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バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

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命を刈り取るお仕事10

「ユイミーちゃーん、ごはんまだー?」


 3度目にして我が物顔で夕食を求めたサフィさんが来る頃には、テピちゃんたちのオレンジ色がじわじわと薄くなっていた。というか、薄いカラフルな体に変化していた。金平糖の色合いに似ているので、やっぱり食べ物の色素が影響していたようだ。


「いらっしゃいませー」

「ノッてくれない……」

「今日は手抜きごはんですよ。お店にあるものを調理しましょうか?」

「手抜きってどんなの?」

「鶏肉と玉ねぎをお出汁で煮込んで、溶き卵でとじたものです」


 牛肉がありがたすぎたせいで牛肉を食べまくっていたら、さすがに飽きてきた。魚は面倒なので、簡単だし親子丼で済ませてしまおうというのが私の今日の献立である。


「じゃあそれー」

「自分でいうのもなんですけど、かなり手抜きですよ。ごはんも冷凍だし」「いいよいいよー」

「お店にあるやつの方が安いですし豪華そうですけど、いいんですか」

「いいよー」

「ニンニク入ってないですよ」

「……いいよ」


 サフィさんがちょっとしょんぼりした顔をしたので、買っておいた調味料をあげた。焼肉のタレとポン酢、そしてニンニクだれというものがあったのでそれも渡すと笑顔でお礼を言う。キラキラしい。


 小鍋に入れたお出汁に切った玉ねぎを放り込んで煮込みつつ、鶏肉を一口大に切る。ご飯をレンジに入れつつ小鍋に鶏肉を入れて少し煮込み、半分をお皿に取ってから一人分ずつ卵でとじる。小鍋で作るので卵の半熟感は少ないし、見栄えもあんまりよくない。異世界の料理が珍しいからといってこれでいいのかと思いつつも、私は飾りに冷凍の小ネギを散らした。もちろん三つ葉なんてないのである。


「今日は早いねー!」

「手抜きなので……」

「個人的に手抜きっていうのは、その辺に落ちてるホ……木材とかで焚き火して丸焼きすることだよ。ユイミーちゃんのごはんは十分手が込んでるよ!」


 その辺に落ちてる「ホ……」ってなんだろう。若干気になる点はあったものの、調味している時点で手抜きじゃないと力説してもらって少し自信が出た。ホ、が気になるけど。

 棚に隠れているテピちゃんたちにご飯をあげてから、サフィさんと向かい合って親子丼を食べる。


「いただきまーす」

「うまーい。甘いのがいいね! ユイミーちゃん甘い味付け上手だねー」


 ほぼほぼ調味料のおかげだけれど、サフィさんが喜んでくれているのでまあいいだろう。サフィさんは笑顔でうまいうまいと言いながら、レンゲで掬った少し出汁のしみたごはんを頬張っている。美味しそうに食べるなあ。


「サフィさんって、こういう食事だけでも生きていけるんですか?」

「いやー、料理したものは美味しいし食い繋げるけど、血ナシはさすがに辛いかもね。ヴァンパイアだし」

「じゃあ、その、適宜人の血も吸いつつ……?」

「てか人じゃなくてもいいからね。こないだ牛の血吸ったから、次飲むのは来月かなー」


 牛肉の血抜き、吸血的な感じでやったらしい。

 サフィさんがキラキラしながら牛の首筋に噛み付いているところを想像する。


「なんか変な想像してそうだから言うけど、ちゃんとコップで受けて飲んでるからね」

「えっそうなんですか」

「そうだよ。口付けて飲むとか行儀悪いでしょ」

「行儀悪いんだ……」

「衛生的にも気になるし」

「衛生面でも気を付けるんだ……」


 皮膚をシュシュっと消毒してからナイフで切り、コップで血を飲むサフィさん。うーん。行儀の問題だろうか。


「吸血はそのものじゃなく生き物の生気を奪うための手段だからね。飲まないと生気が補給できなくて死んじゃうの」

「へ〜」

「血も体動かすカロリーにも使えるけど、それはこういう料理で賄った方が効率いいから普通の食事してることの方が多いんじゃないかな。生気は料理と違って結構食い溜めできるから、俺はまとめて一気に摂ってる分回数も少ないし」

「へえ〜」


 当然ながら今までヴァンパイアの知り合いはいなかったので、なんか勉強になる。私がほうほうと聞いているので、ヴァンパイアさんは色々教えてくれた。血にも美味しいまずいがあって、弱っていると生気が薄いのでまずいそうだ。


「飲むと持病とかも大体わかるよ。ユイミーちゃんも診てあげようか?」

「いらないです」

「痛くしないのにー」


 ちぇっと残念がられた。

 さすがに血液関係の検査は大学の健康診断に一任しておきたい。血を上げてこのキラキラヴァンパイアに「ちょっと尿酸値高いねー」とか言われるのもなんかイヤだ。


 親子丼を食べ終わり、食後にお茶を入れつつサフィさんに玄米を見てもらう。

 テピちゃんたちがかなり頑張って籾摺りしてくれたオレンジの玄米と、私がスーパーで買ってきた玄米。


「これ、色んな精米具合で2合ずつ入っているセットになってたので見本に買ってきました。これが七部搗きなんですけど、これでわかりますか?」

「なるほどー。うんうん、多分大丈夫」


 私が最寄りのスーパーで見かけた「はじめて玄米食べ比べセット」には、三分搗き、五分搗き、七分搗きの玄米が少しずつ入っていた。それと家にある普通の白米を並べると、それぞれ色合いが違うのがわかりやすい。

 サフィさんはしばらくそれぞれのお米を手の上に乗せて眺めたり摘んで指で揉んだりしてから、うん、と頷いた。


「えーっと、またあの白いのに手伝ってもらう?」

「あ、イエ、なんか大変そうだったので、できたらサフィさんの手でお願いします」

「わかった。この袋に入れたらいい?」

「はい。持っときましょうか」


 最初にお米が入っていた袋を口を開くように持っていると、サフィさんがその上に手を翳す。昨日見たような魔法陣が光りながら浮かんだ。二重になった円が、外側は時計回り、内側は反時計回りにゆっくり動いている。


「入れるよー」


 玄米の入ったシリコンの桶を持ったサフィさんが、袋の方へ傾けると、玄米が魔法陣を通って袋の中にパラパラと落ちてきた。眺めていると、魔法陣の上に濃い茶色の粉のようなものが少しずつ降り積もっていく。そこを境目にして、袋の中に落ちていくお米は桶の中のものよりも少し明るいオレンジになっていた。


「おおー、すごい! 一瞬で精米されてる!」

「でしょー。もっと褒めて」

「魔法すごい! サフィさん天才!」

「素直に褒めてくれてありがとうユイミーちゃん」


 最初はパラパラとだったけれど、サフィさんが少しずつ桶を傾けてざざーっと落とすと、あっという間にお米は袋の中に収まった。最後にサフィさんが空になった桶で魔法陣を掬う

ようにすると、光っている陣が消えて米糠が桶の中に落ちる。お米の香りがした。

 作業時間トータル5分ほどだろうか。もっと少ないかもしれない。


「はい、できあがり」

「おおー! ありがとうございます!」


 めちゃくちゃあっさり精米できてしまった。

 魔法、すごい。

 そして、サフィさんの魔法だけでやったら、籾摺りも一瞬で終わっていたのでは……とちょっと思った。いや、テピちゃんたちの頑張りも必要だったんだよね。多分。きっと。






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