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82-2

 続いて、俺たちは仙台駅周辺を散策することにした。

 目的はもちろん、仙台グルメの食べ歩きである。


「これが、噂の〝ひょうたん揚げ〟……!」


 玲が、串に刺さったひょうたん揚げを持って、目を輝かせていた。

 ひょうたん揚げは、丸いかまぼこを甘い衣で包んだ料理である。

 衣はアメリカンドッグに近い味と食感で、ケチャップをかけて食べるらしい。


「ボクは笹かまを買ったよ」


 こちらも有名な仙台名物だ。

 かなり人気の商品らしく、店の前には行列ができていた。

 ちなみに、俺と宇佐森さんは満腹のため、荷物番である。


「見て見て! ずんだシェイクよ!」


 姿が見えなかったカノンが、どこからかカップを持って戻ってきた。

 またもや有名どころが来た。仙台といえば、やはりずんだも外せない。


「今更だけど、あれだけ食べたあとによく入るな」

「揚げ物は別腹」

「……それを言うなら、甘いものだろうが」


 危ねぇ、一瞬騙されそうになった。


「そうは言っても、凛太郎君だってひと口くらいは食べられるんじゃない?」


 そう言って、ミアは欠けた笹かまを差し出してきた。


「こ、これは?」

「あーん、だよ。海鮮丼のときのリベンジさ」


 ミアがそう言うと、あのときと同じように、突然空気が張り詰めた。


「あんたねぇ……」

「抜け駆けはさせないって、言った」


 二人に睨まれたミアは、不思議と余裕のある態度を見せていた。

 まさか、二人を抑え込む秘策でもあるのだろうか。


「二人とも、よく考えなよ。あのときは、ボクだけウニっていうアドバンテージがあったけど、今はみんな条件が一緒じゃないか」


 カノンと玲が、手元を見る。


「……なるほど、確かにあんたの言う通りね」

「条件が同じなら、構わない」


 三人の視線が、俺に集まる。

 ははーん、読めたぞ、この展開。


「ちょっとお手洗いに……」

「あれ、さっき行ってませんでした?」


――――余計なこと言いやがって……。


 思わず睨むと、宇佐森さんは心配そうな顔をしていた。

 どうやら、俺の心は汚れてしまっていたらしい。そりゃ、何度もトイレに行く人がいたら、心配にもなるわな。


「……いや、気のせいでした」


 奥歯を噛み締め、俺は留まる選択をした。

 宇佐森さんに心配をかけるくらいなら、このほうがマシだ。


「はい、じゃあ誰からいく?」


 ミアが、挑発的な笑みを浮かべる。

 さあ、一体誰のから口をつけたらいいのだろう。

 いや、ここはストレートが一番か。


「じゃあ、ミアからで」


 誰を選んでも角が立ちそうだったから、まずは言い出しっぺを選ぶことにした。


「おっと、一番手でご指名とは。嬉しいね」

「チッ、あたしが言ったことにならないかしら……」

「ん……もう油断しない」


 悔しがっている二人を横目に、ミアの笹かまに齧りつく。

 ぷりっぷりの身に、ほどよい甘味と塩気。噛めば噛むほど、魚の旨味が染み出してくる。

 満腹なはずなのに、まだまだ食べられそうだ。


「美味しいかい? 凛太郎君」

「……ああ、美味いよ」

「それはよかった」


 ミアが、満足げにほほ笑む。

 そんな彼女を押しのけるようにして、カノンと玲が前に出てきた。


「次はあたしだから!」

「いや、私」


 ただ食べさせたいというだけで、こんなに必死になる必要があるのだろうか。

 それを言うと、火の粉が飛んできそうだから、口を噤むことにした。


「ほら、凛太郎君。二番手を選んであげて?」


 宇佐森さんにも笹かまを食べさせながら、ミアは得意げに言った。

 その様子に、カノンと玲はとてもアイドルとは思えない形相を浮かべる。


「じゃあ……玲で」

「えー! なんでよー!」


 カノンの嘆きが響く。

 少し申し訳なくなりつつも、これには明確な理由があった。


「しょっぱい、甘い、しょっぱいってのが嫌だったんだ」

「……それは仕方ないわね」


 カノンは、俺の気持ちを分かってくれたようで、顔をしかめながら引き下がった。

 俺は、甘いものは最後に食べる派なのだ。


「凛太郎、あーん」


 玲に向けられたひょうたん揚げに、慎重に齧りつく。

 今更ながら、これは関節キス――――いや、深く考えるのはやめておこう。

 俺は無心を貫き、ひょうたん揚げを咀嚼した。

 かまぼこにケチャップは合わないと思っていたが、その美味しさに目を見開く。

 やはり、偏見はよくないということか。俺は深く反省した。これは、新しいレシピの懸け橋になってくれそうだ。


「どう?」

「美味すぎて驚いた」

「よかった。もう一個食べる? 私の分は、また買ってくるから大丈夫」


 玲が俺に串を差し出すと、それをカノンが押しのけた。


「ちょっと! 次はあたしだから!」

「……ちっ」


 玲に似合わぬ舌打ちが聞こえた。


「ほら! 溶けちゃうから早く飲みなさい!」

「わ、分かったよ」


 勢いに押され、カノンのずんだシェイクに口をつける。

 枝豆の風味と優しい甘さが、口の中に一気に広がった。

 美味い。気を抜いたら、全部飲んでしまいそうだ。


「ちょっと! あたしの分も残しておいてよね⁉」

「分かってるって」


 苦笑いしながら、ストローを離す。

 もうひと口いきたかったところを、グッと我慢した。


「もう……」


 カノンは唇を尖らせながら、シェイクに視線を落とす。

 その状態のまま、なかなか飲もうとしない。


「……あ、悪い。ストローもらってこようか?」

「へ⁉ い、いや! 違うわよ! 関節キスのために勇気を振り絞ってただけ!」

「カノン、全部言っちゃってるよ」

「はっ⁉」


 ミアに指摘され、カノンの顔が赤く染まる。

 こんな分かりやすい反応を見せられると、こっちも動揺してしまうのだが。


「ええい、ままよ!」


 カノンは、戦に挑む戦士のような気迫で、ずんだシェイクを飲み干した。

 一体、何を見せられているのだろうか。一周回って冷静になってきたな。先ほどの動揺を返してほしい。


「ど、どうよ……」


 カノンが、空のカップをこちらに見せつける。

 どうもこうも、ただのゴミである。


「あっ、ゴミですか? 捨ててきますね!」

「あ、うん……」


 ゴミはゴミ箱へ。カノンの切ない声共に。


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