった。癒される手触りに、気持ちよさそうな顔になってとろけるテピちゃん。いや、お互いメリットしかないけど、まったく解決していない。


「ゴチソサマ〜」

「うわ、人の手にクチバシなすりつけないでよ」

「シノチャンハ不器用ダカラ〜」

「自己申告しないで」


 果汁やらクリームやらタルト生地の欠片やらを手の甲になすり付けられた。なのでクチバシをゴシゴシ拭いてやると、死の鳥さんは「アリガト〜」とされるがままになっていた。


「ジャア、シノチャン寝ルネ〜」

「え?! これから迷宮バイト行くけど?!」

「ネムイカラ〜徹夜明ケナンダヨネ〜」

「いや、色々聞きたいこととかあるんだけど」

「マタ今度ネ〜」


 死の鳥さんはローテーブルから伸び上がってベッドの端にクチバシを引っ掛け、そして器用に移動していく。掛け布団をクチバシで持ち上げて、それから一度振り返った。


「羽根忘レチャダメダヨ〜」

「あ、はい」

「オヤスミダヨネ〜」


 プェッと小さく鳴くと、死の鳥さんはそのまま掛け布団の中に潜り込んでいった。


「……いや人の布団で寝るなっ!」


 あまりにも自然な態度だったのでスルーしそうになったけれど、私のベッドである。ハッと気付いて掛け布団を捲ると、何故か潜り込んだはずのトロピカルオウムは消えていた。

 立ち上がって掛け布団を持ち上げてみても、枕をどかしてみてもどこにもいない。


「イリュージョン……」

「テピー……」


 死の鳥さん、シノちゃん、と呼びかけてみても返事もない。甲高い声の聞こえないシンとした部屋で、私とテピちゃんたちは顔を見合わせた。


「……消えるなら布団入る意味ある?」

「テピ?」


 やっぱり迷宮ダンジョンの住民って謎。

 そうしみじみ思ってから、私は慌てて片付けとバイトの準備を始めた。

 そろそろ時間がやばいというのもあったし、何か部屋の外に不吉な気配を感じたからだ。

 死の鳥さんの助言に従い、羽根セットもしっかり持って、私は逃げるように迷宮ダンジョンへと出勤した。






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― 新着の感想 ―
[良い点] シノちゃんが自由すぎて笑う [一言] 宿屋でログアウトすると直ぐに消えるからね しょうがないね
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