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バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

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はじめての困難11

「……ダメですか?」


 ポヌポヌ犬は、くるくるの毛で隠れている目を私の方へ向けて、それからもう一度くーんと鼻を鳴らした。鼻先でフンフンと価格表の入ったカードケースを嗅いで、また私を見上げる。


「あの、何がダメなんでしょうか。値段もかなり変わったし、あの、うちで売っているものは全部ここに書いてあるので……」


 並べた価格表を犬の前に集めて見せてみるけれど、ポヌポヌ犬は鼻を鳴らしただけで尻尾も動いていない。じっと価格表を見つめては、首を捻るだけである。

 値段が高いから買わないで帰っていたのだと思っていたけど、違ったのだろうか。欲しいものが見つからないからガッカリしているのだろうか。

 今日は何か買っていってもらえると期待していただけに、ジワジワと落ち込んでくる。


「……んん?」


 悲しい気持ちで眺めた価格表、それを私の向かいで見ているポヌポヌ犬が、首を傾げては反対に首を傾げ、と顔を動かしている。鼻先を近付けたかと思ったら離したりしつつ、また首を傾げた。


「あの、もしかして、これ、読めないですか」


 ポヌポヌ犬が鼻を上げ、それからワフとごく小さく鳴いた。

 尻尾も少しだけ揺れている。


「あっ……あー! 読めない、読めないんですね! これ日本語だから!」

 

 尻尾がパタンパタンと揺れていた。初めて意志が通じ合ったのを感じて私は嬉しくなった。

 そうだった。

 この世界は、地球上とは言語が違う。私は魔女おばちゃんからもらったブレスレットのおかげで話すのも読むのも不自由していなかったけれど、反対にここのひとたちには日本語がわからないままだったようだ。


 ウッカリしていた。スマホで写真に撮り、家で打ち直したものをパソコンで印刷したので、もちろん価格表は日本語だ。今日のポヌポヌ犬は値段や品物で困っていたのではなく、字が読めないことに戸惑っていたらしい。


「なるほどー……気付かなくてほんとすみません! えっと、どうしよう。今日はとりあえず品物を読み上げるので、気になるものがあったら教えてくれますか?」


 ポヌポヌ犬は再びワフと小さく鳴いて、それからカウンターの上にお座りした。ぱたんと一回だけ尻尾が揺れる。聞いてくれるようだ。


「販売している品物で、ナマモノからいきますね。えーっと、ギエリの目玉、四つ葉鳥の羽根と嘴と爪以外セット、よくわからない果物C(冷凍)、みどりレバー各種サイズ……」


 要冷蔵または要冷凍品を読み上げたあと、ポヌポヌ犬を見る。座ったまま、小さくくーんと鳴いていた。なかったらしい。


「次は常温のもので、オオグマの大腿骨、肋骨、背骨、腱ジャーキー」


 ワフ、と少し大きめの声が読み上げる私を遮った。


「……オオグマの腱ジャーキー」


 ポヌポヌ犬が立ち上がる。パタパタと尻尾が揺れていた。激しく振られているわけではないけれど、今まで見た中でも一番大きく揺れている。


「これなんですね?! 欲しいもの、オオグマの腱ジャーキーなんですね?」


 ワフ、ともう一度返事があって、私は喜びに痺れた。


「えーっと、腱ジャーキーは一本で小銀貨5枚、一袋は銀貨1枚で1本分お得みたいです」


 ワフと小さく呟いたポヌポヌ犬は、その場でくるくると回り始めた。ポヌポヌポヌポヌと音がして和む。尻尾を追いかけてグルグルしてるように見えたけれど、動きを止めたポヌポヌ犬は、口に咥えていた小銀貨を5枚、価格表の上にチャリチャリと落とした。

 今、どうやってお金出したんだろう。謎過ぎる。


「えっと、腱ジャーキー一本でよろしいでしょうか?」


 ワフと返事をもらったので、私はマニュアルに載っている説明から商品を探すことにした。


 オオグマの腱ジャーキー:

 自家製スパイスで味付けした美味なジャーキー。とても硬い。これをおやつにできるものはかなりの猛者。3日くらい鍋で煮込んで作るシチューはダシが出てとても美味。キッチンのレンジ下にある乾物入れ(赤)に入っている。重いので気を付けて運ぶこと。


