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バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

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アシスタント・テピテピ2

 つぶらな目と私の目が合う。

 しばらく見つめ合ってから、白いのは小さな手らしきものを片方、すっとあげた。


「テピ!」


 一際大きく鳴る音。いや、鳴き声だったのかこれ。

 片手を挙げた白いものと、その後ろにいる沢山の白いものがじーっと私を見上げていた。


「……こんにちは?」


 返事をすると、手を挙げた白いものがピャッと飛び上がった。テピテピーッと集団の方へと素早く移動していって、集団で盛大にざわざわ、いやてぴてぴし始める。

 やがてもう1匹、さっきのとは別の白いものがちょっとこっちに来て「テピ!」と片手を挙げる。


「こんにちは」

「テピテピッ!」


 ビビッと震えたその白いのも、集団に飛び込むように戻っていって他の白いのに揉まれている。

 何なのだろう。というか今の、挨拶でよかったのだろうか。

 わいわい、いやてぴてぴしている様子を眺めている限り、なんだか楽しそうな雰囲気のように見える。アメリカザリガニの威嚇を喜びのポーズだと思っていた私なので、その理解が正しいのかはちょっとわからないけれど。


「テピ!」

「こんにちは」

「テピ!」

「こんにちは」

「テピ!」

「こんにちは……」


 白いものが意を決した風にこっちに来ては片手を挙げ、私の返事を聞いてピャッと戻っていく。というのを何度か繰り返していると、ざわざわというかてぴてぴが大きくなり始めた。大丈夫かな、私の反応はこれで合ってるのかな。


 騒がしい集団をしゃがんだまま見下ろしていると、ある白いのが小さい両手をピコピコピコと素早く上下に動かしながらテピーッと大きく鳴いた。それによってざわめきが小さくなると、私の方へずいずい、いやてぴてぴと歩いてくる。


「テピ!!」


 全員順番に挨拶しているのだろうか。律儀な生き物だなあ。

 白いものにならって、私も片手を挙げてみる。


「テピ」

「……!!!」


 挨拶をしたのだけではなく、集団の全員がビビビッと飛び上がった。

 一瞬でしんと静かになった白いものたちが、つぶらな目で私をじーっと見つめている。


 なんかその目が、心なしかキラキラと輝いているように見えるのは気のせいだろうか。

 ものすごく見られているので、私はもう一回片手を挙げてみた。


「テピ」

「……テピーッ!!!」


 集団の鳴き声というか声というかが、揃って大きな返事になった。

 もはや気のせいどころではなく目をキラキラさせた白いものたちが、てぴてぴてぴと小さな音を立てながらこちらにじわじわ近付いてきた。鳴き声なのか足音なのかよくわからない音だ。


「テピーッ!」

「テピ」

「テピーッ!!」

「テピ」

「テピーッ!!!」


 なんかの決起集会だろうか。私が返事をするたびに、白いもの集団のテンションが上がっている気がする。


「テピーッ!!!」

「……て、テピーッ!」

「テピテピーッ!!!」


 イエーイ、みたいな感じで返事をしてみたら、もはや集団はお祭り騒ぎになってしまった。

 片手を高く挙げようとピョンピョンジャンプしているもの、キラキラを通り越して目をウルウルさせているもの、周囲を動き回っているもの、他のとぎゅむぎゅむぶつかり合っているもの。ひたすらじーっと私を見ているものなど、それぞれがそれぞれの動きでテピテピ騒いでいた。


 なんかかわいい。


「あのー」


 私が声を上げると、騒いでいた集団はピタリと静かになってちょっとびびった。

 私の周囲にぎゅっと近付いて、沢山のキラキラおめめで見上げてくる。


「お客様ですか? 私、今日からバイトに来た野々木ののぎ 由衣美ゆいみです」

「テピーッ!」

「ほんとさっき来たばっかなので、とりあえずマニュアルを探してきますね」

「テピーッ!!」


 私の言葉、理解してもらえているのだろうか。

 立ち上がって、白いものを蹴飛ばさないように横に一歩動いてからカウンターの方へと戻る。すると、テピテピテピテピと鳴き声だか足音だかを立てながら集団が後ろを付いてきた。急いでいるのか勢い余ってコロンと転がってしまっているのもいる。

 ちっちゃなオバケみたいな集団が小ガモのように付いてくる姿はなんともかわいい。


「ちょっと待っててくださいね」


 和みながらそう声を掛け、カウンターの向こう側へと急いだ。

 あちこちを見回して、カウンターの下に大きな本が置いてあることに気が付く。分厚いそれをよっこいしょと取り出してカウンターの上に置くと、表紙に「接客マニュアル」と書かれていた。


 歴史がありそうな古めかしいハードカバーに、日本語。なんか合わない。

 そういえば魔女おばちゃんが、ブレスレットを付けているから文字も言葉もわかると言っていた。ということはこれは、元は違う言葉で書かれているのだろうか。すごい翻訳能力である。


 感心してから、ふと思う。

 言葉が通じるようになっているなら、白い集団の出しているテピテピ音はやっぱり鳴き声、もしくは足音なのだろうか。考えながら爪先立ちになり、テピテピと音がしている方をカウンター越しに覗き込んだ。






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