第2章 暗黒邪神ザドレア、危機一髪! 8-9
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「こ、これは一体……!」
「ま、まさか、絶対防御障壁の境界面上にはりついている!?」
「ありえない!我ら魔法師全員が思念を振り絞り、祈りを捧げることで構築した障壁だぞ!全ての邪なるものは、数メートル以内に近づいただけで骨の髄まで灰燼と化すはずだ!なのに消滅するどころか、のうのうとその上にはりつき、我々をにらみ据えるなんて!」
「うろたえるな!それができるからこその暗黒邪神なのだ!我らがこれまで相手にしてきたものどもと、同じように考えてはならぬ!」
部下たちを叱責しながら、リョウ・ヘイズ本人も、やはり驚愕と畏怖の念のこもった目で邪神を見つめないではいられなかった。
砦の周りに張り巡らせた障壁は、それだけ強力かつ巧妙な、長年の魔法研究の精華、「芸術」といっても良いほどの完成度を誇るものだったのである。
構築する魔方陣と詠唱する祈祷文により、魔法障壁は、大きく三種類に分けることができる。それぞれ対魔法防御、対物理防御、対化学防御に特化したそれらの障壁は、高レベルなものになればなるほど、目標となる力による攻撃を、ほぼ完全に無力化することができる。が、その反面、それ以外の力による攻撃には、極めてもろくなる。最上級対魔法障壁であれば、邪神の操る喪術であっても、おそらくは完全に防ぎきるであろうが、その分物理力には極めて弱くなり、子供が手にしたおもちゃのハンマーでひとたたきしただけで、あっけなく崩れ去ってしまうのだ。
だから、戦場や魔獣討伐の時には、敵が使うであろう力を正確に予測し、それを防ぐに足る障壁を数多くの魔法の中から選び、構築することで、相手の攻撃を封じ込めるようにする。ショターニキ魔法師団は、この方法により多くの難敵を封じ込め、「ケメンの地最強の盾」の呼び名をほしいままにしてきたのである。
が、今回の敵は、「歩く災厄」。とてつもない喪術力と、計り知れない物理力、そして、おそらくは計り知れない化学力をもその身に秘めた、強大な敵である。その力を封じ込めようと思えば、最上級の障壁を使うより方法はない。しかし、それでは邪神の持つ多くの力のうち、ただ一つの力を封じ込めるのみ。到底その侵攻を阻むことはできないだろう。
違う種類の障壁を幾重にも張り巡らせてはどうか、という意見も出たのだが、属性の異なった最上級障壁は、その性質上、大変相性が悪い。それぞれの障壁が少しでも触れ合えば、互いの持つエネルギーを食い合い、双方消滅してしまうのだ。かといって、障壁と障壁との間に少しでも空隙があれば、それはただ、最上級障壁をいくつか展開した、というだけに過ぎなくなり、邪神がそれぞれの障壁に異なった属性の力を発揮すれば、簡単に打ち破られてしまう。
相性が悪く、互いを食い合う障壁同士をいかに手なずけ、無理なく一体化させるか……魔法師団は手分けして所有する魔法書を精査したのだが、そのような記述はもちろん、手がかりとなるようなことすら、どこにも見出すことはできなかった。
進退窮まったかに思われたところで、ついに、
「団長。こうなればもう、地下に封印されしかの禁断の書を用いる他……」
と、魔法に長けた団員の一人が、悲痛極まりない顔でリョウに耳打ちする。
「なにを言うか!あれは、500年前の侵攻時、邪神そのものが残したとされる書物!そのようなものに頼るなど……」
「分かっております!しかし、かの書物に秘められた強大な力を使うより他、解決の方法など……」
「だめだ!あれは、邪なる力が凝り固まって書物の形をなしたもの。確かにその秘められたエネルギーは例えようもないほど強大ではある。だが、我らが奉じるシキタカーイの神々の白き光とは対極をなす、汚泥の中のドロドロした黒きうねりそのものだぞ!ワイカコイ神のしもべたる我らがそのような汚らわしき力を用いるなど、言語道断!よいか、二度とあの書のことは口にするな!」
「しかし、それではどのようにして……」
再び皆がうなだれたその時、沈痛な面持ちながら、ただ一人、しっかりと顔を上げてリョウを見つめたのが、ここ数年、他の誰よりも魔法術の研鑽に力を注いできたジューン・シースであった。
