表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔人兄妹の隠遁生活  作者: 月見夜メル
3章:暗躍の王都
174/178

緋焔の魔女は決行する

 ――怒りがあった。


 全速力で霊園を駆け抜けるイロハの胸中には、ただその感情だけがあった。


 それは魔将が“子どもたちをさらった”ことへの怒りであり、“子どもたちをさらった事実を隠すために無辜の人々をさらい、それだけに飽き足らず更にひたすら魔力を搾り続けた”ことへの怒りであり、“住民の大切な人たちをさらい、そのことを怒ることも悲しむことも出来ないようにさせた”ことへの怒りであり、“1人の善良なシスターにあれだけの理不尽を強いた”ことへの怒りでもあった。


「……許さない」


 未だかつて感じたこともないような激情に押されるままに、イロハは駆ける。


「絶対に許さないわ……!」


 しかし、


『1つだけ心せよ。“我を忘れてはならぬ”』


 ジルヴァンからの助言だけは、しっかりと胸に刻まれている。


 それ故激情に身を委ねながらも、イロハはオリヴィアへとそよ風の合図を送ることを忘れなかった。丁度オリヴィアが5セット目の爆発を起こした時だった。


「やっと来た!イロハちゃんからの合図だよ!作戦開始!」


 一日千秋の思いで待ち続けていたオリヴィアが快哉を叫び、既にあらかたの準備を終えていた烈火の石人の3人とゼシカが最終フェーズに突入する。同時にオリヴィアは戦場に向けて2回目の炎系統威力強化を掛け、作戦決行を通達した。


 ゼシカは、黒光りする巨大な矢をつがえていた。元々通常の倍以上のサイズがある矢を運用する剛弓ではあったが、今弓にセットされているのはそれすらも凌駕する、重厚と表現するのが相応しい威容を誇っていた。


 その正体は、昼の戦いで破壊されたロイドの剣をベースに、シーラと彼女の所属する石人形(ゴーレム)研究会の面々が今作戦の為に造り上げた、“矢型の石人形(ゴーレム)”だった。


「定義再喚起……『汝は復讐する者、血に飢えし悪魔を撃ち落とす怒りの一矢』――【命令(オーダー)】!」


 シーラが魔力を通わせると、石人形(ゴーレム)の身体を形作る黒魔銀(ミスリル)のプレートの境目に蒼白いラインが走る。この命令(オーダー)によって矢に付与されたのは、“かつてこの剣を破壊した吸血鬼”のみを対象とした特効、具体的には対象へと極めて強力な物体脆化を与える。


 ロイドが愛用していた両手剣は、クロから大量のインスピレーションを受けた匠たちの手で、“復讐者”として生まれ変わったのだった。


 そこへ更に、


「装填完了だ」


 矢の装甲板を一部開き、ロイドが真っ赤な光を放つ手のひらサイズの円柱をセットした。装甲板が再び閉じると、円柱から流れる魔力で蒼白かったラインが真紅に染まる。


 円柱の材質は、賢輝晶(ワズナイト)という希少鉱物で出来ていた。オリヴィアの杖にはまった宝玉の材料でもあるそれは限りなく純度の高い蒼輝晶(マギオライト)のみが冠する名であり、内部に溜め込むことができる魔力の量も桁違いに高い。普段は深い蒼に染まっているはずのそれは今、溜め込まれた膨大なオリヴィアの魔力によって完全に変色していた。


 そうして、全ての準備を終えたゼシカが屋上の縁に立ち、その隣に同じく弓を携えたセリアが並ぶ。


「カッコいいとこ、見せてよね。お姉ちゃん?」


「任せておけ」


 エルサーク姉妹は軽口を言いあった後、同時に弓を引き絞った。


「じゃあやるよ!【開門(ゲート・オープン)】!!」


 すかさずオリヴィアは2人の5メートル程前にそれぞれ空間の裂け目を作ると、手元に光の玉を作り出す。そして……


「3、2、1――【閃光弾(フラッシュボム)】!」


 スリーカウントで光の玉を戦場の上空へ転移させた。玉は先に打ち上げられていた照明弾を遥かに超える光量で広場全体を覆い尽くす。


「なん……だ……?」


 さしものガンプも突然の異変に空を見上げて戦闘行動を中断する。光の玉は眩しくはあるものの視力を一時的に奪ったり気絶させたりする程の威力ではなかった。


 だが、一瞬でも光を見つめてしまった時点でオリヴィアたちの思惑は達成されていた。光の玉の炸裂と同時にセリアが放った3本の矢が、空間の裂け目を通ってガンプの足元に出現し、石畳に突き立つ。矢には青い色の薬液が塗られており、着弾の衝撃で矢を頂点とした三角柱型の結界を起動させガンプを取り囲んだ。


