虚栄の心に勇気を届けて其の終
「ガードブレイカー!」
鈍く音が戦場に響き渡る、だがアマリリスはビクともしない。俺の攻撃は取るに足りないと言っているかのよに右手の長剣を振り下ろしてくる。
「なんつーパワーだよ、」
『フィールドに亀裂ができるほどのパワー、何度見てもやばいなこれ。幸い花が亀裂を埋めてくれるから戦闘に影響は出てないけど記憶してる箇所だけでもここら一帯は渓谷と化してる、』
そんなことを考えていると今までは使ってこなかった左の長剣が振り下ろされていた。
「っ!」
今までの音とは違う、剣が何かを吹き飛ばすような打撃音。この戦闘が始まって以来初のガンマが受けたまともなダメージであった。
「あっぶねぇ!!」
『HP残り一桁、序盤に防御方面に振ってた分が効いたな、』
「俺が受け持つから回復したらまた代われ」
「っ、わかった10秒頼んだ」
ゆぃつ現着──これが意味することはただ一つ圧倒的生存能力の上昇。遠距離からの速射性を含んだ完璧なまでの援護射撃は前衛プレイヤーに勇気を与え更なる危険地帯へと飛び込ませることができる。
──────────
「よし、だいぶ良い。」
手に握るは二振りの対刃剣、情報のインプットは9割方終わり今やアマリリスの攻撃を無意識化でも打ち落とせる程だ。シグマにやってもらっていることとは情報の完全掌握。シグマ・レイブンというプレイヤーは世界最高峰のデータプレイヤー、情報が完結しないプレイヤーには力を発揮しずらいが、データの集合体でしかないモンスターはシグマの独壇場となる。
『あとひとつ、』
「あっぶねぇ!!」
『左の追撃、身を呈してくれたお陰で整ったよ、』
ダッ!
打ち合わせ済みのガンマとペンタゴン、急にアグレッシブになったシグマを見て情報のインプットが終了したことを悟った。それと同時にここからが正念場だと理解した。同時刻、シグマが動き出したのを見てゆぃつは自身の役割を理解した。2人をあの場所に届けると。
「スイッチ」
ゆぃつが大きくバックフリップをし後ろに引いたのと同時にゆぃつの下をくぐるようにしガンマが入れ替わりで前衛に飛び出していた。
「任せる!」
ガンマは花弁も幹も防ぐことを考えずに武器もしまい嬉々として走り出した。何万時間と共にしてきた2人の王道プレイ、世界はこれを未だ攻略できずにいる。
ゆぃつがガンマの周りに浮かぶ花弁を一つ残らず撃ち落とす。数秒の間に何本引いたのか、普通ならありえない矢の充填速度、これこそがこのプレイヤーの真髄である。驚異的なまでの並列思考能力が彼を支えチームを支えている。一般的な弓使いは矢筒から矢を抜く所から始まるが、にぃつは違う。インベントリに直接矢を置き脳内インベントリ操作で手元に矢を届ける、構えを崩す必要が無く弦に触れていない時間がほぼゼロに等しい。
『シグマはほとんど狙われてない、アマリリスの攻撃はガンマ6割ペンタゴン3割シグマ1割ってところか?幹は俺の火力じゃどうにもならないから......』
「月流波」
白銀の光と夜空を彷彿とさせる碧色の光が矢に纏いながら放たれアマリリスの幹を撃ち抜いた。
「花弁は俺が処理する、あの幹は全部任せた。長剣はどうしようもないから無視でいい」
「了解」
狙われていないシグマはスキルを駆使しアマリリスの巨躯を駆け上がって行った。さすがにそこまですればアマリリスも黙ってはいられない。自らの攻撃を甘んじシグマを倒すことに力を注ぎ始めた。必然とガンマへのヘイトは少なくなりガンマが好き勝手できる状況を作ってしまった。
「行くぞ、初陣だ!」
ガンマは走った勢いそのまま飛び上がりながらこう唱えた。
「荘厳なる森を守りし自然の化身よ!盟友の呼びかけに応えここに顕現せよ!」
最後に地面に手を付き名を叫んだ。
「ジュマンジュ!!!」
ガンマのMPが全て地面に吸われ地面からアマリリスには及ばないが巨大な木のゴーレムが召喚された。
『1度検証してるからこいつの性能は大体把握してる。HPが全損するまで動き続ける代わりにこっちのMPがどんな手段をとっても回復できなくなる、それだけのリスクを払ってでも今はこいつに託す!』
「ジュマンジュ!俺をあそこに掴んでぶん投げろ!」
『簡単な命令だったらそつなくこなしてくれることも確認済み!」
ジュマンジュは命令通りガンマをガシッと掴みアマリリスの胸まで届くように全力で投げた。それはまるでロケットかのような速度で飛んでいき.......
