脅威と脅威と不安
「全方位!どっからでもかかって来やがれ!ノーダメ倒してやっからよ!」
虫ばっかで嫌気がさしていたガンマの元に舞い降りてきたトータル数百本を超える足、ストレスは溜めずにその人うちに解放するのが人生豊かにするコツだ、そう心で考えながらガンマはコボルトとの戦闘を開始した。
100匹以上、隠れていた奴らも含めたら数百のコボルトがガンマの周囲を取り囲み声を上げて威嚇している。保持している武器は多種多様でいつも通りの石斧から始まり珍しいやつではトンファーのようなものも居た。
ガンマの攻撃スキル――冥府の魂撃によって吹き飛ばされたコボルト達も体を起こしガンマを取り囲むことに参加した。
「どれだけ集まろうが関係無ぇってことを分からせてやるよ!」
ガンマは一直線にコボルトに突撃し片側の陣形を崩しにかかった。
以前まではバフを盛って勝利した相手だが、バフが切れた今でもコボルト程度なら一撃で屠れるまでに武器もレベルも成長している。何せあの創世生物とやり合ったプレイヤーが一般モブごときに遅れを取ることはない。
振り上げたメイスはコボルトを複数体打ち上げる威力、今日に木の盾で防ごうとしてきたやつもいたが武器の性能差が歴然だ、正面から砕き盾ごとコボルトを仕留める。
仲間が倒され激情するコボルト、全方向から同時に攻撃を仕掛けるチームワークはかなり鋭く、危うくガンマの頬を掠るところだったが、持ち前のアバターコントロールで周囲のコボルトの顎を的確に打ち抜き長時間のスタンを与えた。
スタンしたコボルトが壁となり、ガンマと周囲のコボルトの間にスペースが生まれる。スタンしているコボルトを放置し槍やパチンコを保持しているコボルトの処理を優先的に行う。
こちらも連携がよく木の大盾を持ったコボルトが遠中距離を戦えるようしっかりとガードしている。さっきみたいな片手盾であれば纏めて粉砕することも可能だが大盾となると数回の打撃が必要となる。今この数的不利を負っている状態でガンマは隙を晒すようなことは出来ない。
そもそも紙装甲のガンマはコボルトの攻撃をもろにくらうだけで死にかねない、ノーダメクリアを目的に挑んだこの戦闘でダメージを負うことは愚か死ぬ事なぞ許されるはずがない。そんな事になればコボルト如きに負けたとネットの笑い者になってしまう。(誰にも見られていないけど)
「めんどくせぇから一気に片付けてやるよ!」
ガンマは周囲のコボルトを薙ぎ払い大きくスペースを確保する。
「荘厳なる森を守りし自然の化身よ、盟友の呼びかけに応えここに顕現せよ」
ガンマのMPが吸い取られるように瞬く間に底を付いた。NPC特有の勘という物があるのだろうか、地面に手を着いたガンマを見て焦ったような表情でより一層攻撃性の増したように感じた、が。
「───ジュマンジュ!」
もう遅い。
ガンマに襲いかかってきたコボルトを巨大な木の化身が地面から召喚され他と同時に蹴散らした。
洞窟の天井程の大きさの化身に呆気にとられるコボルト連中だが迫り来る脅威への注意力が散漫していた。この硬直を利用すれば隙の大きいあの攻撃もリスク無しで使用できる。
「スキル───鉄槌旋打!」
こういった囲まれる状況、尚且つ隙を埋められるだけの何かが無いと使わないスキルだが、今回はその条件を完璧に満たしている。モブ狩りに限定して見れば他のスキルより遥かに効率的だ。
粒子状になり消えていくコボルトを見て我に返ったのだろう、攻撃性の増したコボルト達はガンマとジュマンジュに飛びかかった。
「一つ忠告してやるよ雑頭共!戦場では冷静さを欠いた者から死んでくんだぜ?」
ギギュ?!
コボルト達は何かを踏んずけた様に足裏を抑え悶え苦しんでいた。およそ数十匹のコボルトの足が止まった。足が止まったとなればこっちはジュマンジュに命令を出し攻撃を振り下ろすだけの簡単な作業。同時に数十のコボルトを処理することに成功した。
冷静さを欠いたコボルト達はそれでも突撃しようとしているが、少し賢いやつもいたようで地面に転がっている鉄製の尖った何かを拾い上げた。
「数的不利を覆す手段が少ない俺にとって時間はいくらあっても足りない。それを補うためのオプション、撒菱が上手く決まったな」
生憎インベントリ内の撒菱は使い切ってしまったが、活躍としては十分だろう。所々撒菱がまだ転がっているが地面に注意力を割くことによって踏まないように気をつけている様子だ。
「たしかに冷静な判断だな、だけどさ」
徐に襲いかかったガンマの攻撃をコボルトは何の防御もなしにもろに食らった。今までは耐えれなくとも攻撃を受け止めようと何かしらの行動があったが、足下に注意力を割いている分ガンマへの注意力が二度散漫になっていた。
この場合足元の撒菱は踏んでも仕方がないと割り切るしかないだろう。
目の前にはガンマとジュマンジュ、2つの脅威がある、何かを捨てなければコボルト達に勝ち目は無い。今この状況で捨てる物といえばガンマへの注意力ではなく足下の撒菱への注意力だろう。
NPCといえど足下にあるかもしれない物への恐怖心はあるのだろう。足に何か装備をしているのならまだしもコボルトは基本裸足、自分があっちの立場になったとしたらと考えると.......気にするなと言われても不可能だと思う。
「さてと、もう半数以上がくたばったけど?親玉は顔も出さ無ぇのか?」
ガンマの挑発に乗るかのように一回り大きく他のコボルトとは違って装備をつけたコボルトが現れた。
「お前がボス、というか分隊長的なやつか?統率を取るのも上の者の責務、この失態は全部お前の責任だな」
頭以外に鉄の装備、大きめの斧を片手に金属加工された木製の盾を持ったコボルト、名を──ダンジョンコボルト。
「グオォォオォオオ!」
「っ、たしかに他の奴らより数段強そうだ、けどな〜雑魚が数段強くなったところで地位は変わらねーな」
大暴れのジュマンジュをそのままに、ガンマはダンジョンコボルトとの戦闘に入った。
振るった斧は地面に亀裂を入れるほどの高威力、これほどの威力だ、ガンマと同レベル程度のモンスターと考えていいだろう。道中肩透かしなエリアではあったが、ここに来て歯ごたえのある敵に一喜しガンマのメイスに込める力がより一層強くなる。
『この先にはこいつレベルのモンスターがうようよといるのか?それともこいつより遥かに強いモンスターがいるのか、どちらにせよ今日一日満足の行く探索になりそうじゃねぇーか!』
「鋼鉄の震打!」
盾でメイスを防いだダンジョンコボルト、衝撃を足から逃がし何とか持ちこたえた。
「武器もレベルも十分!今日中に全部片付けてやるよ!」




