ゲーム遭遇日記 その4
とにかく、ふたを開けてみる。
ゆっくりと開くふた。
ごくりっとつばを無意識にのむ。
そして、ふたが完全に開いたとき、中に見えたものは、液体の入った三角フラスコ。
よく実験で使う高さ20cmほどのあれだ。
その底から高さ5cmくらいまでなんかしらかの液体が入っており、口のところは磨りガラスになっている。
軽く振ってみると、右へ左へかすかに粘度のある灰色の液体が揺れていた。
これは……怪しい薬か?
色的にかなり怪しい。
薬だと渡されても、どことなく飲むのをためらい、不安にさせる色。
まさしく灰色てやつだ。
「怪しい薬」なら、スタミナの容量が少し増える。
怪しすぎて飲む気が失せるが、今後は素早さが増えずにスタミナの消費量が増える一方になることを考えるとスタミナの容量が上がるのはかなり有用なポイントだ。
それは間違いない。
……でも、怪しい薬と決まったわけじゃないんだよな……。
『よくわからないもの』というネタアイテムの可能性ある。
『よくわからないもの』は何の効果もない。
得るものは期待をさせて何もなかったという精神的ダメージくらいだ。
もしもそうだったら思いっきり放り投げてやる。
とりあえず、ドキドキしながらログを確認する。
『ポーションを手にいれた。』
どうやら、この怪しげな薬はポーションのようだ。
ポーションの効果は『スタミナと体力の回復』。
地面をはいながら切実に欲したのはこのポーションだが、そこまで切羽詰まっていないからありがたみが薄くなってしまう。
それに、『スタミナ増加』の効果のある『怪しい薬』を期待した後の落胆、実物の色の残念さ。
がっかりだよ、効果的にも、テンション的にも。
さて、この不気味な色の液体を飲むことはまったくもって不本意だが、これを飲まなければ先には進めない。
意味なく何回か振ってみたり、ひっくり返してみたりしたら、かすかに泡立ってますます気持ちが悪い。
あれだ、見た目的には振ってあわ立ってしまったペットボトルのお茶だ。
泡立つってことは界面活性剤でも入っているのか?
いやまぁ明らかに水とは違う液体なんだけど、むしろ水溶液かもわからないし、というか水溶液じゃなかったら飲んで大惨事になるんじゃないか……?!
そんなくだらない現実逃避も空しいばかりで何の利益にもなりはしない。
覚悟を決めて、ふたを開け、フラスコの口の辺りを手で扇ぎにおいを嗅いでみる。
あ、ここポイントです、直接真上から匂いを嗅いではいけません。
化学のテストにも出ますから要注意。
まぁ、これから飲もうとする液体だからそんなことしても意味はないんだがな!
……無臭? いや、かすかに果実のような甘酸っぱい香りか?
系統は……バナナか、リンゴか……?
少なくとも害のありそうな匂いではなさそうだ。
(筆者注:匂いだけで安全か絶対に判断してはいけません。)
予想外の匂いに勇気づけられ、目をつぶって一気にあおった。
口に広がるネクターのようなどろっとした口触りと、米酢のような独特の酸味。
かすかに甘いが、それが奇妙な風味を際立たせ、ますます気持ちが悪くなる。
正直、一気に飲んだ俺は勇者だと思う。
飲んだあとは口と目から液体が止めどなく溢れてきた。
身体が液体を拒絶している。
『スタミナが 100 回復した。
体力が完全回復した。』
キモチワルイ……
しばらく動きたくない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
嘔吐と胃の痙攣(と思わしき症状)から復活した俺は、再び『名もなき原っぱ』を進んでいく。
腰ほどまである葉っぱのせいで歩きにくいが、足で草を掻き分け少しずつ進んでいく。
道なき道を進んでいく。
俺の前には道はない、俺が歩いて道ができるんだ。
これぞ真の旅人、冒険者だ。(ドヤッ)
……なんてきりっとしてみたみた瞬間、前方の茂みから草の揺れる音が。
復活からの移動距離は100mにも満たない。
まったくもって締まらないな。
『モンスターが現れた!
