はじめての魔術19
「ユイミーちゃんさまの修行先は……強い人が沢山すぎます……」
「バイト先だから。修行じゃないから」
今日も魔王さんのマンゴータイムにジーッと凝視され、巨大な犬っぽいお客様には嗅がれまくり、魔術ノートは普通の本みたいに沈黙していた。お客様が途切れた頃にそっと半透明の頭を出し、ピーピーと遊びまわっているヒナたちを見下ろして「どうりで図太く育つはずです……」と呟いている。
しまってある状態で頭を出すと、棚から生首が生えている感じが不気味なのでやめてほしい。鹿の剥製とかの壁に飾るやつみたいになっている。
魔術ノートをカウンターの上に出すと、半透明な少女はニコッと笑った。
「ではユイミーちゃんさま! 誰もいない隙に魔術の勉強をしましょう!!」
「熱心だねー」
「もちろんです! 私の主さまであるユイミーちゃんさまは偉大な魔女となる方なのですから!! 私も早く優秀かつ貴重かつなくてはならない大事な魔術ノートとなり、ユイミーちゃんさまの手助けをしなくては! とりあえずの目標は同期トップに立つことです!!」
「同期って誰」
「同じ箱に入れられて出荷された魔術ノートたちです!」
ノート的には、ロット単位で同期扱いなようだ。
箱一杯に喋るノートが詰められてたら、倉庫が騒音で大変なことになりそうである。
「魔術ノートってそんなに沢山作られてるの? 魔女見習いって結構いる?」
「情報が不足していますので人口に対する魔女見習いの比率はわかりませんが、魔女の血は世界中で受け継がれています。探知能力が向上すれば、周囲にいる魔力が強い人間を判別できるようになりますし、魔術陣テスト初級に合格するとサバトと呼ばれる魔女集会に参加できるようになりますよ! 直近のサバトは2ヶ月後です! しっかりと勉強してテストに備えましょう!」
「別に会いたいわけじゃないから集会とかはいいかな」
「魔術陣の初歩知識は、現在学習中のページから30ページ後にあります! コツコツ進めていけば2時間後には学習を始められますよ!」
「コツコツっていうか詰め込む気満々じゃん」
カウンターの上の半透明生首がイキイキしている。
魔女を目指している女の子であれば、こうやって一緒に勉強し、それを喜んでくれる存在はとても心強いのかもしれないな、とちょっと思った。思っただけで学習意欲は湧かないので、ゆっくり進めることにする。
「復習ワーク1ベーシック「清めた指で点線内に触れてみよう」はやったから、次はアドバンスか……『血などの穢れに触れてから点線内に触れ、反応がないことを確かめよう』……」
気軽に血に触れられる前提で話が進んだりするの、魔女のテキストっぽいなあ。
「これはあとで料理するときに鶏肉触ればいいかな」
「ワークを飛ばすのはオススメできませんが、ユイミーちゃんさまならきちんとやってくれると信じているので大丈夫です! 先に応用エクササイズをしてみますか?」
「応用エクササイズ……」
[応用エクササイズ]
ごく軽い気配であれば、清めた手で祓うことができます。
日常に潜む小さな悪意や殺意を見つけたら、手で触れて消してみましょう!
ヒント)悪の属性に親しみを持っているタイプの魔女は、善意に触れてみると消すことができます。
「ヒントが怖いわ」
「ユイミーちゃんさまは偉大なる善の魔女になりそうですから、そこは気にしなくて大丈夫ですよ!」
「そういう問題じゃない気もするけど、この小さい悪意や殺意ってなんか灰色で丸くてフワフワしてるやつ? なんか今日いっぱい潰したよね」
「ゲヒッ」
タイムリーなエクササイズだ。
パチッと鳴って消えていたのは、やっぱり手を清めていたのが何か関係していたらしい。そしてやっぱりあの灰色の綿毛っぽいやつは、あんまりよろしくないモノの塊だったようだ。
……つまりテピちゃんたちの「てっ」も、小さな悪意か殺意の塊ということだろうか。後ろを振り返ってテピちゃんたちを見ると、さっと視線を逸らしたちっちゃい集団が白々しく動き回っていた。
「もうやったのですか?! すごいです! 流石は私の主となったユイミーちゃんさま!! 天才! もう魔女として目覚めるのもすぐです!!」
「テンション高いね」
「流石ですね〜あぁ〜偉大な魔女となったユイミーちゃんさまの小脇に抱えられる、しっかりと使い込まれた私……うふ、うふふ」
「ちょっと変な妄想やめて」
半透明の生首が、虚空を見つめてウットリと笑い始めた。普通の表情をしているより格段にホラーめいている。
なんとか現実に戻ってもらおうとしていると、ガチャッとドアが開いた。
ドアノブを握っている銀色の甲冑さん、そして背後にいる甲冑集団と目が合う。
「……」
「うふふ、ふふ、うふふふ」
「……」
銀色の甲冑さんはカウンターの上へと視線というか兜を向けたあと、そっと下がって一旦ドアを閉じた。




