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 おそらく指揮官クラスであろう、分別のある、立派な成人男性! の5人が私のたどたどしい「初めてのおしゃべり」に撃沈したせいで、異世界言語講座!初級編は終了となった。


 動かない5人を放って、外の様子を見に行きたくなった私は天幕の入り口に移動した。まずは様子見と、顔だけををひょこっと出してみる。


 おぉ? ……足?


 私の顔の横に足がにょきっと生えていた。足をたどってそろりと上を見上げると、こちらを凝視している男の人と目が合う。


 うわっ、どうしよう。すごい見られてる。


 思わずにへらっと引きつった笑いを浮かべ、そっと頭を天幕に引っ込める。勝手に外に出たら捕まりそうな雰囲気だったよ。


 いったん天幕の奥に戻り、いまだに悶えているレオの膝をバシバシと叩き、顔を上げさせる。


 ほら、早く正気に戻って!


 レオの左手を片手......では掴めなかったので両手でつかみ、入口まで引っ張る。先に天幕の外にでるように背中をぐいぐい押して、その背中に隠れるようにぴたりとくっつきながら私も入り口をくぐる。図体のでかいレオが私の思い通りに動いてくれるのがちょっとだけ楽しい。


 外に出ると入り口のすぐそばに、先ほど私を凝視していたお兄さんが立っていた。レオに向かって右の拳を胸に当て敬礼のような仕草をしている。お兄さんが立っていたのは警備?をしていたのかな。 肉体を駆使する職業(仮)なら立哨って言うんだったっけ。


 無事に外に出られた私は好奇心を隠さず周りを見渡す。先ほどまでいた天幕を中心として、少し小さめの天幕が等間隔で放射線状に並んでいる。


 太陽はすでに沈んでいるが、辺りが見渡せるほどに明るいのは宙に浮いている謎の発光物体のおかげだ。人の頭ぐらいの大きさの球体が白く光りながらふよふよと浮かんでいる。


 どうやって浮いてるんだろう?


 気になって仕方がないので、レオの服を引っ張って発光物体に近づいてみる。異世界技術に明るくない私では近くで見ても眩しいだけで、まったく仕組みがわからなかった。光っているものの、炎や白熱灯のような熱は感じない。触ってみようと腕を思いっきり伸ばしてみたが、光るふよふよには指先ひとつ擦りもしなかった。負けん気の強い私は意地になり、なんとかふよふよを捕まえようとぴょこぴょこ跳ねる。


 必死になっていると頭上からクツクツとレオの笑いを耐える声が聞こえてきた。

 

 くそぅ......! 少し身長が高いからって人の頑張りを笑いやがって! 文句を言ってやろうと斜め上を見上げると、口元に手を当てて震えるレオがいた。ぐぬぬぅ。許せぬ!


 「めっ! いけましぇん!」


 私はNOと言える日本人代表なので、思いっきり睨みながら制止の言葉を告げる。

 

 結果、レオは膝から崩れ落ちた。両手で顔を覆い、「......いけましぇんって、いけましぇんって言われた。どうしよう、可愛すぎる」と何やら低い声でぶつぶつ呟いている。


 反省している様子はないので、レオの肩に落ちる、ゆるくカールしたサラサラの金髪をむしり取る勢いで引っ張る。

 

「いっ......たたた! 痛い! 笑ってごめんなさい」


 よっし! 勝った。「ごめんなさい」は謝罪の言葉だったはず。ふんっと鼻息荒く髪の毛を離す。レオは苦笑して痛みを振り払うように髪の毛を引っ張られたところをさする。そしておもむろに、右手を私の目の前に差し出した。

 

 手のひらを上にして差し出された手をじっと見つめるが、よくわからないので首を傾げる。なんだろう。お手じゃないよな。


 レオが何事かを呟くと、突然目の前の手のひらから光があふれた。


「ふぁっ!?」


 驚きすぎて変な声がでた。レオの手のひらから少し浮いて、丸いふよふよが光っている。魔法みたいだ。恐る恐る手を伸ばしふよふよに触れてみると、抵抗なく光の玉に指が入った。物体としての質量がないのか、触れた感触がない。


 しばらく指を突っ込んだり抜いたりしているとレオが微笑み、また何事かを呟く。光る球体が形を緩やかに変え、光る蝶々になった。はたはたと質量のない蝶々が羽ばたくと、透明な羽が虹色に輝き、光の粒が鱗粉のように舞う。


 なんて綺麗なんだろう。口を開けたまま、光りを纏う蝶々を目で追う。


 サイズが地球産のものより多少大きめでも、美しいことに変わりはない。こんなに綺麗なものが見れるなんて異世界も捨てたものじゃないなと思っていると、肩を優しく叩かれて振り向く。いつの間にか側にきていたマティが悪戯っぽい笑みを浮かべている。


 そして先ほどのレオと同じように小さく呟くと、その手のひらから光りが生まれて今度は馬の形を作り出した。羽の生えた馬だからペガサスみたいだ。こっちでは何て呼び名かは知らないけど。


 私は全く気づいていなかったが、マティだけでなくルード、エディ、クリスも外に出てきていたようだ。皆私が何をするのか気になって出てきたみたい。


 レオとマティに対抗するようにルードも光りでウサギを出してくれた。背中に小さな羽が生えていて、とっても可愛い!満面の笑顔でお礼を言うとエディが自分もと競うように光の猫を作る。あっ!猫がシルクハット被っている!けしからん、もっとやれ!


