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一生働きたくない俺が、クラスメイトの大人気アイドルに懐かれたら  作者: 岸本 和葉
第六章

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78-1 マネージャーの仕事

 宇佐森葵(うさもりあおい)と名乗った幼女を前に、俺は動けずにいた。

 その名前は、今日我が家を訪ねてくる予定の、ミルスタの新マネージャーの名前。

 ただ、どう見ても成人しているとは思えないこの人物を、簡単に家にあげていいものか。


「あ、あの……」


 幼女の黒髪のポニーテールが、困った様子で左右に揺れる。

 ただ、困っているのはこちらも同じ。

 そんなとき、俺の背後から、カノンがひょこっと現れた。


「あら、葵ちゃん」

「カノンさん!」

「こんなところで何やってんのよ。早く中に入れてあげなさい」


 カノンが、俺の背中をベシッと叩く。

 俺は「ああ……」とつぶやいて、幼女――――いや、宇佐森さんを家に招き入れた。


「お邪魔します……!」

「わざわざ来てもらっちゃってごめんなさいね」

「いえいえ! 挨拶は基本中の基本ですから!」


 並んで歩くカノンと宇佐森さんを、後ろから眺める。

 ミルスタの中じゃ、カノンも幼い外見をしていると思っていたが、宇佐森さんはそれの比ではない。小学生と言われても、信じてしまいそうだ。


「葵ちゃんいらっしゃい」

「お、お疲れ様です! お邪魔します!」


 リビングにいたミアと玲が、ひらひらと手を振る。

 宇佐森さんは、深々とお辞儀をしたあと、嬉しそうにポニテを揺らした。

 いまだに思考が追いつかずにいると、カノンが俺の脇腹を肘でつついた。


「どうしたの? いつものあんたなら、すぐにお茶とか出すのに」

「い、いや……あの人、本当にマネージャーなのか?」

「そうよ? 新人マネージャーの葵ちゃん」

「……どう見ても子供なんだが」

「レディに対して失礼ねぇ……ま、否定はできないけど」


 カノンは肩を竦めながら、子を見る親のような視線を、宇佐森さんに送っていた。

 何故、こいつらは普通に受け入れているのだろうか。

 俺がおかしいのか?


――――とりあえず、やるべきことをやろう。


 意識を切り替え、人数分の麦茶を用意すると、ソファーに集まっている彼女たちのもとへ戻った。


「ありがとうございます……!」


 俺に向かって、宇佐森さんは再び頭を下げた。

 そして慌てて立ち上がると、懐から名刺を取り出した。


「改めまして……ファンタジスタ芸能で、ミルフィーユスターズのマネージャーを任されました、宇佐森葵です!」

「えっと……志藤凛太郎です。彼女たちの、サポーター……? をしています」

「ふふ、どうして自信なげなのかな?」

「そりゃお前……サポーターつっても、俺は素人だし」

「えー、そんなことないのになぁ」


 ミアに共感するように、二人が何度も頷く。

 サポートといえば、マネージャーの仕事だ。

 素人である俺が、堂々とサポーターを名乗れるわけもなく。

 いくら幼女にしか見えなくても、相手は立派な大人で社会人だ。ここは礼儀正しく、謙虚でいるべきだろう。


「お話は、皆さんから伺っています。このおうちで、一緒に暮らしているとか……」

「ええ、まあ……」

「ということは、やっぱりお三方についてよくご存じですよね⁉」


 宇佐森さんが、ズイッと距離を詰めてくる。

 思わずたじろぐと、間にカノンが入ってきた。


「近すぎ近すぎ。だめよ、葵ちゃん。凛太郎はケダモノなんだから」

「え⁉」


 宇佐森さんは、体を抱き込むようにしながら、俺から距離を取る。

 俺は目を吊り上げながら、カノンの襟首を掴んだ。


「おい」

「ごめん! ごめんって!」


 カノンは手足をバタバタと動かしながら、必死に謝罪を繰り返す。

 言い聞かせるように睨んでから、カノンから手を放した。


「大丈夫。今のはカノンの冗談。凛太郎はすごく優しい人」

「そ、そうでしたか」


 宇佐森さんは、ホッと胸を撫で下ろした。

 フォローを入れてくれた玲に、俺はサムズアップを送る。


「素直でいい子でしょ? 葵ちゃん」

「いい子って……年上だろうが」

「そうだけど、こんな可愛らしい見た目をしてるものだから、つい可愛がりたくなっちゃうっていうかさ」


 そう言って、ミアは宇佐森さんの頭を撫でる。宇佐森さんは、くりくりとした瞳を真っ直ぐミアに向けていた。

 庇護欲が湧いてくるという意味だろうか? それなら俺にも少しは理解できる。


「それで、俺は何をすればいいんですか?」


 このままダラダラ話しているわけにもいかないと思い、話を本筋に戻した。

 宇佐森さんは、咳払いを挟んで、こちらに向き直る。


「人手不足が原因で、私のような新人が、大御所であるミルスタのマネージャーをすることになったわけなのですが……」

「大御所……」

「大御所ねぇ……」

「うん、いい響きだ……」


 宇佐森さんがそう言うと、玲たちはそうつぶやき、ニヤニヤしながら頬を掻き始めた。

 いちいち照れるな。


「私が未熟なばかりに、皆さんには、心配やご迷惑をかけてしまっていて……。そこで、少しでも皆さんが活動しやすくなるように、志藤さんがいつも心がけていることを、私に叩き込んでいただきたいんです」

「心がけていることって……」


 たとえば、なんだろうか。

 部屋が散らかる前に片付ける、とか?

 必ず三人より早く起きる、とか?

 当たり前にやっていることが多すぎて、いざこうして訊かれると返答に困るな。


「とりあえず、あんたの普段通りの過ごし方を、葵ちゃんに見せてやってくれない?」

「そうすれば、葵ちゃんもボクらとの過ごし方がなんとなく掴めるんじゃないかなって」


 なんだかフワッとしている気がするが、そんなことでよければ難しいことはない。

 問題は――――。


「ツアーに同行するって話は、どうなりました?」

「あ、それもお願いします」

「軽いな……」


 ついでみたいな感じで言われたが、メインはそっちのはずだ。


「同行の許可はバッチリもらえたので、ツアー先でもサポートしていただけたらと!」

「ん、凛太郎はいつも通りにしてくれてたらいい」


 サポートの具体的な内容が知りたかったのだが、どうやら特に決まっているわけではないようだ。

 一時的とはいえ、プロの現場に同行するのだ。気を引き締めて取り掛からねば。


「じゃあ、ボクらは仕事があるから」


 そう言いながら、ミアたちは立ち上がった。

 今週までは、前のマネージャーが同行してくれるらしい。


「凛太郎、葵ちゃんをよろしく」

「分かったよ。そっちも頑張れ」

「ん、行ってきます」


 三人を見送り、俺と宇佐森さんは二人きりになった。


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