第21話 Unity
「ガーマメントってあのガーマメントだよな...」
オリバーが震える声で呟く。
「クラスのみんなには内緒ね。一応ガーマメントも海外の兵器製造会社だし、そういうのに良いイメージ持ってない人も多いから」
稲越薫が心配気にそう言う。
たしかにそうだ。日本の銃規制が緩和されたときも、保守的な立場をとる人々による暴動が勃発した。
その時、私の脳裏にある推測が閃いた。
「あなたのお父さんが戦研のサポートをしてるの?」
私がそう聞く。
戦研の装備や施設がただの部活にしては凄すぎるのが気になっていたが、これで合点が行く。
「そう。海馬の父親とお父様が懇意な間柄で、部活ができた当初から金銭的、技術的にサポートさせてもらってるの」
あの部長にコネがあったのか。たしかに意外ではない。
「あー。なんとなくわかってきた。つまり、他の高校の『戦研』は他の会社がサポートしてるってことね」
オリバーが自信有り気にそう言う。オリバーは無駄な時に頭が切れる。
「その通りよ。t-sportsはいろんな学校で普及し始めてきたけど、その裏では企業の熾烈な競争が水面下で存在してるの。例えばアメリカの軍事企業で、ガーマメントのライバルでもあるNeitron。来月の練習試合の相手高校のスポンサーよ」
それは驚きだ。それならば来月の試合の意味するところはかなり大きい。
すると、稲越薫は私たち三人に向かって頭を下げた。
「どうか私たちガーマメントのために次の試合を勝っていただけませんか」
稲越薫の綺麗な髪の間につむじが垣間見える。
「嫌よ」
私はキッパリと言い放った。その刹那に場が凍りついたのをひしひしと感じる。
「ガーマメントのために戦うなんて私は御免よ」
私は続けて言う。
稲越薫が顔を上げる。目には涙が滲んでいる。授業中の居眠りを注意してきたときの稲越薫は、もう面影もない。
「私はチームのみんなのために勝ちたいの。もちろんあんたのためにも。チームってそういうもの。だからあんたも会社のためじゃなくて私たちのために戦って」
私はそう言って稲越薫に微笑む。
「そうだよ!みんなで力を合わせれば誰にだって勝てるよ!」
と、遥も加わる。
「しょうがねえな。俺もみんなのために戦ってやるよ」
オリバーもそう続ける。
「ほらね。みんな良い人たちでしょ。あんたがわざわざ頼まなくたっていいのよ」
私はそう言って右手を差し出す。
そして私と稲越薫は固く握手をしたのだった。
*
翌朝。
私は通学路でばったりと遥と会い、オリバーを含めた三人で登校した。
教室に入ってすぐのところに、稲越薫の席がある。
教室の扉が開くと、そこには凛とした雰囲気と、妖艶さとも言うべきオーラを放つ女子が座っていた。
我らが委員長、そしてチームメイトの稲越薫である。
「おはよー!かおるん」
遥が飛びつく。
「かおるん?」
私は聞き直す。
私の心にもやっとしたものが沈殿する。
「やめてよ遥。そんな呼び方」
稲越薫が嬉しそうに言っているのと、ちゃっかり「遥」と呼び捨てしてるのが無性に癪に触る。
「へ〜。あんたたちもう仲良くなったのね」
私は嫌らしくそう言った。
「なぁに〜。ヤキモチ妬いてんの〜」
遥がそう言いながら私を肘でつつく。
「別に!」
私はそう言って自分の席に戻った。
*
放課後。
「今日って戦研の練習あったっけ?」
私は遥に聞く。
「えー。どうだろう。私わかんない」
「じゃあかおるんに聞いてみるね」
私は自分がそう言った途端、「しまった!」、と口を塞いだ。
遥がにんまりとほくそ笑む。
「ゆりなもその呼び方してんじゃん〜」
恥ずかしさで耳が熱くなる。
「あーもう!”かおるん“でいいや!」
私は諦めてそう叫んだ。
“かおるん”が恥ずかしそうに私たちの方を振り返る。
「素直になれば良いのに〜」
遥が今度は指で私をつつく。
「さっきから『かおるん』『かおるん』って何回も聞こえてきて恥ずかしいからやめて..」
赤面した “かおるん” が私たちのところへ来てそう言った。
「ごめんね。でもゆりなが かおるんと仲良くなりたいって言うから」
そんなこと言ってない!
すると、“かおるん” は照れくさそうにこう言う。
「そうなの...じゃあ私も古賀さんのことゆりなって呼んで良い?」
「丁重にお断りさせていただきます」
「ゆりなさん。そういえば今日練習あるよ」
“かおるん”が私を無視してそう言う。その顔があまりにも可愛らしくて目を背ける。
「何照れてんの〜」
遥が私をいじる。
「もうやだー!」
私は二号館に向けて一人で走り出した。




