第49話 特技披露タイム
一人目はバイオリン演奏。二人目はバトントワリング。三人目はアカペラの独唱。
「ありがとうございました。華麗なシュートでしたね!」
四人目の特技はバスケ。スリーポイントシュートを一発で決めた。
俺は手を叩き、息を呑む。
登場や自己紹介では白土に圧倒されたが、それでもステージに立つだけのことはある才色兼備の強者達。噛ませ犬や引き立て役で終わるつもりはないとでも言いたげに次々と華のある特技を披露していった。
ドレス姿でのバイオリン演奏は実にお見事。バトンを使った流麗な動きは観客を魅了。カラオケなら90点後半を叩き出す美声。大衆を前にして完璧なフォームでボールを放る。
もし白土ならバイオリンは全く弾けないし、バトンを使う以前にコケるだろうし、歌えばテロになるし、バスケのはずが謎にヘディングする結果になっていただろう。
素晴らしきかなミスコン女子。精神力だけでなくスキルも達者。どれも一級品の特技。
これには観客もニッコリ。拍手喝采だ。
まあどれも前座なんですけどね。
「では続いて……えっと……」
言葉を詰まらせ、司会者が俺を見てきた。
俺は先程と同様、首を横に振る。
「ま、まだ到着されておりません」
ミスコンが始まって既に三十分は経った。本来の集合時間なんざとうの前。
なのに日暮はまだ来ない。
司会者が焦り、観客はざわつく。俺と水浪はヒソヒソと話す。
「マジで来ないぞあいつ」
「不戦敗ってやつです」
不戦敗? 昨日あんなに殺気と闘志を漲らせいたあいつが? んなわけあるか。
けれど特技披露タイムが終われば後は投票のみ。時間は残されていない。このままだと日暮は棄権とみなされる。
まさか、本当に怖気づいて……。
「誰が不戦敗やって? んなわけないやろが」
この感じの悪い声は……。
俺と水浪は顔を見合わせ、その間も鋭い声は続く。
「ヒーローもヒロインも、遅れて登場するんよ」
「お前やっと来」
俺は急いで後ろを振り返る。
が、振り返るのと入れ違いで人影が横を通過していった。
余裕ある声で勝ち誇ったセリフを残して。
「カスポンコツ女の愚かな従者共、そこで見とき。会場を虜にするあたしの姿を」
「……っ!? ……日暮……?」
目が追いつき、素っ頓狂な声が零れた。
今まさにステージへ向かおうとする女子を見て俺は唖然とした。
その格好は…………え……!?
「みんな~! 遅れてごっめ~ん☆」
日暮がステージに飛び出ていった。
登場するや否やすぐにマイクを奪い取って瞬時に声音を変え、普段の何倍も緩みに緩ませた語尾はしつこいぐらいに甘ったるく、あざとい。
一方で振りまく爛漫な笑顔はシャキッとしており、いつもの気怠さは微塵もない。眠たげな瞳を今は大きく開き、そんで閉じ、分かりやすいモーションで特大のウィンクを放つ。
声や仕草がいつもと違う。
何倍にも増したり、なかったりと、おっとりぽわぽわな雰囲気を残しつつ色々と変わっている。
「準備に手間取ったの~。どうかなっ、あたしの衣装は☆」
でも一番変わっているのは、衣装だ。
……何だあれは……?
ド派手なピンクを基調とした衣装。白土とは全く別の意味で眩しい。目がチカチカする。
んで裾がふわふわしてるパラソル状のミニスカート。先程のウェイトレス衣装より短く、開かれた胸元や肩も相まって肌の露出がとにかく多い。
頭には巨大なリボン。これまた濃いピンク色。キズナさんかな? 日暮が様々なポージングをとって動く度にフラワーロックみたく揺れる。
動き回った日暮は最後に片足を上げ、片手を目元に添え、ポーズを決めた。
「自己紹介します! エントリーナンバー5、日暮香織ことカオリンで~す☆ お日様いっぱい笑顔いっぱい~っ。みんなのアイドル、そして愛取~っ! みんなの愛を取っちゃうぞ☆」
……。
うっわクッソダサイ!