「どの魔法書に記されていない、ということは、我らで全く新たな障壁の展開方法を考え出さねばならぬ、ということでございますね、団長?」
「うむ……まさに、そうなる」
「実は……私に一つ、考えがあります。これまでその必要がないゆえに誰も試してこなかったと思われる方法が」
「申してみよ」
「はい……」
リュゼが語ったその方法とは、異なる属性の最上級障壁同士の間に、それぞれの障壁と相性のよい中級障壁を展開し、その障壁を緩衝材として一体化させる、というものだった。
「なんと……そのような方法、聞いたことがない」
「はい、私もそのように思いました。ですから、かなり以前に着想を得てはいたものの、今まで試すこともしなかったのです。これまで我らと相対した敵はおしなべて力弱く、新たな障壁魔法など必要ありませんでしたし」
「ふむ……たしかに」
「先人の記録にこのような展開法の記載、あるいは展開しようとしたものの失敗した、という記載がないのは、おそらくは誰もが同じように考え、わざわざ試してみようなどという気を起こさなかったからではないでしょうか?もしそうであるなら……」
「なるほど。邪神による侵攻という未曾有の危機に陥った今こそ、試みるべきかもしれぬな……」
「ええ。もちろん危険はあります。最上級障壁3枚に、その間に緩衝材として挟む中級障壁2枚、計5枚もの障壁を、我らの力で安定して展開することができるのか。うまく安定させられなければ、最上級障壁同士の対消滅により大爆発を起こすでしょうし、安定したとしても一体化まではできず、結局弱点を克服できないままに終わるかもしれません。しかし……」
「そうだな。少しでも可能性があるならば、試してみるべきであろうな……」
リョウのそのつぶやきにより方針が決まり、師団は総力を挙げて障壁の構築実験に取りかかることになったのである。
まずは、対魔法力と対物理力の最上級障壁二枚と、緩衝材となる中級障壁1枚の構築だ。
二枚の最上級障壁を維持しながら、間の中級障壁を次々に変え、それぞれが安定した状態を保つことのできるものを試行錯誤していく。
雲をつかむような試みの中、障壁を維持することによる疲労で、団員は次々と倒れていった。が……一度脱落したとしても、しばらく休みを取ると再び、這うようにして団員の作る輪の中に戻り、一心に呪文を詠唱しはじめる。
そのような体力精神力をぎりぎりまで振り絞る努力を三日三晩続けた末、
「やったぞ!」
「ええ、今までのように崩れ落ちたりしない!ずっと安定して形を保ってます!」
彼らはついに、障壁三枚を安定して一体化させることに成功したのである。
この偉業に力を得た騎士団は、次に物理力と化学力の最上級障壁の一体化実験に取りかかり……狂熱という他ない熱心さによって、ついにこちらも成功させた。
そして、ついに、5枚の障壁を一度に展開する最終実験に挑んだのである。
「よいか……皆のもの、参るぞ」
「はっ!」
リョウの号令により、団員一同は揃って目をつぶり、割り当てられた障壁構築のための詠唱をはじめる。
と、一箇所にあまりに大きなエネルギーが集中したためか、空間が虹色に沸き立ち始めた。
あまりの熱と光に団員は皆、顔をゆがめ、吹き出た橋から汗が蒸発していくのを感じながら、それでもなお、一心に呪文を詠唱する。その必死の努力が奏功したのか、それぞれが暴竜のようにのたうっていた虹の一色一色はやがて徐々に安定し、ゆっくりと重なりあい、融合して、精妙な複合障壁と化していく。
そして。
ある一瞬を過ぎると、沸き立っていた空間は一挙に静まり……詠唱前となにも変わらないように見える穏やかな森の光景が、再び彼らの目の前に戻ってきた。
「なんだ……?障壁はどうなった?失敗か?」
うっすら目を開けたリョウは、周囲の状況を見て取るなり、明らかな落胆のこもったそんな独り言をつぶやいたのだが……。
「団長!これを……これをご覧ください!」
副長のリューノが、手にした長槍で思い切りなにもないはずの虚空を突く。と、ある程度のところまで鎗の穂先が進んだところで、穂先の先端に虹色の輝きが生じ、そのまま柔らかく穂先を包み込むと、ゆっくり押し返した。
