命を刈り取るお仕事12
「という感じで精米しました」
「おお、ええやん!」
後日、引換券を持ってやってきた死神さんは、できあがった七分搗きオレンジ玄米を見て満足そうにカシャカシャと頷いた。
「いやー、精米機使うかなーと思てたけど、魔法でやってくれたんか!」
「はい、あの、大丈夫でしょうか?」
「いやその方がええねん。摩擦で精米するタイプやとやっぱり熱が入るやろ。魔法はそういうのないからな、こっちのが美味いんや。昔ながらの石臼とかも懐かしい味で悪くはないんやけどなー、いっぺん魔法精米に慣れるとアカンわ」
「はあ……」
調子のいい関西弁で喋る骸骨な死神さんは、あれこれと骨の手を大袈裟に動かしながら石臼での精米がどれだけ面倒だったかを語っている。
私が「昔の精米」で想像するのは、映画で見た一升瓶に入れたお米を棒で突いているものだけれど、石臼で精米していた時代があったらしい。思い浮かんだのは蕎麦とか小麦を粉にする石臼だけど、それとはまた違うのだろうか。というか死神さん何才なんだ。
「精米具合も良さそうやな。一袋もこの調子で頼むで。魔道士にもよろしゅう言うといてな」
「はい」
「ほんで話変わるけど、ついでにそれも売ってんの?」
それ、と死神さんが骨の指で示したのは玄米である。オレンジ色のものではなく、日本産の薄茶色のものだ。玄米の精米度合いを見るために買ってきた見本で、これを参考に精米しましたと説明で見せたものである。
「いえ、これは見本なので、売り物ではないんですけど」
「売ってくれへん? なんや見たことない米やし、いっぺん食べときたいわ。美味しいなら作りたいし。銀貨1枚でどないや」
米農家である死神さんは、未知の米が気になったらしい。
見本として買ってきた「はじめて玄米食べ比べセット」はすでに役目を終えたので、後で私が食べてみようかなと思っていたくらいで欲しいなら売っても構わない。
ただ、銀貨1枚はちょっと高すぎる。日本円で20分の1くらいで買っただけに逆の意味で売りにくい。
「あの、お金じゃなくて、そっちの玄米と交換でどうですか?」
「これ? いうてこれフツーの米やで」
「こっちの玄米も私にとってはフツーのお米なので……。よかったら全部精米した白米も付けますよ」
精米具合の違う玄米が、2合ずつ3種類。白米も同量付けて4種類8合セットはどうか、と提案してみる。
「実は私もそのお米がどんな味なのかちょっと気になってて」
「なんや、言うてくれたらやったのに! ほな同じ量の米で交換しよか。ちょうど一食分ずつやし食べ比べしてみるわ」
「はい。じゃあちょっと白米取ってきますね」
私が部屋に繋がる方のドアを開けると、棚の下の方から「テーピー……」と心細そうな声がちょっと聞こえた。
部屋を横切って、キッチンに置いてあるプラケースの米びつを取り出す。このまま持っていくと重いので、炊飯器に付いていたカップで2合分を気持ち多めに計って手頃なタッパーに入れた。
そういえば死神さん、2合のお試し玄米を一食分ずつだと言っていたけど、量結構多くないか。私もお米は2合で炊いているけれど、3等分して1日かけて食べている。昔の文豪が「1日に玄米四合」と言っていた気がするので、それよりも多い。
食べたご飯が肋骨の隙間から溢れそうだなと思いつつ、大きめな空のタッパーとキッチンスケールも持ってお店へと戻る。
「白いなー! 形も匂いも似てるけど、なんか変な感じやわ」
「見慣れてる色が違いますもんね」
キッチンスケールで日本産玄米と白米の重さを測り、それから袋の重さを気持ち抜いた分と同じだけオレンジ玄米をタッパーに入れてもらう。サフィさんに精米してもらって出た米ぬかも一握り分もらった。布に入れてお風呂で使うと肌にいいらしい。米ぬかは漬物に使うので持って帰るけれど、籾殻は捨ててくれとのことだった。
「いつも白米食べてるんやったら、玄米はちょっと固いかもしれん。炊き方も気ィつけてな」
「炊き方に違いあるんですか?」
「最近の炊飯器は玄米モードあるし、説明書に書いてあるで。水も吸わせてな」
「アッハイ」
ごく現代的なアドバイスを返された。
死神さん、炊飯器も家にあるらしい。家でスエットを着てピッと炊飯器のスイッチを押す死神が頭に浮かんだ。むしろ違和感がないように思えてきた。
「なんや腹減って来たわ。帰って早速食べよ。おおきになユイミーちゃん」
「こちらこそありがとうございます」
「いや仕事も丁寧やしサービスもええし、ユイミーちゃんが新しい店番で良かったわ! これからもよろしくな!」
「……はい!」
死神さんが元気よく言った言葉に、私は嬉しくなった。
今まで、迷宮とかいう謎の場所での謎のバイトでちゃんとできるか心配だったし、私が来る前に店番していたというぼったくりバイト被害による汚名返上を頑張ろうという気持ちでやって来たけれど、こうして褒められると報われたように思えた。「私が新しい店番でよかった」という言葉は、私なりに頑張ったところを認めてくれたという気がして、より嬉しい。
「ほなまた取りに来るさかい。よろしゅう頼むわ!」
「はい、またのお越しをお待ちしています!」
なんか、働くの楽しいな。
久しぶりにそうやって思って、そう思わせてくれるお客さんがいるこの職場でバイトしてよかったな、としみじみ思った。私ひとりで店番している分責任は重いけれど、その分頑張れば喜んでもらえるのがよくわかる。
時給目当てで始めたけれど、このお店で働くのは楽しい。まだお客さんは数えるほどしか来てないけど。
これからもずっと楽しいと思いながらバイトできたらいいな。
「テピー」
「テピちゃんたち、これからも頑張ろうね」
「テピー!」
「でも徹夜はしなくていいからね」
「テーピ……」
新しい籾殻付きのお米を前に張り切っていたテピちゃんたちが不満そうだったので、その夜私は殻付きのお米を部屋に持って帰って寝た。ブラック労働禁止。
オレンジ玄米は炊飯器の説明に従って炊いたら歯応えと風味があって美味しかった。彩りが明るいので、混ぜご飯にすると華やかだ。でも夕飯を食べにやってきたサフィさんは、オレンジ米を出すとガッカリした顔をしていた。白米が好きらしい。テピちゃんたちは普通に喜んで食べていたけれど、翌日濃いオレンジに染まっていた。




