83-2
食べ歩きを終え、俺たちは大阪駅へ向かった。
この場所で、俺たちはとある人物と待ち合わせをしている。
「いやー! 待たせてすまんなぁ!」
快活な声と共に、彼女たちは現れた。
「久しぶりだね、シロナ、クロメ」
「ええ、ご無沙汰しとります。ミルスタのみなさん、それからりんたろーさんも」
そう言って、シロナはニッと笑った。その後ろでは、相変わらずすまし顔のクロメが腕を組んでいる。まるで、シロナのボディガードのような佇まいだ。
彼女たちチョコレート・ツインズは、もともと大阪が拠点のアイドルだ。
無論、大阪にはめっぽう詳しいとのこと。そこで、大阪案内を頼んだところ、仕事終わりならと、快諾してくれたのだ。
「ほんで、あんたが噂の宇佐森さんやな?」
「は、初めまして! 宇佐森葵と申します!」
宇佐森さんが、深々と頭を下げる。
「お行儀のええ子や! ……って、年上か」
「年上……?」
クロメは困惑しつつも、シロナと共に頭を下げる。
「ほな、早速行こか! 大阪でいっちゃん美味いお好み焼きを紹介したる」
そう言って、シロナは得意げに胸を張った。
「おっと、そこの店や」
シロナが指した店の前には、長い行列があった。
「あんな並んでて入れるわけ?」
「心配せんでええで。ウチらは裏口から入れるから」
シロナは、行列を素通りして、店の裏手へと回った。
どう見ても従業員しか使わないであろう扉を、躊躇なく開ける。
扉の先は、店の厨房になっていた。ムワッとした熱気が、俺たちを包む。
「おばちゃーん! 来たでー!」
「あら! 待ってたわよ、シロちゃん!」
鉄板の前にいた恰幅のいい女性が、お好み焼きをひっくり返しながらそう言った。
「ほな、奥の部屋借りんで」
「あーい、くつろいでいってなー」
この感じ、Barツインズに初めて行ったときのことを思い出す。
案の定、厨房の先には、個室が用意されていた。
モノクロの室内は、冷房がよく効いている。
中央には、鉄板が埋め込まれた長テーブル。その周りには、ふかふかのソファーが置かれていた。
「またお前らの専用個室ってやつか?」
「せやで! この店、ウチらが駆け出しのときに、ようお世話になった店やねんけど、そのことをミーチューブで話したら、バズってもうてな。それから毎日行列で、なかなか行かれへんくなってもうたのよ。せやけどな、繁盛したお礼にって、専用部屋を造ってくれてん」
「すげぇ太っ腹だな」
「それ、おばちゃんに言うたらあかんで。最近気にしとんねん」
「そういう意味で言ったんじゃねぇよ!」
俺が声を上げると、シロナはケラケラと楽しそうに笑う。
その様子を、玲が複雑そうな顔で見ていた。
「レイちゃん、どないしたん?」
「ん……なんか、仲良さそう」
「当たり前や! 毎日連絡とり合うてるし!」
「……凛太郎、それ初耳」
玲からジト目を向けられ、思わず背筋が凍る。
「い、いや、こいつらから一方的にメッセージが送られてくるだけだって」
「そんな! 毎晩ささやいてくれた愛は、全部嘘やったん⁉」
「テメェ……」
「あらやだ、りんたろーさんが怒ってもうた」
シロナは、口元を押さえて「ぷぷぷ」と笑った。
どうしてくれんだよ、この空気。
「ま、一方的ってのはほんまやで。たまにしか返信くれへんしな」
「そうなの?」
玲に顔を覗き込まれ、すぐに何度も頷く。
「それはちょっと、可哀想かも」
「あ! レイちゃん分かってくれはるの⁉ そうなんよぉ、別にやましいことしとるわけとちゃうんに」
「頻度が高すぎんだよ……! 必要な連絡にはちゃんと返してるだろが!」
一番困るのは、思いついたギャグを、メモ代わりに送ってくること。しかも、割と面白い。
あれは一体どうすればいいのだ。点数でもつけてやったらいいのか?
「私も、毎日唐揚げを作ってくれって連絡してるのに」
「今度作ってやるって言っただろ……」
「そう言って、全然来てくれない」
クロメが、じろりと俺を睨む。相変わらず、妙に迫力があって怖いんだよな。言っていることは、子供っぽくて可愛いのだが。
そんなクロメを、シロナが抱きしめ、頭を撫でる。
「おーよしよし、酷い人やなぁりんたろーさん。ウチのことはともかく、クロまで泣かせたらあかんで?」
「はいはい、分かった分かった……」
「にゃはは! ダル絡みして堪忍な!」
シロナが、俺の背中をバシッと叩く。
宇佐森さんなんて、シロナの勢いに押されて終始ポカーンとしている。
相変わらずのボケっぷり。ここまで矢継ぎ早に言葉が出てくるのは、素直に尊敬する。
「ほな、改めまして……ようこそ大阪へ!」
シロナの音頭に合わせ、グラスで乾杯する。
「今日はウチらがご馳走するから、遠慮せず食べや!」
「え、いいのかい?」
「せーっかく大阪まで来てくれたんやから、おもてなしするんは当然やろ?」
「嬉しいね。じゃあ、遠慮なく」
ミアたちが、メニューとにらめっこを始める。
「おい……そんなこと言っていいのかよ。結構食うぞ?」
しれっと隣に座ったシロナに、そう耳打ちする。
しかし、シロナは余裕な態度を崩さない。
「なんぼかかってもええねん。ミルスタさんには恩がある。こないなことでも、少しずつ返していきたいんや。な、クロ」
クロメが、こくりと頷く。
あの合同ライブの一件以来、シロナたちの心境も、大きく変化しているようだった。
時に激しくぶつかり合った両グループだが、こうして並んで飯を食っているところを見られて、とても嬉しく思う。
「注文、決まったよ」
玲がそう言うと、シロナは待ってましたとばかりに立ち上がった。
「お! ほな、ミルスタさんのセンスを見せてもらいましょうか……」
「シーフードミックス十枚、豚玉十枚、もちチーズ十枚、広島焼き十枚、焼きそば三玉」
「ど、どっひゃー!」
シロナが渾身の横転をかました。
漫才を観にきたんだっけ、俺。
「ごほんっ! ……じゃ、早速焼いていこか」
ずらりと並んだ生地を前に、シロナは気合いを入れる。
「え、あんたが焼いてくれるわけ?」
「せや! ま、大船に乗ったつもりで見とき! 粉もん焼かせたら、ウチの右に出るやつはおらんで!」
そう言うと、シロナは俺を横目で見た。
「しかも、お好み焼きは得意中の大得意や。りんたろーさんよりも上手いかもね」
「……なんだと?」
聞き捨てならない言葉に、思わず立ち上がる。
「なら、勝負してみます?」
「望むところだ」
「ほな、他の人は全員審査員ってことで。りんたろーさん贔屓はやめてな!」
玲たちが、期待の眼差しを向けてくる。
「ん、面白そう」
「相手がプロだからって、負けんじゃないわよ!」
「楽しみにしてるからね」
「頑張ってください!」
四人の期待を背負い、鉄板の前に立つ。