「これは対物理障壁!しかも、あまりに強い魔力を融合させたゆえにか、通常の障壁にはない弾力を生じ、柔らかく攻撃を受け止めることで、破砕をより困難にしている!」
思いもしなかった嬉しい副作用にリョウが驚きの声を上げると、そこへジューンが、
「誇り高き炎の精霊よ、聖なる主のしもべたる我の願いを聞き入れ、その力を顕現し給え……ファイア!」
なおも障壁に霊力を注ぎつつ、呪文を詠唱し――器用なことをする男だ、とリョウはひそかに感心した――指先に生じた熱波を正面にほとばしらせた。
と、その膨大な熱エネルギーも、障壁の色をわずかに変化させただけで、跡形もなく吸収されていく。
「魔法障壁も完全に機能している……となると、後は化学障壁だな。誰か、捕虜を一匹連れてこい!」
ケントが怒鳴ると、すぐさま従士が二人、階段へと向かい……間もなく、地下牢に幽閉していた下等生物を一匹、槍先でつつくようにして引き立ててきた。
「……いつ見ても醜いな」
神の嘉したもう清浄の地ケメンに、邪神とともに突如湧いて出たウジ虫。一目見るだにそのむさ苦しさに顔をしかめ、不細工さにむかつき、いじいじした惨めったらしい態度には憎しみすら覚える。
「あ、ああの、なんでごぜえましょうか?お、おら、なんも悪いことはしてねえだよ。おら、悪いウォマイラではねえだよ……」
下劣で下等なウォマイラのくせに、生意気にもおびえた表情を浮かべ、あまつさえ我らケメンの民に面と向かって口を利くとは、なんと傲慢不遜な……と、リョウは顔をゆがめた。そして、
「よいウォマイラは死んだウォマイラだけだ。やれ」
と、背後で鎗を構えた従者に命じる。
かすかにうなずいた従士は、突きつけていた鎗を一度後方に引くと、大きく足を踏み込んで再び前方へと素早く突き出し、その鋭い穂先で、ウォマイラの片腕を突いた。
「ぐぎゃああああ……!」
聞くに堪えない汚らしい悲鳴があがる。
白銀色の鋭利な槍先がたちまち緑色とも紫色ともつかない血液がで醜く汚れていく中、ウォマイラはもだえるように身体を揺さぶり、刃先を引き抜こうとする。
その弾みで、傷から噴き出す血が、四方に飛び散った。
「気をつけよ!決してあの血に触れてはならぬぞ!」
「は!心得ております!」
ウォマイラの血液はケメンの者たちにとって毒であり、身体に付着すればたちまちかぶれてひどいブツブツを作るし、万が一口に入りなどすれば、その後一週間は下痢と高熱が続くのである。
従士は、自らがそういった憂き目に遭わぬよう、あくまで慎重に槍を操りつつ、「あぐう!ひぐう!」と悲鳴を上げ続けるウォマイラを押し出すようにして前方へと進ませる。
その足先が障壁のある辺りへとさしかかったところで、突然、ウォマイラの発する声が悲鳴へと変わった。
「ぐぎええええええええええっ!」
見ると、障壁に接したはずの足先がまずは黒い粉と化し、さらに緑色の炎を放ちつつ灰となって、そのまま虚空に消えている。
「おお……!猛毒に耐えるばかりか、悪しきものを消滅させる効果まで!」
リョウが感嘆の声を上げる中、なおも従士は鎗を押す手に力を込める。
「ぐぎゃああげぶうおがうええええ……!」
無理矢理障壁に押しつけられたウォマイラは、断末魔の叫びのみを後に残し、体全体から地獄の炎をあげつつ、炭化し、灰となって消滅した。
「……まさか、最上級障壁を融合させることで、こんな効果が生まれるとは!全く予想外です!」
ジューンが弾んだ声を出し、
「ああ!まさにその通り!団長殿、これなら……これならば、さしもの邪神とて、その存在をこの世より抹消できるに違いありません!」
リューノが歓喜の表情となる。
リョウは、ゆっくりうなずくと、その峻厳な顔に、希望の笑みを浮かべた。
「全てはワイカコイのお導き。とはいえ、皆のもの、よくやってくれた。これぞまさしく、我らがショターニキ魔法師団の神髄!あまたの先人たちのなしえなかった偉業を、我らは今、成し遂げたのだ!これで我らの勝利は決まったも同然!皆のもの、今こそ、邪神の襲撃に備えよ!盤石の構えでもって、かの強大なる悪を打ち倒し、我らの名を不滅のものにするのだ!!」
右手を挙げて高らかに宣言したリョウ・ヘイズに、団員全てが「おおう!」と唱和したのである。
そして、現在。