MHP:240 MSP:11 MPP:13 MOP:6 MEP: 375
ステータス 体力297 スタミナ 327 素早さ2 防御力22 攻撃力20 です』
モンスターの姿が背の高い草に隠れて見えない。
背の低いモンスターなんだろう、素早さ11というのも油断できない。
姿が見えないとなると視覚を頼りにするわけにはいかない。
目を瞑り、音だけを頼りに気配を探る。
後方右斜め後ろ。
がさっと一際大きく草の揺れる音。
角材を思いっきり振り抜きモンスターをなぎ払う!
そこだぁ!!
力強く振り切った角材はあっけなく空をきり、ぶんっという音だけが虚しく響く。
当てが外れ態勢を崩した隙に、待ってましたとばかりにゆがみが俺の右前方から飛びかかる。
右腕を思いっきり噛みつかれ小さな歯が腕に食い込む。
異物に噛み付かれた腕を反射的に振り払い地面に叩きつけた。
小さな人型のモンスターが草の上でバウンドし、その形に草が倒され草原にくぼみを作る。
しかしその時間もわずかであり、原っぱが風に揺れて波がひとつ過ぎ去ったのちにはモンスターも解けて消え去り、すでに元の草原にすっかりと戻っていた。
若干緊張であがった息を整え、先に進む。
先ほどの戦闘(といえるかはわからないが)でスタミナを190も消費していた。
はじめの一撃に90、たたきつけるのに100だ。
最終的に与えたダメージは1766。
まさしくオーバーキルだろうがスタミナ三桁消費しなけりゃダメージも与えられないんだから仕方がない。
というか、さっきのポーションで回復したスタミナが攻撃一回でぱぁになるとか、ますます無駄な気がしてならないぞポーション。
スタミナが一気に消費されたせいで若干だるいが気にしない。
こんなのをいちいち気にしていたら一向に進めやしないんだし。
わっさわっさと草を掻き分け進んでいく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『モンスターが現れた!
MHP:200 MSP:13 MPP:12 MOP:7 MEP: 425』
遠目からも見えたやつは以前触手で袋叩きにされたあいつだ。
以前は中心のぼんやりとしたゆがみから細長いのが出てきていたようにしか見えなかったが、今はもっとはっきりとした形で見える。
球根のような先のとがった本体からツタのような6本の触手が出てきてうねっている。
うにょんうにょんと触手が踊り、まるで俺を挑発しているようだ。
つまり、これはリベンジってやつだな。
俺はそんなちんけな触手には屈しない!
そうだ、俺は風になる。
今度こそ、走り抜けてやるんだ!
風をきり、走り抜け、つまづき、宙を舞う。
すぽっと角材が抜け、ゆがみに向かって孤を描き落下。
先端が触手の根元、球根っぽいもやに突き刺さる。
うねうねとしていた触手は俺の鼻先でフリーズし、そのまま溶けてしまった。
立ち上がり、手のひらを見る。
次に草の上に落ちた角材を見て、もう一度手のひらを見る。
忌々しい角材は手から離れ、この手手のひらには何もない。
つまり、これは ……自由だぁ!
重い身体も気にならず大きくガッツポーズ。
念のため角材をできるだけ大きく迂回し、先に進む。
異様に身体が重いと思ったら、さっきのでスタミナを120も消費していた。
重い身体を引きずるように草をかき分け進んで行くと、後ろから風を切るひゅっという音。
なんだと振り向くと目の前に白い四角。
ヒット!
はっと目が覚めると俺は大の字にのびていたようだ。
頭上で妖精さんが心配そうにくるくる旋回している。
頭を振り、よっこらせと起き上がると、
「あー、やっぱりか」
右手にしっかりと握られた呪いの角材。
増えないスタミナと重い身体にもう怒る気もしない。
どうやら、この呪いからは逃れられないらしい。
もはや笑うしかなかった。