 硬いらしい。キッチンにいって書かれていた場所を見ると、赤いプラスチックのカゴの中に、大きくて濃い茶色をした、大きめの骨のようなものが置いてあった。


「これ……?」


 カゴの底の方には麻袋が入っていて、その上に骨っぽいものが3本。太さも長さもちょうど私の肘から手首くらいまである。触ると少しざらざらかつひんやりしていた。

 麻袋の中も確認してみようとおもってカゴに手を掛ける。


「重たっ!!」


 片手では動かなかった。足を踏ん張りながら両手でズリズリと引っ張って、半分だけカゴを棚の外に出す。全部出してしまうと戻す自信がなかった。

 上に載っているものをとりあえず別のところへ置き、麻袋の中を覗く。同じものが何本も入っていただけなので、やはりこの骨っぽいものがオオグマの腱ジャーキーなのだろう。元の場所に戻して、一本だけを持ち上げてカウンターの方へ運ぶ。


 一本だけでも重たい。2リットルのペットボトル2本分より重そうだ。とても硬いと書いてあったし、密度が半端ないのかもしれない。袋入りで注文されなくてよかったと心底思った。


「こちらで間違いないでしょうか?」


 フンフンと重いジャーキーを嗅いだ犬が、尻尾をゆるく振りながらワフと返事をした。


「では小銀貨5枚いただきます。こちらの商品、かなり重いのですが大丈夫ですか?」


 価格表を片付けて、カウンターの上を転がすようにポヌポヌ犬の前へとジャーキーを出す。

 このジャーキー、ポヌポヌ犬の体重の半分くらいの重さはありそうだ。太くて長さもあるし、どうやって持って帰るのだろうと心配になった。


「あの、もし袋が必要だったら用意しますけど」


 そう言った私に、ポヌポヌ犬は一度だけ尻尾を揺らした。それからフンフンとジャーキーを嗅ぐと、徐に口を開けてそれをあぐっと咥える。ジャーキーが太いので口を目一杯使って咥えているような感じになっていた。

 何度か噛む位置を調整してから、ポヌポヌ犬がジャーキーをぐっと持ち上げた。


「おお……」


 結構重いのに、落とすことなくしっかりと咥えている。ポヌポヌ犬、もしかしてかなりの猛者なのだろうか。かわいい見た目とポヌポヌした足音をしているのに。

 一度私の方を見てパタパタと尻尾を揺らしたポヌポヌ犬は、そのままポヌポヌとカウンターの天板から下の壁を通って降り、床をドアの方へと歩き出す。私は慌てて付いていって、外へと繋がるドアを開けた。


「お買い上げありがとうございました。あの、またぜひ来てくださいね」


 ジャーキーを咥えたまま顔を上げて私を見た犬が、アフと鳴いて尻尾を揺らす。そしてポヌポヌと音を立てて帰っていった。

 その足取りはしっかりしている。少し尻尾が揺れているのは、歩いている反動だけではなさそうに見えた。

 ポヌポヌ聞こえる後ろ姿を少し見送ってから、ドアを閉める。ふうと息が出た。


 せっかく作った価格表だけど、全部作り直さないといけない。こっちの言葉で書き換えるってどうやればいいんだろう。私には日本語として見えてるから、何か方法を探さないと。こっちの言葉ならパソコンで出力はできないだろうし。サフィさんに手伝ってもらったほうがいいかもしれない。


 でも、買ってもらえた。いつも残念そうに帰っていくだけだったのに、今日はちゃんと欲しいものを教えてもらって、そして売ることができた。


「よっしゃー!」


 達成感から思わずガッツポーズすると、いつのまにか出てきていたテピちゃんたちもテピー! と声を上げた。

 売り上げを記録するノートに、日付と品物と値段を書き入れる。まだ1ページ目の上半分しか使われていないそれには、上級南国果実B以外の文字が初めて並んだ。






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― 新着の感想 ―
[良い点] おおっ! やっとポヌポヌ犬の欲しい物が判りましたねー、本当に良かった♬ 写真入りのカタログを作成すると良いかもですね! てぴー♬
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