「皆のもの、今一度落ち着け!よいか、かの邪神は確かに、障壁に触れても消滅しておらぬ!だが、我らの障壁とて、邪神の放つ瘴気に耐え、いまだ消滅することなく存在し続けている!これすなわち、かの唾棄すべき神の黒き力と、我らの聖なる白の力とが拮抗しているということ!」
リョウが大声で叫ぶと、狼狽の色もあらわであった団員たちは、はっと顔を見合わせ、
「なるほど、確かに!」
「我らの障壁が邪神の力に耐えているのだ!」
口々に、驚きと喜びの声を発する。
そこですかさず、
「よいか皆の者!今一度思念をこらせ!このまま障壁で邪神めを包み込み、閉じ込めてしまえば、必ずやその息の根を止められる!今一度、ひたすら神に祈りを捧げるのだ!」
リョウは鋭く号令を発した。
その言葉に、多くの団員が慌てて跪き、一心に祈りの言葉を唱和しはじめる。
「ジューン!かの邪神を中心に障壁を張り巡らせよ!皆の祈りの力により、障壁を牢獄と化すのだ!」
「はっ!」
皆が唱和する祈りの声にかぶせるようにしてやや複雑な呪文を唱えつつ、ジューンは、突き出した両手をゆらゆらと一定の法則に従い、動かしはじめる。一度構築した呪文の細部を書き換えていくことにより、障壁の形態を変形させようとしているのである。
唱和する祈りと、変形術式とが溶け合い、完璧に調和の取れたハーモニーとなって響き渡ったその時。それまで空中にはりついていた邪神は、突如何の支えもなくなったかのように、遙か下方の街道へと落下しはじめた。
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あああああ……皆様なんてお美しいのかしら。ことに、帝都でお目にかかったりりしい団長様、そして、その左右に立っていらっしゃる、まだ10代と思われるお二方の、まぶしいほどの美貌といったら!神々しいまでに整ったお顔立ちといったら!ああああ、このままずっと、ここから静かに皆様を眺めていたい……できれば、この塔の床石になって、皆様の尊いおみ足で顔を踏んづけられていたい……は、あたしったら、なんておそれおおいことを!いえ、でも、皆様きっと分かってくださるわ、このあたしがどれほどの思いでこの場にいるのか、そしてきっと、このゴミクズ同然のあたしの願いを叶えてくださるはず!
きらびやかな鎧に身を包んだイケメン様たちのお姿を、かげりのない賛美の目でひとわたり観賞させていただいた後で、あたしはデロリとした笑顔になった。
……いんや~、ここんとこずっと、ブッサイクなツラばっかりに囲まれてた後だから、余計に心が洗われるわ~。やっぱりいいわ、イケメンは!ぐひひひひひ……。
初めのうちこそ「常識をわきまえた、慎ましいイケメン好き喪女」として、あたしは控えめにおしとやかに思いを巡らせていたのだけど、これまでの禁イケメン欲生活の反動で、ついつい本性と欲望がダダ漏れしてしまう。
あたしは、他人に聞かれたら間違いなくドン引きされるような下品な妄想を思う存分巡らしつつ、こちらを指さし何事か叫んでは右往左往しているイケメン様の群れを、ねっとりと絡みつくような視線で、なめ回すように見ていた(ブサイクな男がカワイイ女子をこんな目で見つめたら犯罪だけど、いたいけなJKがイケメン様をじっとり見つめるのは全然OK、だよね?ね?)。
と、ようやく自分を取り戻したらしい団長様が何事か号令を発したかと思うと、それまでの混乱がいきなり収まり、イケメン様たちは美しい隊列を組んだまま、跪いて一心に祈りを唱和しはじめた。
あああああああ……!突然の出来事に混乱し、おびえた表情のイケメン様たちも素敵だったけど、こうして統制の取れたお姿で、その整ったお顔に怖いぐらいの真剣な表情をお浮かべになったお姿は、さらに格別!いや~……目の正月とはこのこと、全くたまりまへんな、ぐへへへへ……。
喜びのあまり下品なオヤジと化した状態で、さらに食い入るようにイケメン集団に見入っていたのだけれど――そして、できればこのまま、死ぬまでこうして過ごしていたいと思っていたんだけれど――団長様の左隣の若イケメン様の片割れが何やら両手を突き出し、ぐにょぐにょ動かすやいなや、それまであたしの体を支えていた「ふんわり柔らかくて暖かい、虹色透明ビニール製タオルケット的ななにか」がいきなり消え去った。
え!?