 そして、ガンプがそれに反応する間も無く、


「爆ぜ飛べ!!」


 ゼシカが放った矢型石人形(ゴーレム)が結界上空へ出現し、そのままガンプを頭上から貫きつつ結界内に着弾。内部の賢輝晶(ワズナイト)に溜め込まれていた魔力が一気に溢れ出し――


「「「「「!!!!!!!!」」」」」


――蒼白に煌々と輝く、巨大な火柱が天を突いた。爆発の威力を縦方向に限定するための結界が軋みをあげ、瞬く間にひび割れだらけになって行く。それでも周囲にいたメイン戦闘メンバーたちに余波で被害が及ぶのは避けられた。


「……やっ……たか?」


 火柱が徐々に勢いを弱めて行くのを呆然とした様子で眺めながら、ドルガンに後ろ襟を掴まれて子猫のようにぶら下がった状態のユウジがポツリと呟く。彼は予定外の途中参加だったためオリヴィアから“決行の合図を受けたら接近戦を控え、閃光弾(フラッシュボム)を見たら全力退避”するようにという事前通達を受けておらず、慌てたドルガンが無理矢理退避させた形だった。


「閃光から本命着弾までシュミレーション通り5秒以内。奴さん逃げる暇も無かっただろうよ」


 ガハハハと笑うドルガンの視線の先で、遂に火柱が消え去る。そこには石畳と役目を終えた石人形(ゴーレム)が高温でドロドロに溶けて混ざりあった物が残されているのみだった。


 ただ、ユウジには引っかかる点があった。


 それはガンプを撃破したはずであるにもかかわらず、展開された魔晶結界がまだ消えていないということと、何より、


(虹の聖剣(アルカンシェール)が……まだ終わってないと警告し続けている……!?)


 果たして、


「――ざぁんねん」


 不意に、空間中を満たす声がした直後、


「!?」


 オリヴィアが残していったオリヴィアとゼシカの蜃気楼が突然吹き飛ばされた。同時に赤い霧が矢の爆心地の手前で渦を巻き、無傷の吸血鬼が姿を現す。


 戦勝ムードになりかけていた討伐部隊にどよめきが走った。


「……まさかあれを避けるなんてね」


 蜃気楼が吹き飛ばされたことで偽装の意味がなくなったためゼシカと共に転移して来たオリヴィアが苦々しげに呟く。それを聞いたガンプは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「俺に狙撃を警戒されないよう最初は前線で普通に戦い、頃合いを見てダミーを残しつつ離脱する……悪くはなかった。だが生憎、今この周囲一帯には俺の目となる眷属が何匹もいてな……狙撃のタイミングまで完全に筒抜けだったぜぇ?」


 愉悦を顔に張り付けたガンプの翼が震え始め、それと連動するように空間が軋みを上げ始める。


「俺に有効打を与えられていた女は倒れ、切り札の狙撃も凌がれ……もう打つ手は無いか?」


「オリヴィア、おいオリヴィア本当にもう何もないのか!?」


 ユウジが聖剣から虹の輝きを溢れさせつつオリヴィアに呼び掛けるが、彼女は俯いて瞑目するのみ。


「冗談だろ……!?」


「……何だ、本当に何も無しか……興ざめだ」


 その様子に、ガンプは落胆と失望の両方が混じったような表情を見せる。空間の軋みが一気に加速していく。


 スタンバイされているのは、指定空間をまるごと振動の爆発で粉砕する音系統最上級魔法――


「じゃあ死ね。【共鳴激―(レゾナンス・バ―)


 その瞬間、絶望に沈んだと思われていたオリヴィアが顔を上げ、勝利を確信したような笑みを浮かべる。




 次いでガンプの首が、突然宙を舞った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