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バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

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命を刈り取るお仕事11

 精米されたお米は、籾殻から取り出しただけの玄米よりもやや明るいオレンジ色。サフィさんが一粒だけ見本でやってくれた、地球のお米で言うと白米状態のお米は、みかんの皮のような明るいオレンジ色だった。


「味はこっちとあまり変わらないんですよね?」

「大体は。白い米の方が甘味が強く出る感じだけど」


 こんな異世界の迷宮ダンジョンでも日本と同じようにお米を食べる人がいるのは不思議だ。というか、迷宮ダンジョンで稲作自体が不思議だけど。ここ地下っぽいのに。

 オレンジ色のお米、ちょっと食べてみたい。


「2日後に死神さんがもう一袋持ってきてくれるので、また精米お願いします」

「はーい。魔法は解けてないから、あの白いのたちに殻付いた米見せたら殻は取れるからね」

「ありがとうございます。えーっと、テピちゃんたちが急いで作業して疲れても可哀想なんで、サフィさんの精米は4日後くらいにお願いしてもいいですか?」

「死ぬような魔法じゃないから10袋くらい一気にやっても支障はないと思うけど、ユイミーちゃんは優しいなあ」


 サフィさんはそう言っていたけれど、実際1袋で死屍累々だったので、そんな大量作業は無理なんじゃないかとちょっと思った。今頃カーテンの向こうでプルプルしてそう。


「まあこれくらいの魔法は正直手間ってほどでもないから、言ってくれたらいつでもやるよー」

「私からするとすごい魔法ですけど、負担にならない作業でよかったです」

「手間賃も貰いすぎかなって思うレベルの簡単さだからねえ」

「そうなんですか?」


 精米の魔法は、労力的には銅貨で払っても不自然ではないくらいのレベルだったそうだ。

 ここの精米価格は迷宮ダンジョンとしてもちょっとお高めらしい。


「加工なので相場価格では小銀貨で払うようになってたんですけど、値下げ考えた方がいいんでしょうか。あんまり高く取りすぎるのも……」

「お互い同意してるんなら問題ないよ。というか、このエリアでは銅貨なんか持ってる人いないから値下げすると逆に大変だと思う」

「あ、サフィさんも持ってないって言ってましたよね」


 このお店に置いてあるお金は、金貨と銀貨と小銀貨。

 バイトを始めて以来は主に金貨と小銀貨でしか取引していなかったのでよく知らなかったけれど、サフィさんがこないだ教えてくれたところによると、小銀貨よりも細かいお金があるらしい。


「もっと浅い階層だと銅貨がメインだったりするけど、深くなるにつれて仕事の難易度も上がるし戦闘も激しい。その分得られる報酬も上がるから、銅貨とか石貨で持ってるとサイフが大変なことになるわけ。だからもうこの辺りまで来るとそもそも持ってないんだよね」

「そうなんですか。じゃあこの辺りにいる人はやっぱり強いんですね」

「まあねー」


 魔王さんとか死神さんとかは、ビジュアルからして強そうな感じがしていたけれど、サフィさんもすごい魔道士なようだ。

 ……テピちゃんたちやポヌポヌ犬さんも強いのだろうか。重い腱ジャーキーを咥えていったポヌポヌ犬さんはまだしも、テピちゃんたちは非力でプルプルしてるけど、どうやって暮らしているのだろう。

 プルプルしながらテピちゃんたちが猛者を倒す想像をしつつ、サフィさんに訊いてみる。


「ここより奥まったところでは、金貨より大きい単位のお金があるんですか?」

「それはないよ。ここが迷宮ダンジョンの最奥地点だから。金貨が一番大きいお金」

「……最奥?」

「最奥」

「一番強いひとたちが集まっている場所?」

「そうそう」


 なんだか、わりと、重要な情報を知った気がする。


「そ、そうだったんですか。知りませんでした」

「まあ、店の中だとあんまり実感はないかもねー。その腕輪で守られてるから問題ないと思うけど、一応あんまり出歩かないほうがいいよ」

「あ、前に外出ようと思ったら出られませんでした。ぼよーんって弾かれて」

「ぼよーん……? ああそっか。なるほどね、さすが魔女の腕輪」


 サフィさんは私の左手首にあるブレスレットをチラッと見て何か納得していた。

 迷宮ダンジョンとはいえ、やはり魔王さん的なひとが闊歩しているというのは普通ではあまりないことらしい。そして魔王さんは見た目通り強いらしい。

 私は全くの素人で知らなかったけれど、このお店に置いてある品物も地上では貴重なものが多いそうだ。サフィさんいわく「こんな場所でしか使わないようなものもあるから、高価かというとそうでもなかったりするけど」と言っていたけれど、それはアレだろうか。いわゆるフェニックスの尾的な……?


「あの、お客さんが少ないとか人間のひとにまだ会ったことないのも、お店の場所が関係してたりしますか?」

「するだろうねー。浅いとこは人も魔物もかなり多かったと思うよ。この辺で見る人間はかなりレアだね」


 ゲームの世界の、ラスボスがいるエリア的な感じだろうか。実力を得たものだけが来られる場所、って感じの。

 主人公的な勇者に立ちはだかる、お客さんの面々が思い浮かぶ。魔王さんとかは絵になるけど、サフィさんにキラキラニコニコされながら倒される勇者とか、ポヌポヌ犬さんにポヌポヌ倒される勇者とかはなんかちょっと気が抜けた光景になりそうだ。


「この辺は空間あたりのイキモノの数が少なくて平和だよね。大昔に浅いとこ行ったときは、小競り合いとか多くて騒がしかったよ」

「へ、へえ……」


 やっぱ暮らすのは静かな場所の方が落ち着くよねーとニコニコ言うサフィさんが、強者の余裕を漂わせているように見えてきた。

 バイト的にはどこにあろうが関係ないけど、業務に全く支障はないけれど、まじょばちゃん、ちょっとは説明しといてくれてもよかったんじゃないかな。ラスボスに限りなく近いひとからぼったくってしまったじゃないか。気にしてないし果物好きないいひとだけども。


「というわけだから、小銀貨支払いでいいと思うよ」

「そ、そうですね……そうします……」


 気付かずにセレブエリアでバイトしていたことに若干動揺はしたものの、サフィさんがいつもどおりニコニコキラキラしながら「貰ったニンニクだれ、使ってみたらすっごく美味しかったからまた買ってきて」と嬉しそうだったので気持ちは落ち着いた。

 バイト店員としては、相手がラスボスだろうが弱いひとだろうが楽しく買い物して満足してくれたらそれでオッケーなのだ。……たぶん。






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