「ちょっと強すぎるかぁぁぁぁ!!!!」
「風の精霊」
運良くシグマが間に合い衝撃緩和の魔法で激突死は避けれた。シグマがガンマの手を掴み何とか耐えた。
「ウォールライド!」
壁を足場として捉えることができるスキルを使いシグマから手を離した瞬間に攻撃の雨が降り注いだ。
「ジュマンジュ戻れ!」
ジュマンジュは地面に吸い込まれるようにして自然へと帰った。それと同時にガンマはMPポーションをのみMPを全開にする。攻撃を避けながら回復という危ない橋を渡っているがこういうことをしなければHPが底を尽きてどうしようもないと言う結果が待っているだろう。
「弓覇者の爆裂矢」
シグマを狙った幹をペンタゴンが火力で押し切り2人を襲う花弁をゆぃつが捌く。二人がカバー前提で動いてることもあって2人の一矢が命取りになる可能性を秘めている。
ここからは完全な避けゲーのスタートだ。2人の弓使いは前衛2人の動きも意識、逆も同じで即席のパーティーに求められるレベルが高すぎるのが現状、シグマとガンマは攻撃に専念しつつ矢を躱す、ゆぃつとペンタゴンは当てないように攻撃を落とさなければならない。
「信じて走り続けるしかねーなぁ!」
ウォールライドの持続時間は30秒、この間に登りきれなければガンマはアマリリス戦から実質的な戦力外通告を受けることになる。今
『この約30秒間にアマリリス戦を終わらせる、』
ギアをあげるアマリリス花弁の量も数倍に跳ね上がり飛来する速度も低く見積っても倍にはなっている。自信にダメージが負う程の威力、爆発しているかの如く衝撃波が伴っているが二人は走り続ける。この数ともなるとゆぃつの射撃だけでは物理的な数が足りない。茎の量も増え前衛は保守的な動きをしながら走らざる負えなくなっていた。
「チッ、数が足んねぇ、」
「加勢します!氷の礫!」
2人の横にはフィールドにいる全魔法使いが詠唱を始めていた。無限湧きの騎士を相手にかなり押され気味ためこちらへの加勢は見込めなかったが、後ろを振り向くと伝令神の前衛を駒に戦うカゲツの姿が見えた。中遠距離の火力が無くなったことにより処理は数段遅くなっていて騎士達の数が続々と増えていっているが、カゲツは己を犠牲にしてでもこのチャンスを掴む気だそうだ。
「よくやった、さすがウチの副官だよ」
「炎の槍!」
「兵装せよ風の守り手!兵装する風守神!」
前衛二人にAGI強化のバフがかかり先程までよりも遥かに楽に攻撃を躱し始めた。
「そろそろだな、詠唱に入る!一旦任せたぞ!永劫の宙を統べし........」
「わかった」
ペンタゴンが詠唱に入る、これは事前に走らせていた作戦の最終段階だ。
「おそらくゴール付近は防御が厳重になっているはずだ、最大火力で吹き飛ばしてくれる、頼む」
「わかった、だけど詠唱にも時間がかかるから逆にカバーが手薄になると思うけど、耐えてくれよ?」
「ああ、死ぬ気で耐えるから安心したまえ」
─────
「冥府の魂撃!」
「破断·三日月!」
「茎が止まんねーってことはつまり、」
「詠唱が始まってる、このまま突っ込む!」
「了解!」
2人のチームアップ、現状このモンスターの情報を完全に把握しているシグマが戦闘に立ちそのカバーに入るガンマ、いつもカゲツにして貰っているプレイを頭の中で構築しシグマが最大限動けるようにサポートをし始めた。
「いちばん厄介な花弁が無けりゃこっちのもんなんだよ!」
そのタイミングで花弁が動きを止めた。この気を逃すゆぃつではなく止まっている花弁に矢を当て落とした、はずだった。
ガギッ!
花弁が矢を弾いたのだ。今までの攻撃とは何かが違う殺意の籠った花弁が1箇所に集まり始める。
「止まんなよ!シグマ!」
「あぁ、」
2人の背後には花弁で形成された長剣や大剣、槍なんかが浮かんでいた。
ズガン!
