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バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

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命を刈り取るお仕事5

 お昼を過ぎたころに続けて来店した魔王さん死神さんコンビが去ると、あとはノックの気配もなかった。ポヌポヌ犬さんは今頃腱ジャーキーをかじっているのだろうか。


 マンゴーの皮が乾燥してしおしおになりしょんぼりするテピちゃんたちを慰めながらベタベタになった白い体を洗い、掃除を一通り済ませ、夕食の下準備も終わらせてしまうとヒマになる。

 私はマニュアルを閉じ、スマホで精米についてググってみた。

 なんでググるかというと、マニュアルには小さく「精米:精米所に行くか精米機を買って精米する」と書いてあるだけだったからである。適当すぎる。


「ん……?」


 まず、お近くのコイン精米機をググってみたら、お近くにコイン精米機がないということに気が付いた。どうやっても違う市が表示される。全然お近くじゃない。全然意識していなかったけれど、この辺、精米機がないようだ。どうりで見たことないと思った。

 そして、とりあえず遠いけど最寄りの精米機がある場所へ向かうための乗換ルートを検索していたら、ふと気付いたのだ。

『この精米機は玄米専用です』という文字に。

 死神さんの置いていった袋を見つめる。


 この米、殻付いてたよね。


 袋の中に指を突っ込み、摘み出した黒い一粒。白米のツルツルでも、玄米のサラッとした感触でもなく、ゴワゴワしている。ちょっと苦労しつつ手で剥いてみると、中にはくすんだオレンジ色の米が入っていた。


「おおー」

「テピー!」


 そういえばサフィさんも迷宮ここの米は普通オレンジ色だと言っていた。ちょっと彩度の低い色だけれど、精米すると鮮やかになるのだろうかと思うと面白い。面白いけれど、カウンターに落ちた籾殻を取り合いしているテピちゃんたちが落ちないように手で受け止めつつ疑問に思う。

 玄米専用なら、この状態だと精米機に入れられないのでは?


「えーっと……脱穀……?」


 あれこれ検索して、籾殻を米から取る作業は脱穀でなく「籾摺もみすり」ということを知った。脱穀は稲から米を外すことだったらしい。勉強になる。

 籾摺りには籾摺り機という機械が必要らしい。籾摺り機のあるコイン精米所もあるようだけれど、少なくとも片道3時間以上はかかる場所にあった。私が住んでいる地域では籾摺りを個人でやることはほぼないようだ。だよね。私もやったことない。


 ……買うべきなのか、籾摺り機。


 テピテピテピテピと団子になって喧嘩なのかじゃれあいなのかをしているテピちゃんたちから黒い籾殻を取り上げて捨てつつ、部屋を眺める。それからキッチンへ移動して空間を眺める。

 うちの近くだけでなく全国的にも個人の籾摺り機の需要は少ないらしく、検索して出てくるのは大体が業務用的なゴツいものだった。小型と書かれているものも、動画を見てみると結構大きい。スペースが心配だし、何より値段もゴツい。


 死神さんがこれからもずっと精米を頼んでくれるなら導入してもいいような気がするけど、機械を修理するまでの間だけだったらコストのほうがかかる気がする。

 かといって、買わずに籾摺りをするとなったら結構大変そうだ。少なくとも半日は潰れてしまうので、お店の開店時間が遅れてしまうことになる。魔王さんは日が高いうちに来るので、待たせてしまうことになってしまうのはちょっと心苦しい。

 しかしどう見ても業務用っぽいもの、買ってホイっと操作できるものなのだろうか。ド素人にも優しい設計になっているのか不安だ。


「テピー」

「この奥の壁に置けば……でもコンロ近いしなあ」

「テピー」

「棚移動させてみイヤこの棚重っ!」

「テピー!」


 テピちゃんたちの応援を受けつつ架空の籾摺り機の置き場を試行錯誤していると、お店の方から「おーい」と声が聞こえてきた。


「はーい、あ、サフィさん!」

「どうもー。どう? 問題なくやってる?」


 私の後ろをてぴてぴついてきたテピちゃんたちは、お店の方へ戻るとパーッと棚の下へと吸い込まれるように逃げていった。それを踏まないように気を付けつつ、カウンターの前にいるサフィさんに挨拶する。今日も相変わらずキラキラした顔をしている。マントは濃いボルドーでふちに金の刺繍がしてあった。なんかきらびやか。


「値段変えたら、今まで買ってもらえなかった方にも買ってもらえましたよ! 魔王さんには返金を受け付けてもらえなかったので、ちょっとの間サービスで品物をあげるということで頷いてもらえました」

「おー、順調にやってるみたいだねー。じゃあとりあえず、今日もなんか食事作ってくれる? 今日はちゃんとお金払うし、ユイミーちゃんのとこの料理でいいから」


 魔道士であるサフィさんは、今日も魔法を色々使ったのでお腹がペコペコらしい。作るのも面倒なので食べにきたそうだ。魔法、使うとお腹減るらしい。空腹状態で使うとどうなるんだろう。

 そういえば、いつのまにか私もお腹が減っている。スマホを見るとそろそろ7時近くになっていたので、精米所どこにあるのか問題と籾摺り機ってなんだ検索にずいぶん時間をかけてしまったようだ。私の夕食もついでに作ってしまうことにした。


「今日来てもらえてちょうどよかったです」

「え? 今日なんかあるの?」

「また前に頂いたお肉を食べようと思ってるんですけどいいですか? お肉と野菜と豆腐を醤油とかの調味料で煮込んだやつを、生卵に浸けて食べるんです」

「なんかわからないけど美味しそう。ニンニク入れる?」

「ニンニクは入れません」


 ニンニク好きなヴァンパイアであるサフィさんは、今日もニンニクありだと期待していたらしい。ニンニクなし料理だと知ってそっかーとちょっとしょんぼりしていたものの、楽しみだと言ってくれた。


 調べたところ、塊肉を薄切りにするのは、半解凍状態がやりやすくていいとあった。なのでしっかり一晩冷凍し、そして冷蔵庫に移してゆっくり解凍したのである。空いている時間に薄切りしたお肉は、我ながらいい感じにそれっぽくなっていた。


「今日はすき焼きです」


 私の気合いが入った声に、棚の下段から「テピー」と小さく合いの手が入った。






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