第二十二話 鬼に名刀
晴れ渡る空の下、アリシア、クリス、ムサシの三人は、広がる平原をゆっくりと進んでいた。
──新たな目的地は、魔法王国アヴァロット。
そこは、かつて勇者パーティで名を馳せた天才魔法使い、モルガンが治める王国である。前夜、コジーロの家での宴席にて、コジーロ本人が酔いながら語っていたのだった。
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「……ひっく……まああの女のことじゃ、きっとわしのこの村とは真逆の国じゃろうて……ほ〜っほっほ!……げっぷ!」
「お父さん、飲み過ぎですよ!」
ナゴミのたしなめる声に、クリスは苦笑しつつも確信していた。人格者であるコジーロがどれだけ酔っていても、嘘など言うはずがない、と。とはいえ念のため、今朝の別れ際にさりげなく再確認もしておいた。
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「魔法王国アヴァロット……楽しみね!ワクワクするわ!」
アリシアが弾む声で言う。
「はい。それに、僕たちが探しているもう一人の仲間──魔法使いにも、そこで出会えるかもしれません」
クリスは穏やかな声で応じた。
「そうよね!なんてったって魔法王国だもの!絶対出会えるわ!」
「……魔法王国ね。興味ねぇな」
隣で歩くムサシが、つまらなそうにぼやいた。
「ちょっと……あなたはいったい何に興味があるのよ?」
アリシアは呆れたように振り返る。
「あぁ? 斬ることに決まってんだろ」
「うわぁ……脳筋……」
「なんだとコラァ?」
男女の激しい戦闘が始まろうとした時、それを阻止したのは、魔物たちとの戦闘だった。
「……来たわね。いくわよ!」
アリシアが目を鋭くする。
「はい。油断せずにいきましょう!」
クリスも構える。
魔物の群れが、草原を割って現れた。
ムサシは、今朝父コジーロから授かった名刀「村政宗」を腰から抜き放ち、口元を吊り上げる。
「……さてと。試し斬りといきますかな」
その身を一閃、ムサシは群れに突っ込む。
右手に握るは、村政宗一本。
左の二刀目は抜かずとも、必要なかった。
──ザシュッ!ズシュッ!バシュッ!
風を斬る音が響いたかと思えば、魔物たちは反応すらできぬまま地に伏していた。
「こいつは……すげぇな……」
呆気に囚われた後、
「……つっよ!!」
アリシアが素で驚く。
「一刀だけでこれほどとは……」
クリスも目を見張った。
ムサシは剣の感触を確かめながら、にやりと笑った。
「おい、もっともっと斬るぞ! 次はどこに行きゃいいんだ!?」
「魔法王国アヴァロットよ!」
「そういうことじゃねぇよ! アホが!」
「アホですって!?あんたには言われたくないわよ!」
魔物達との戦闘が終わり、男女の戦闘が再び始まった。
次なる仲裁者は魔物ではなく、我らが聖職者、クリスその人だった。
「二人とも、おやめください」
その声は、神の祝福を宿すように静かで、しかし強く通る。
「ムサシさん、僕たちの目的地は魔法王国アヴァロットです。そこは見失わないように。道のりは険しい。無駄な戦闘を自ら拾いに行くなど、言語道断です」
「……ちっ……わかってるよ」
「アリシア様、あなたはこのパーティのリーダーです。そんなにすぐ取り乱してはなりません」
「……クリス、ごめんなさい……」
二人は、先生に叱られた子供のように、しょんぼりと俯いた。
「……悪かったな。クリスの言う通りだ。こいつの軽さと斬れ味がすごくてな、つい」
「こちらこそごめんなさい! 後ろから見てるだけで鳥肌が立ったわ!私でも、もっと試したくなっちゃうかもしれない」
クリスは優しく微笑む。
「そんなに焦らずとも、これから嫌というほどの戦闘経験が待ち構えています。アヴァロットへの道を着実に進みながら、レベルを上げていきましょう」
「……クリスの言うことは、正論すぎて反論できないわね」
アリシアが照れくさそうに笑う。
「じゃあ気を取り直して! 行きましょう!」
「おう!」
──その後の道中、クリス先生の仰った通り、ムサシの飢えは順調に満たされていった。
次々に現れる魔物たちを、彼は村政宗による神速の斬撃で圧倒的に薙ぎ払っていく。
アリシアとクリスは、もはやナゴミの茶でも啜りながら見ていてもよさそうなほどだった。
「……本当にすげぇ。こいつ一本で、これまでの二刀流以上に斬れてる気がするぜ……!」
「本当にすごいわね……」
「ええ……これほどまでとは」
──そんな中、アリシアの心に、ふと芽生えた思いが、言葉となって口をつく。
「……やっぱり、私……盾が欲しい!!」




