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(仮)ゲーム制作日記  作者: 少々
② オープニングなきゲーム
9/24

ゲーム漂流日記 その6

その後も歩くたびに薬草とモンスターが代わる代わる現れた。

一番素早さが高いやつで14くらい。

はじめのほうでは見ることのできなかった値だ。

さすがに3つもステージクリアしていると素早さも高くなっていく。

こっちは素早さがあがらないのに、理不尽だ。

おかげで3回の戦闘でスタミナを250も使うはめになった。


残りのスタミナは44。

あと一回の戦闘で勝てるか勝てないかくらいだろう。

貧血のときのようにふらふらする。

めまいがしてまっすぐ進めない。

きっと今の移動速度はナメクジ並みだろう。

明らかに設定方法をミスったな。

素早さがここまで戦闘に影響するとは制作時には思わなかった。

試行のときは一律スタミナを100ずつ投下して作動に異常がないかを確かめるくらいだったから、実際にゲームとしてやってみる視点での調整がまだ終わっていなかった。

こうしてプレイしてみると、パワーバランスの調節って難しいもんだな。

モンスターに有利にするといつまでも負け続けることになる。

かといって勇者(爆)を強化するとモンスターが瞬殺で張り合いがない。

それこそ何百回も試行することによりプログラムのミスやパワーバランスをなんとかしていくのだろう。

…………そう考えると、未完成のプログラムの中に取り込まれるってどんだけハードモードなんだよ。


『モンスターが現れた!

MHP:220 MSP:6 MPP:7 MOP:8 MEP: 470

ステータス 体力243 スタミナ 44 素早さ2 防御力17 攻撃力16 です』


素早さ6か。

スタミナを全部消費するのは恐い。

なんとかスタミナ40消費で勝てるか……?


『勇者の攻撃

モンスターに 598 のダメージ

勇者は勝利した。』



なんとかなったらしい。

一気に体に負荷がかかる。

一歩も動きたくない。

額から脂汗がしたたるようだ。

このまま倒れ込んで気を失うことができたらどんなに楽だろうか。

それはきっと優しく俺を包み込み、気持ちのいい眠りに俺を誘うだろう。

でも、俺はスタミナ回復薬が見つかる可能性にかけたのだ。

何の抵抗もせず身を任せたらその時点で俺の中の何かが終わるような気がした。

重い、苦しい、辛い、嫌だ、苦しい

早くこの苦しさから逃れたい。

ログよ、早く更新しろ。

宝箱、宝箱、宝箱、宝箱………………。

これだけを念じながら、這うようにのろのろと進んだ。 












『魔王が現れた!』



 こ  の  タ  イ  ミ  ン  グ  で  か  よ 



『「地獄のふちへようこそ、勇者よ

さぁ、死の舞を舞おうではないか」 』


はっ、はははっ、ははははははは、はははははははははははは………………

元の世界に帰れるチャンスが最悪のタイミングでやってくるなんて。

どんだけ間が悪いんだ。

もう、笑うしかない。

神様なんてのがいるとしたら、きっと悪趣味なやつだろう。

しかも、かなりの。

てことは、人の性は性悪説に違いない。

子は親に似るって言うし。


こちとらもう死にかけだ。

自分が立っているかもわからない。

死の舞?

勝手に一人で踊ってろ。

投げやりにスタミナを4消費する。

だからといってなにができるわけでもないが。

ナメクジができることなど何一つありはしない。

地に這いつくばりつぶされないようにするので精一杯だ。


魔王はむかつくほどゆっくりと近づき、俺の腹を蹴り飛ばした。

衝撃。

宙に舞う浮遊感。

一瞬意識が飛んだが、地面にぶつかった衝撃で手放した意識が戻ってくる。


俺は地面に這いつくばりながら、こちらを観察するようにじっと動かないそいつを見上げた。

こいつはその他大勢のモンスターとは違う。

あいつらは境目のないゆがみだ。

どこまでがゆがみでどこからが空間だかはっきりとしていない。

ぼんやりとして、確固たる形がない。

色のない世界で、ぼんやりと存在する異物。

勇者オレを阻むためだけに存在する障害物だ。

対して、こいつ、魔王は人形ひとがたになっている。

空間が人形に切り取られているといえばいいだろうか。

ぽっかりとできた存在感のある異質な空間。

ゆがみは流動的に変化しつつけているが、境目を越えることはない。

まるで盆の中で絶えず変化している水面のようだ。


それに、殺気の質が違う。

モンスターが放つのは殺気というより害意だ。

勇者オレを阻もうとするが、そこに確固たる意思は感じられない。

こいつほど明確な殺る気をまとっていない。

こいつの殺気は、なんというか、覚悟があるような感じがする。


己を正しいと信じ、罪人の首を落とす断罪者


どうしてそう思ったのか、自分でもわからないが。

なぜ俺にこんな殺意を向けるのか全くわからない。


魔王はおもむろに右手を前に突き出し、手のひらを上に向けた。

その上にライムカラーの光が集まり、野球ボール状の球体をつくり出した。

眩しい光を発する、見るからに高エネルギーの球体。

それはまるで深呼吸をしているようにゆっくりとした間隔で点滅を繰り返していた。

最後の長いため・・の後、球体は一際強く輝きだした。

それの直前になって、俺の思考はある可能性に行き着いた。

ちょ、待て、それは反則……!

光の洪水が視界を覆い尽くす。





薄れ行く意識の中、声が聞こえた気がした。


「勇者などたいしたことないわ。」


『勇者は敗北した。』


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