ダサッ! ダセェ!
えぇ? ダサすぎね!? 果てしなくダセェぞ!?
……なんてこった。
日暮は絶望的にダサかった。
ミスコン衣装というよりコスプレ衣装。魔法少女だ。これ魔法少女だよ。
他の出場者がロングドレスやワンピースを着る中、一人だけコスプレをしてる日暮は……浮いていた。
それはまだ良いとして、いや良くはないけども、言動とセンスが絶望的だった。
「よろしくね~☆ きゃ~っ☆」
恐らくアイドル風のキャラに仕上げたつもりなのだろう。自己紹介は地下に行けばよく見かける自己紹介そのものだった。
日暮香織ことカオリン? お日様いっぱい笑顔いっぱい? みんなのアイドル、愛を取る? それで観客が「うお~!」となると思った発想のメカニズムどうしたおい!
俺は唖然とし、場内も騒然となる。
白土とは別の意味で場を飲み込んだ。一言で表すなら、ポカーンだ。
「特技を披露しま~す。皆さん聞いてください~☆」
だが日暮は気にせず好き勝手に喋り、唐突に特技披露を始めた。
歌い、踊る。流行りの曲に乗って。キャピキャピとステージ上を行き来する。自分の独壇場のように。
可愛らしいのかもしれない。歌もダンスも上手だ。観客の中には日暮を応援する声もある。
でも大半はポカーンだ。俺もポカーンだ。何すかこれ……。
……秘策。
まさか、こんなのが、秘策?
「困惑してやがりますね」
「そりゃそうだろ……」
「日暮香織の作戦が分かったので刄金凌にも教えてあげます」
「分かるのか?」
頷き、囁き、水浪が淡々と告げる。
「ギャップ萌えってやつです」
「ギャップ萌え?」
「気さくで明るく、気怠そうにしやがりながらも愛嬌はあり、人懐っこい睦ましげな笑顔を浮かべやがるクラスの中心的存在。ってのが普段の日暮香織のキャラです」
「そうだな」
「でも今はその雰囲気を多少残しつつ普段とは違う印象を与えようとしていやがります。これまでに築いたキャラの均衡をわざと崩し、振り幅を作っていやがるのです」
振り幅……それがギャップ萌え?
「意味あるのか?」
「分かりやすく言うなら、眼鏡をかけている女子が眼鏡を外して印象が変わるようなものです。男子はグッときやがるのでしょう?」
「あー……そう、かも?」
ありがちだが馬鹿には出来ない。グッとくる。
いつもは眠たそうにしたり毒を吐いたりして、模擬店の準備ではみんなを先導して真面目に取り組む。そういったイメージを比較すると、今の日暮は随分と弾けている。
「みんなも一緒に歌お~よ~☆」
ノリノリで歌とダンスを披露する姿は確かに新鮮だ。以前の俺なら声援送ってライブキッズよろしく一緒に歌っているに違いない。
「キャラを急変させやがった以外にも日暮香織の狙いがありやがります。あの衣装です」
「派手だよな」
「色合いではないです。肌の露出です。肩、胸元、足。とにかく肌を出して魅惑しやがろうとする浅はかな狙いが見え見えです」
「あー……」
「男子がニヤついていやがりますね。まさか刄金凌も?」
「有象無象と一緒にするな」
まあ、以前の俺ならね? 以前の俺ならそらもうニヤニヤニヤニヤしてましたよ、ええ。以前の俺の話な!