あたしがのぞき込んでいた窓は、街道をまたぐようにして造られた砦の、そのまた上にそびえ立っている塔のてっぺん近くにあり、そこから砦の屋根まで、優に50メートルはある。支えがなくなったあたしは、その高さを一気に落下した。
ひゃあああああああ!落ちる!落ちる死ぬ死ぬ!
砦の思い切り固そうな石の床が、みるみるうちに迫り、あたしは思わず目をつぶる。
が……あにはからんや、体が屋根に激突した瞬間、いつの間にかあたしの身体を柔らかいゴムのように包み込んでいたさっきほどの「虹色ビニール的ななにか」がぐにょりとクッションになり、柔らかく受け止めてくれたのである。
よかった、助かった……と思ったのはつかの間だった。
落下の衝撃こそなかったものの、どうもこのクッション、やたら跳ね返る力が強いらしく、ぐにょっとへこんであたしを支えてくれた次の瞬間、たちまち元のまん丸な形に戻り……競技用トランポリンかよ、という勢いで、あたしを再び空中はるか、元いた窓のすぐ下辺りの高さまで放り上げたのである。
ぎょ、ぎょええええええ……!
さっき落ちたのは砦の屋根だったから、高いとはいえそこまでじゃなかった。けど、今度は屋根の傾斜に沿ってやや斜めに飛ばされたため、落下予定地点は砦を飛び越えた、街道のど真ん中らへんになる。でもって、砦は街道から7、80メートルぐらいの高さにそびえているから……結果あたしは、120メートル以上上空から、地面に向かって真っ逆さまに墜落することになった。
マスキングテープぐらいの太さに見えていた街道が、みるみるうちにガムテープになり、帯の太さになり、歩道ぐらいの幅になったところで、無我夢中のあたしは思わず、
「バンジー!」
と叫び声を上げ、目をつぶる。
が、またもや虹色のクッション的な何かがぐにょっと変形してあたしを支えたかと思うと、超絶反発力であたしを空中へ跳ね返す。
「ひええええええっ……!」
思い切り地面に打ちつけられたスーパーボールさながら、あたしは何度も何度も地面に落下しては跳ね返され、落下しては跳ね返されをくり返した。その間ずっとわたわたもがいていたせいか、はね上げられている間くるくる回りながら、「シェー」のような格好になったり、盆踊り的な格好になったり、『ジュリエットに愛を語るロミオ』的になったり他殺死体的になったりと、なんの罰ゲームだよって言いたくなるようなみっともない姿を、思いっきりさらしつづけることになった。しかもその上、上がり下がりのたびに「ふおおお……」だの「むえええ……」だの「ぐにゅうえあう……」だのといった奇声まで発してたんだから、恥の上塗りもいいところだ。
そうやって、ものの見事な醜態を辺り一面に存分にまき散らしているうち、跳ね返される高さも、砦の塔のてっぺんから中ほど、砦本体の屋根まで、壁までと、徐々に低くなり……とうとう最後に、びよん……びよん…びよんびよんびよびよびよびよ……と地面近くで何度か跳ね上がったところで、なんとかあたしは無事に街道に着地したのである。
「た、助かった……のか?」
ハアハア息をつきながら、アニメの主人公みたいな台詞を発したところで、あたしはやれやれ助かったとばかり、地面の上にハの字座りでへたり込んだ。
と、それを待ち受けていたかのように、砦から輝かしい光に包まれた一団がしずしずと優雅に宙を舞い降り、あたしから十数メートル離れた石畳の舗道の上に着地する。
同時にその光が薄れ……中から、目にもあやな法衣を着こなしたイケメン集団が、超絶イケメン三人を中心に顕現なされた。
はう!あ、あれは!塔の中にいらっしゃったイケメン様たち!まさか、まさか、このあたしなんかのために、わざわざこんなところまで来てくださった?うっそ!あり得ないって!きゃあああああああっっ!
思わずあたしは胸の前で両手を握りあわせる「きゅんきゅんポーズ」と取り、目をハートマークにして、息をのんだのである