「今までの攻撃とは比較にならないほどの高火力遠隔攻撃、風圧だけでダメージが発生するトンデモ仕様であった。」
「俺の火力じゃ壊せねーな、詠唱は止めんなよ?」
詠唱中のペンタゴンを除けばこの場の指揮官はゆぃつしか居ない。だがゆぃつまだレベルが足りていない。この場において戦況を大きく動かすことなどできない、だから。
「持てるバフを全部あいつらに飛ばせ今すぐに。火力が出るプレイヤーは奴の茎を吹きとばせ」
ゆぃつの的確な指示にこの場にいるプレイヤー達は反射的に従うしかないと確信した。
「あと少し!」
「.........千の都を包みし月の神よ神威を我に」
茎と花弁が壁のようになりガンマ達の行く手を塞ぎ始めた。侵入者を拒む結界のような強固な壁だ。
「ガンマ!私を信じで走り続けてくれ!」
「了解!」
「月神の裁き」
ペンタゴンの放った矢はペンタゴンの眼前5m程の空中に突き刺さった。ガラスがヒビ割れたように空間がヒビ割れていく、ポロポロと崩れ落ちていく空間から銀河を彷彿とさせるような輝かしい光が解き放たれた、それはまるで銀河のレーザーのように。
一般的なモンスターであれば跡形もなく消し飛ばずであろう威力のレーザー。アマリリスの防御は完全に崩れ去りアマリリス本体をも包み込む威力であった。アマリリスは力を振り絞り茎の防御を貼るがそれをシグマが一刀両断する。
「ガンマ!」
「じゃあな!虚栄のアマリリス!!」
ガジャン!
ガンマがアマリリスの胸にエーデルワイスの琥珀を叩き込みアマリリスは活動を停止させた。身体の力が完全に抜けたかのように肩を落とし両手に持っていた武器を地面にストッと落とした。
「あ。着地どうしよ」
「実は私もスキルがひとつも無い。」
機能を停止したアマリリスの体から2人のプレイヤーが落下し始める。下では魔法使いが待機していることから何とか生きながらえることができるであろう。
アマリリスは青色やオレンジ、紺色や水色といった色の帯を放ちながら形が崩れていった。その色の帯はアマリリスの足元に集まり始めた。
「っと、ありがと、最後に落下死なんてシャレになんねーからさ」
「ありがとうフェイ、もう下ろしてくれ。」
「さてと、あれが本体か?」
目線の先には色の帯が集まっできた青色の光り輝く剣が刺さっていた。
創世物 《蒼断のアマリリス》に遭遇しました。
「皆様、この度はアマリリスに勇気を届けてくださりありがとうごさいます。」
後ろから声をかけてきたのはアヤメであった。アヤメは青色のドレスを靡かせながら俺達の前に止まる訳でもなく《蒼断のアマリリス》へと歩いて近づいて行った。
『なんだろう、』
「皆様は私の恩人です。」
『こいつ、』
「ですが、」
「誰だお前、」
ガンマの言葉に同じ意見を持ったプレイヤーが5人。ガンマ·ゆぃつ·カゲツ·シグマ·ペンタゴンが武器を構え始めた。明らかに今までのアヤメではない、もしくは、
「さようなら。以前までの私」
アヤメが青色の光り輝く剣を手に取った。
「っ!「知恵の探求者!」
「蒼断」
青色の光り輝く剣を横薙ぎに振るった。
「パリィ!.....は?」
「なっ、」
知恵の探求者は確かに発動した、初見の技を消すことができるため発動さえしてあればみんなを守れるはずだった。その証拠に自分は生き残っている、が。フィールドにはシグマと息を潜めているプレイヤーが一人。みんなポリゴン状になり消えかけている
「っ、ベータ!起こせる人から叩き起こせ!」
「は、はい!」
ベータの副職業《死霊学者》は1日に一度だけHP0になる攻撃を霊体化し回避することができる。シグマ同様知恵の探求者は使えるがあれはプレイヤースキルが高く無ければタイミングを合わせられないため1度保険が効くことから職業の相性はかなり噛み合っている。
シグマは自分が失敗することも加味して現状唯一の蘇生アイテム【生命の冥水】を持たせていた。
「起きて、」
「ふぅ、助かった。ありがとベータ」
「数人起こしきれずに時間切れか、」
「ここまでよくやったわ、私の為に使われてるとも知らずにね。」




