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第6話 Plague

Twenty-Fortyの話をする前に、少しだけ昔話をしよう。


もう一三二年前のことだが、一九一八年に、スペイン風邪というものが世界中で大流行した。スペイン風邪は英語でSpanish Flu。その名の通り、インフルエンザが引き起こしたパンデミックだった。


世界中で億単位の人が感染し、何千万人もの人が死んだ。有効な治療薬もなく、当時はどの病原体が引き起こしているかすらわからなかった。過去に例を見ない感染力と凶暴性をもつインフルエンザによって人類の存亡が脅かされていたのだ。


しかし翌年1919年、パンデミックは沈静化した。理由は明快だ。インフルエンザが毎年のごとく突然変異を起こし、獰猛どうもうな性質が弱まったからだ。


この話はTwenty-Fortyを知る上で重要だ。


アメリカ(C)疾病予防(D)管理センター(C)はA型インフルエンザの無害化に何十年もの月日を費やしてきた。そしてついに二〇三八年に、インフルエンザの遺伝子改良によって無害化に成功したと発表した。そしてその無害化したインフルエンザをアメリカに大量にばら撒いた。CDCの研究に対して批判的または懐疑的に思う人は少なからずいたが、大半の人は賛成的でった。

だから、その翌々年に起こることを予想できた者はいなかった。


二〇三九年。インフルエンザ発症者数が例年の1000分の1にまで落ちた。CDCはこれを自分たちの成果とした。


それもつかの間だった。


二〇四〇年。未知の感染症がアメリカ全土で流行っているとの情報がCDCに入った。非常に凶暴で、致死率は70%を超える。感染力も非常に強い。


CDCはすぐさまその病原体の解析を行った。

その病原体のRNAデータと七割一致するものがCDCの病原体データの中にあった。


そう、それこそがCDCがばら撒いたインフルエンザウイルスなのだ。しかし、二年の間に突然変異によって性質が大きく変わっていたのだ。CDCが無害化するために付け加えたRNA配列の一部が置き換わり、それがインフルエンザをこの上なく獰猛なもののしていた。


つまり、CDCがインフルエンザをいじったせいで、インフルエンザがヤバくなった、ということだ。


しかし、それに気づいた頃にはもう遅かった。パンデミックは世界中に広がり、アメリカの半分の人口が犠牲になっていた。


アメリカ全土で混乱が広がった。食料不足が特に深刻だった。食料を作る人、運ぶ人、売る人がインフルエンザにかかってしまったからだ。


警察もまた、機能を停止した。そのせいで犯罪が横行した。街で歩いている女性はレイプされ、店は強盗で商品が全部なくなり、かといって家にいればショットガンを持った男が襲撃してくるかもしれない。

アメリカのどこも安全じゃなかった。


私と父はTwenty-Fortyが起こった時、まだアメリカに住んでいた。原因不明のパンデミックが起こっていることはニュースで知っていた。その疫病自体よりも、いつ家に誰かが襲ってくるかの方が余程怖かったのを覚えている。


そんなとき、父が高熱を出した。

明らかにその流行りの病気だ。


私は父の看病をしようと父の部屋に入ろうとした。


鍵がかかっていた。


開けてと言っても開けてくれない。

寝てるのかと思い、数時間後に同じことをしたが、開けてくれない。

父の部屋にはドア以外の入り口がないので、ドアを開けてくれないと看護もできないし、ご飯も渡せない。


ドアの前でノックを続けているとき、私の第六感が働いた。


父は私に病を移したくないがためにドアを開けないのではないか


「開けて!」


私は叫びながらドアを叩いた。

ドアに突進して壊そうともした。

しかし、ドアは私を嘲笑うかのようにビクともしない。


このままでは父が死ぬ。


そのことを思うだけで胸のそこから気持ち悪い恐怖と冷たい焦りが湧いてくる。


消防(911)に電話したが、前述した通りパンデミックのせいで機能を停止していた。

私は父が部屋で一人苦しむのを見殺しにするしかなかった。


私はドアの前で泣きじゃくった。そうしたら父が私をなだめに出てくるかもしれないという淡い期待を抱いて。


結局、父は出てこなかった。


消防・警察が機能を始めたのは翌年の四月からだった。何を隠そうか。私はこの時には完全に狂っていた。


私は警察が来たときほっとした。やっと父に会える。

警察がドアを開けたとき、父の香りがした。

警察が数人先に入った。


私も続いて部屋に入ろうとした。しかし、警察の一人が私の腕をしっかり掴んで離さない。


離して!


そう叫んで振り解こうとする。

暴れる私は数人の警察に抑えられ、警察署まで連れてかれた。


翌々日、父の遺体の状況を聞かされた。五ヶ月間の間で父の遺体は激しく腐敗していたらしい。また、父の遺体は二重のゴミ袋の中に入っていたのだ。部屋を汚さないようにするために自ら入ったと思われる。


いかにも父がやりそうなことだと私は笑った。


父の遺体は警察が火葬してくれた。

アメリカにも火葬業者はある。


収骨のとき、箸で父の足の骨を持ち上げた。


父は私が抱きついたときはいつも、がっしり受け止めてくれた。

その感覚がどっと私を襲った。


私が箸で持ち上げてる足は明らかに私を受け止めてくれた足とは違った。その感覚の差が私の身体で共振を起こした。

私はその場で嘔吐した。

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