第3話 Homecoming
特殊部隊員だった私たちは身体は別人だが、効率の良い移動の方法がわかっていた。25kmという往路をたったの3時間で歩いた。
私は懐かしさを感じる一戸建ての家の前で止まった。
「着いたよ、オリバー」
私はそう言ってオリバーの方を振り向く。
「嘘だろ?アフリカの作戦行動のときと同じくらい歩くんじゃねえのかよ」
「あの時は150km歩いたわ。そんなに歩いたら東京から出ちゃうわよ。馬鹿ね」
「なんだよ。物足りねえな」
と、オリバーは退屈そうに言う。
私はそれを無視して自分の家のポストを漁る。
「確かここら辺に...あったあった」
鍵はポストの中に入れておくのが習慣だった。防犯上はあまりよろしくないが、鍵を無くしたりした時に便利なのだ。
「鍵をそこに入れておくとかアメリカじゃ信じらんねえぜ」
と言いながらオリバーは私の鍵を奪い、何の断りもせず家に上がっていった。
姿は違えどオリバーのクズのような中身は本当に変わっていないらしい。
*
翌朝起きても、オリバーと私は本来とは違う容姿のままだった。どうやらこれは夢ではないようだ。
まず、私たちは状況を知るために民間軍事会社ユビケーンの社員用サイトにログインしようとした。
「オリバー、おかしいわ。ログインできない」
「俺もだ。何回試しても入らない」
これはある残酷な事実を示していた。
オリバー・バーンスタインとユリナ・コガは死んだことになっていたのだ。
ユビケーンでは、セキュリティ対策のために死んだ職員のログインIDは抹消される。私たちがログインできないということはそういうことだ。
「オリバー。あんた家族いたっけ」
「いや、俺の家族は二〇四〇で全員逝った」
「そう、じゃあ私と同じね」
西暦二〇四〇年。世界的なパンデミックが起こった。
アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)がやらかしたのだ。
CDCはインフルエンザウイルスの遺伝子を操作し、無害化に成功した。しかし、翌年にはその新型インフルエンザが獰猛な性質へと突然変異してしまい、それが世界中に拡散し、猛威をふるった。あまりに凶暴で、感染力が高かったため、世界人口は三分の一も減ってしまった。
その悲劇は、通称Twenty-Fortyとして語り継がれている。
「だったらあんたは私と一緒にいるしかないみたいね」
「なんだそれ。プロポーズか?」
私は自分の血が鼓動を伴って頭に上るのを感じた。次の瞬間にはオリバーの股間を思いっきり蹴っていた。
「Agghhhh!!」
オリバーが呻きながらのたうちまわる。
「命知らずな馬鹿ね」
と、私はオリバーを見下す。
「クソ...お前絶対犯してやるからな」
私はオリバーの小言を聞き逃さなかった。
「なんか言ったか?」
自分でも驚くほどの低い声だった。
オリバーは萎縮して、イエナニモイッテマセンと呟いた。