生憎、俺はあいつの正体を知って幻滅した。
見るかよ。ふわっと浮くスカート、照明の光を浴びる艶やかな生足、かなり大胆に開かれた胸元、といったものを凝視したりしません。チラッと見る程度だ。いや見てるんかい。
「男子はスケベです。さっきまで唖然としてやがったのに今は日暮香織の胸や足を見ようと血眼です」
水浪が指摘した通り、観客は日暮を見ていた。視線が日暮のどの部位に向けられているか丸分かり。だよねー。男だもの。
見れるなら見ておく。それが男子の性だ。
「キモイですね」
「そ、そう言うなよ。あーつまり? 日暮の作戦ってのはキャラ変とアイドル風の喋り方でギャップ萌えを狙い、露出を増やして票稼ぎ、ってこと?」
水浪は「大まかに言うとそうです」と頷き、無表情のまま冷静に分析を続ける。
「他にもありやがりますよ。模擬店で普段通り媚び売っていたのも今この場に繋げる為のファクターだったのでしょう。弾ける私素敵、を演出してやがります。わざと遅れて登場したのは場内の空気をぶっ壊して自分が主導権を握りたいからですし、空気をぶっ壊して次の白土優里佳にプレッシャーを与えるつもりです」
「……よくそこまで分かるな」
「日暮香織の性格を考えれば容易です。というか女子は気づきます。だから日暮香織は女子に嫌われているのです」
ぶりっ子は同性に嫌われる。
今の日暮はぶりっ子そのものだ。それも高レベルの。ハイぶりっ子と名づけよう。
ふと見れば、ステージに立つ四人のミスコン女子が「こいつ何してくれとんじゃ」って顔をしていた。嫌悪感が出てますね。ちなみに白土は微笑んでいる。格が違いますね。
女子なら気づく。では男子はどうだろう。
男子は日暮の性格の悪さを知らない。気づかない。
乱入するかのように登場して好き勝手に場を蹂躙する日暮に対し、始めこそはポカーンだった男子は次第に声援を送りだす。
「日暮さーん! 俺が見ているよー!」
豆史もノリノリだった。あとデレデレだった。あいつぜってー日暮の胸や足を見てるよ。
……なるほどな。
自慢げに秘策があると言ったのはこういうことか。
俺も数分前は「こんなのが秘策? ダサすぎる」と呆れかけていた、けれど……中々どうして、悪くはないのかもしれない。
日暮は踊る。日暮は歌う。
キャラ作りは元より上手い。ならばキャラ変もお手の物。
敢えて崩したキャラを用いて、あざとすぎる笑顔と仕草を振りまき、ちょいエロ要素も含ませ、狙い澄まして研ぎ澄ましたかのように男子を虜にしていく。
「ありがと~ござました~☆ 良かったらあたしに票を入れてくださ~いっ!」
曲が終わり、入れ替わりで歓声が巻き起こった。
日暮は肩で息をつきつつも最後まで特大のウィンクと笑みを観客へ飛ばす。
それでも足りないのか、その場にしゃがみ込んで「や~ん☆ 恥ずかしかった~☆」と言った。独り言ではない。しっかりとマイクを通して喋る。最後の最後までハイぶりっ子だった。
「ひゃうぅ~☆ あっ、ユリ、次どうぞ~」
満足げな日暮が白土にマイクを渡す。
横顔は非常に晴れやかだった。何そのプレッシャー与えてやりましたよみたいな顔は。
うーん……ここまでやるとはな。
アイドルみてーな格好と特技。怒涛の勢いで強引に注目を掻っ攫った。
ただ前に出るだけならマシだ。だがあいつは四人目までの特技を踏み倒し、出来上がりつつあったムードを破壊し尽くした。
このままの流れだと…………。
まあ前座なんですけどね。
「勝った気でいるぞあいつ」
「愚かなのはあっちです」
「全くだな」
俺と水浪は微塵も焦っていなかった。
所詮はその程度だ。
俺らが動じるとでも? 空気をぶっ壊されただけで俺らの白土が臆するとでも?
なめんなよ。高嶺の花を。
もう一度言おう。
心配しなくていい。大丈夫だ。
俺は袋を持ち、力を込める。
見せてやれ。
蹂躙するってのはどういうことか。虜にするってのはどういうことか。
性格クソ女含め、この場にいる全員に教えてやろう。
「では最後に……おっふ、え、エントリーナンバー6の方、お願いします」
そして白土の番が訪れた。




