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続いて、俺たちは仙台駅周辺を散策することにした。
目的はもちろん、仙台グルメの食べ歩きである。
「これが、噂の〝ひょうたん揚げ〟……!」
玲が、串に刺さったひょうたん揚げを持って、目を輝かせていた。
ひょうたん揚げは、丸いかまぼこを甘い衣で包んだ料理である。
衣はアメリカンドッグに近い味と食感で、ケチャップをかけて食べるらしい。
「ボクは笹かまを買ったよ」
こちらも有名な仙台名物だ。
かなり人気の商品らしく、店の前には行列ができていた。
ちなみに、俺と宇佐森さんは満腹のため、荷物番である。
「見て見て! ずんだシェイクよ!」
姿が見えなかったカノンが、どこからかカップを持って戻ってきた。
またもや有名どころが来た。仙台といえば、やはりずんだも外せない。
「今更だけど、あれだけ食べたあとによく入るな」
「揚げ物は別腹」
「……それを言うなら、甘いものだろうが」
危ねぇ、一瞬騙されそうになった。
「そうは言っても、凛太郎君だってひと口くらいは食べられるんじゃない?」
そう言って、ミアは欠けた笹かまを差し出してきた。
「こ、これは?」
「あーん、だよ。海鮮丼のときのリベンジさ」
ミアがそう言うと、あのときと同じように、突然空気が張り詰めた。
「あんたねぇ……」
「抜け駆けはさせないって、言った」
二人に睨まれたミアは、不思議と余裕のある態度を見せていた。
まさか、二人を抑え込む秘策でもあるのだろうか。
「二人とも、よく考えなよ。あのときは、ボクだけウニっていうアドバンテージがあったけど、今はみんな条件が一緒じゃないか」
カノンと玲が、手元を見る。
「……なるほど、確かにあんたの言う通りね」
「条件が同じなら、構わない」
三人の視線が、俺に集まる。
ははーん、読めたぞ、この展開。
「ちょっとお手洗いに……」
「あれ、さっき行ってませんでした?」
――――余計なこと言いやがって……。
思わず睨むと、宇佐森さんは心配そうな顔をしていた。
どうやら、俺の心は汚れてしまっていたらしい。そりゃ、何度もトイレに行く人がいたら、心配にもなるわな。
「……いや、気のせいでした」
奥歯を噛み締め、俺は留まる選択をした。
宇佐森さんに心配をかけるくらいなら、このほうがマシだ。
「はい、じゃあ誰からいく?」
ミアが、挑発的な笑みを浮かべる。
さあ、一体誰のから口をつけたらいいのだろう。
いや、ここはストレートが一番か。
「じゃあ、ミアからで」
誰を選んでも角が立ちそうだったから、まずは言い出しっぺを選ぶことにした。
「おっと、一番手でご指名とは。嬉しいね」
「チッ、あたしが言ったことにならないかしら……」
「ん……もう油断しない」
悔しがっている二人を横目に、ミアの笹かまに齧りつく。
ぷりっぷりの身に、ほどよい甘味と塩気。噛めば噛むほど、魚の旨味が染み出してくる。
満腹なはずなのに、まだまだ食べられそうだ。
「美味しいかい? 凛太郎君」
「……ああ、美味いよ」
「それはよかった」
ミアが、満足げにほほ笑む。
そんな彼女を押しのけるようにして、カノンと玲が前に出てきた。
「次はあたしだから!」
「いや、私」
ただ食べさせたいというだけで、こんなに必死になる必要があるのだろうか。
それを言うと、火の粉が飛んできそうだから、口を噤むことにした。
「ほら、凛太郎君。二番手を選んであげて?」
宇佐森さんにも笹かまを食べさせながら、ミアは得意げに言った。
その様子に、カノンと玲はとてもアイドルとは思えない形相を浮かべる。
「じゃあ……玲で」
「えー! なんでよー!」
カノンの嘆きが響く。
少し申し訳なくなりつつも、これには明確な理由があった。
「しょっぱい、甘い、しょっぱいってのが嫌だったんだ」
「……それは仕方ないわね」
カノンは、俺の気持ちを分かってくれたようで、顔をしかめながら引き下がった。
俺は、甘いものは最後に食べる派なのだ。
「凛太郎、あーん」
玲に向けられたひょうたん揚げに、慎重に齧りつく。
今更ながら、これは関節キス――――いや、深く考えるのはやめておこう。
俺は無心を貫き、ひょうたん揚げを咀嚼した。
かまぼこにケチャップは合わないと思っていたが、その美味しさに目を見開く。
やはり、偏見はよくないということか。俺は深く反省した。これは、新しいレシピの懸け橋になってくれそうだ。
「どう?」
「美味すぎて驚いた」
「よかった。もう一個食べる? 私の分は、また買ってくるから大丈夫」
玲が俺に串を差し出すと、それをカノンが押しのけた。
「ちょっと! 次はあたしだから!」
「……ちっ」
玲に似合わぬ舌打ちが聞こえた。
「ほら! 溶けちゃうから早く飲みなさい!」
「わ、分かったよ」
勢いに押され、カノンのずんだシェイクに口をつける。
枝豆の風味と優しい甘さが、口の中に一気に広がった。
美味い。気を抜いたら、全部飲んでしまいそうだ。
「ちょっと! あたしの分も残しておいてよね⁉」
「分かってるって」
苦笑いしながら、ストローを離す。
もうひと口いきたかったところを、グッと我慢した。
「もう……」
カノンは唇を尖らせながら、シェイクに視線を落とす。
その状態のまま、なかなか飲もうとしない。
「……あ、悪い。ストローもらってこようか?」
「へ⁉ い、いや! 違うわよ! 関節キスのために勇気を振り絞ってただけ!」
「カノン、全部言っちゃってるよ」
「はっ⁉」
ミアに指摘され、カノンの顔が赤く染まる。
こんな分かりやすい反応を見せられると、こっちも動揺してしまうのだが。
「ええい、ままよ!」
カノンは、戦に挑む戦士のような気迫で、ずんだシェイクを飲み干した。
一体、何を見せられているのだろうか。一周回って冷静になってきたな。先ほどの動揺を返してほしい。
「ど、どうよ……」
カノンが、空のカップをこちらに見せつける。
どうもこうも、ただのゴミである。
「あっ、ゴミですか? 捨ててきますね!」
「あ、うん……」
ゴミはゴミ箱へ。カノンの切ない声共に。




