84-1 沖縄
ツインズのおかげもあり、大阪ライブも大盛況だった。
これでようやく、ツアーの半分が終わった。
続いての開催地は、沖縄である。
「沖縄といえば、やっぱり海よね!」
水着姿のカノンが、海に向かって駆け出す。
ここは、プライベートビーチ。今日はミーチューブ撮影のためと言って、貸し切っている。ツアー中は、ちょくちょく動画を撮影して、ツアー後に密着動画としてアップするつもりのようだ。
……というのは建前で、本当はこいつらが遊びたかっただけらしい。
まあ、過酷なスケジュールをこなす中で、息抜きがないというのも酷だろう。
「ん、こんな広いビーチで堂々とできるなんて、ほんとに久々」
玲が日差しの下でのびをする。
白く美しい肌が、やけに眩しい。
「ハードなスケジュールだってのに、よく初日から遊ぶ気になれるな……」
「ん、せっかくここまで来たんだから、遊ばなきゃ損」
「損得の話なのか?」
体力の心配をしていたのだが、こいつらの普段の活動量から見るに、このくらいはへっちゃらか。その体力、少し分けてほしい。
「そうだ、凛太郎。日焼け止め塗って」
「ああ、分かった」
パラソルの下に寝そべった玲の背中に、たっぷりと日焼け止めクリームを塗る。
相変わらずシミひとつない、綺麗な背中だ。
おっと、いかんいかん。見惚れている場合ではない。
「……この感じも懐かしいよな」
「去年の夏休みのこと?」
ちょうどこのくらいの時季に、玲たちに誘われ、プライベートビーチつきのコテージに行った。あれは確か、グラビア撮影のついでだったっけ。そんなところも、今日のシチュエーションと似ている。
「もう一年か。早いもんだな」
「ん、あっという間」
日焼け止めを塗り終え、玲が体を起こす。
去年と違う点としては、玲が水着を新調し、ベビーピンクのビキニを着ていること。
トップスはオフショルダーになっていて、フリルがたっぷりとあしらわれている。
背中には大きなリボンがついていて、後ろ姿だけでも可愛らしい。
前に着ていた白いビキニは清楚で魅力的だったが、こっちの玲も捨てがたい。
「どうしたの?」
「いや、水着変えたんだなって。似合ってるよ」
「ありがとう」
柔らかく微笑んだ玲に、不覚にもドキッとした。
こいつの仕草は、いちいち魅力的だから困る。
「でも、なんで変えたんだ? 気に入ってたんだろ?」
「ん、残念だけど、合わなくなっちゃった」
「合わない? 何が?」
「大きさが」
「大きさ?」
――――ここで、察しておくべきだったのだ。
「ん、胸の」
墓穴を掘った。
ああ、訊かなきゃよかった。
「去年からちょっと成長した。下着も全部買い直すことになって、大変だった」
「そ、そうか……」
「どうしたの? 凛太郎。顔が赤い」
「……日焼けだよ、日焼け」
「ここ日陰なのに?」
玲がパラソルを指さす。
俺の言い訳は、ことごとく無効化された。
「ちょっと、遅いわよあんたたち」
全身びしょ濡れのカノンが、俺たちを訝しげな目で見ていた。
どうやら、すでにひと泳ぎしてきたらしい。
「凛太郎が照れてる」
「ふーん? あ、もしかしてあたしの美貌に見惚れちゃった⁉」
カノンがわざとらしく、ポージングを始める。
「ほら、よく目に焼き付けなさい! 水着だって新調したんだから!」
「ああ、はいはい……」
カノンの水着は、前回と打って変わって黒色だった。
トップスは、フリルがついたビスチェ型で、クールでありつつも、可愛い。
いつも、赤などの暖色を身に着けていることが多いカノンだが、黒もばっちり似合っている。
「反応薄いわねぇ……似合ってるでしょ!」
「うん。まあ、もちろん」
素直にそう答えると、カノンがドヤ顔する。
「いいから、一旦体拭けよ」
「いや、いいわ。すぐ泳ぎにいくから。あんたも行く?」
「俺はあとで。先遊んでろ」
「あ、そう。じゃあ、レイ行くわよ!」
「ん、凛太郎、またね」
カノンに腕を引かれ、玲が楽しそうに砂浜をかけていく。元気だなぁ、本当に。
「お待たせ、凛太郎君」
「お、お待たせしましたぁ……」
振り返ると、そこには水着姿のミアと、その背中に隠れる宇佐森さんがいた。
「あれ、二人は?」
「もう先に行ったぞ」
「なるほど。そうだ、見てよ凛太郎君」
ミアが、流れるような動きでポージングを決める。カノンといい、ミアといい、これは職業病なのか?
「二人の水着はもう見たんだろう? ボクも新調したんだ」
ミアの水着は白くて、いつもよりずいぶん可愛らしい。
トップスはハイネックで、胸元にフリルがついている。また、二人と違ってボトムスの形状がスカートのようになっていて、そこにもフリルがふんだんにあしらわれていた。
「あのMV撮影をしてから、可愛い系統にも挑戦してて……どうかな?」
「ああ、よく似合ってるよ」
「そう? じゃあ、いつものボクと、どっちが好き?」
「好きって、お前なぁ……」
それは禁断の質問ってやつだ。どちらがいいかなんて、選べるはずがない。
思わず考え込むと、ミアが噴き出した。
「やだな、冗談だよ。どちらのボクも魅力的すぎて、選べないんだろう?」
「分かってるなら、訊くなよ……」
「ごめんごめん。あ、そうだ」
ミアはふと何かを思い出すと、自分の後ろに隠れていた宇佐森さんを引っ張り出す。
「ちょ、ちょっとミアさん!」
「いつまで隠れてるの? せっかく可愛いんだから、堂々としてなよ」
「で、でも、心の準備が……!」
そう言って震える宇佐森さんは、本当に小動物のようだ。
恥ずかしそうにもじもじしている様子も、その印象を強める要因になっている。
「水着を持ってきてないって言うからさ、急いで現地調達したんだ。可愛いでしょ?」
宇佐森さんの水着は、三人と違ってワンピースタイプだ。
水色で、これまたフリルがたくさんついている。
女子の水着には、フリルがつきものなのだろうか? シンプルなビキニもいいが、こういった可愛らしいデザインも魅力的だ。
「ど、どうですかね……」
年上の女性に可愛いと言っていいのか、少し迷うが、ここで何も言わないのも野暮だろう。
「可愛いですよ、よく似合ってます」
「えっ! ほんと⁉ よかったぁ……」
宇佐森さんが、ホッと胸を撫で下ろす。
心なしか、先ほどより背筋がピンと伸びている。
「他にも色々あったんだけど、これが一番似合いそうだったんだ。そうだ、今度は一緒に下着も買いに行こうよ。おススメはね、紐のやつだよ」
「紐⁉」
宇佐森さんの顔が、一気にボッと赤くなる。
想像してしまったのか、頭がショートしたようだ。
「お前なぁ……あんまりからかうなって」
「ごめんごめん。葵ちゃんの反応が面白くて、つい」
ミアがケラケラと笑い、宇佐森さんが恥ずかしそうに顔を伏せる。
はたから見ると、意地悪な姉と、それに振り回される妹のようだ。