 クリスは光の獅子を作り出してどうだと近寄ってきたが、さすがに私よりもでかい獅子が口を開けて迫ってくると怖い。半泣きである。私の涙目に怯んだのかすぐに獅子を消し去り、次いで出てきたのはぬいぐるみサイズのワンコだった。これは文句なしに可愛い。


 皆が調子に乗ってどんどん新しい動物やら幻獣やらを作り出すせいで私の周りはまるで光のパレードみたいにきらびやかになっている。さらには水で作った人魚っぽいものや炎で作った鳥もでてきた。

 

 光る動物たちが可愛くて、キラキラしていて、私を喜ばせようとしてくれる皆の気持ちが嬉しくて。くすぐったくてムズムズするのと一緒に暖かい気持ちでいっぱいになる。こんなにごちゃごちゃした感情に支配されるのは子供の頃以来だ。


 つまり、そう、この時の私はエキサイトしていたのだ。皆がポンポンと簡単そうに光やら水やら炎を出すので、高ぶった気持ちのまま、うっかり私もできるんじゃないかとか思って冗談半分で「光る玉!」と言ってみたら......


 なんと、私の手の上には光る玉が浮いていた。......そっか、わたし魔女っ子だったのか。


 もう大興奮である。けらけらと笑いながら思いつくままに魔法を打ち出す。日本のアニメによって強化された私の想像力は無限大だ。そして魔女っ子なら空を飛べて当然だろうと体が宙に浮くイメージをしてみた。


 結果、私の体はふわりと宙に浮くことに成功した。ご機嫌で周りを見渡すと、目を見開き固まっているレオ達がいた。え?何?どうかした?後ろに何かあったかなと顔だけ振り返ると、


 なぜか背中に羽が生えていた。


 何度確認しても羽である。レオが最初に見せてくれた光る蝶々の羽とそっくりなものが私の背中に生えている。


 透き通るほど薄い羽が虹色に輝く光の粒をまとい、はたはたと揺れている。とても幻想的で美しい羽だ。ただし私の背に生えていなければ。


 「リリーは妖精(ラフェアリー)だっだのだな」


 呆然と羽を眺めていると、熱に浮かされたようなレオの声が聞こえた。


 ラフェアリー? なんじゃそりゃ。いや、今はそんな事よりこの羽を消すことが先だよ! 羽、消えろー!と念じてみるとあっさり消えてくれた。ふぅ。


 でも、ちょっと嫌な予感がして、再度空を飛ぼうとしてみたところ、ふわっと羽が出た。なんと、ちょっと浮こうと思っただけで羽が自動的に広がる。なんなの、これ。


 もしかしたらレオに最初に見せてもらった蝶々が印象的すぎて、飛ぶイメージとして無意識に刷り込まれてしまったのかもしれない。


 可愛い女の子にならまだしも、地味OLに羽つけるなんて絵面が悪いにも程があるよ。


 羽をひらひらさせる自分の姿を想像して心底がっかりしていると、レオにふわりと抱き上げられた。


 「リリー、俺の可愛い妖精(ラフェアリー)さん」


 顔が近づき、止める間もなく唇にキスをされる。触れるだけの小さなリップ音。


 一瞬思考停止して、何をされたか理解すると同時に、ぶわっと顔に熱が広がる。


 このっ…! キス魔め! 


 レオの頬を両手でばちーんと挟むように叩き潰し、その腕から逃れるために羽を出して宙に飛びあがる。


 あまり距離を稼げないうちに今度はマティにがしりと胴体を掴まれ引き戻される。


 「リリー、遠くまで飛んではいけません。悪い人に攫われてしまいますよ」


 マティにがっちり確保されたまま至近距離で「めっ!いけません」が連発され、あまりの迫力にキスされた事も頭から吹っ飛び、必死になってうなづく。


 美人が怒るとめっちゃ怖い。マティには逆らわないでおこうと心に刻んだ。そしてマティ、私じゃなく不埒を働いたレオに怒って欲しい。



 

 

ついに妖精になったOL

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― 新着の感想 ―
[一言] 続きが気になります~! ぜひともつづきを~( 人˘ω˘ )
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