潜入は忍び足で
最近ほんと、書けなくて困る
とある小さな町にて
さすがに騎士団全員で行動すると目立つので(数もそうだが、見た目がね)、何班かに分けて移動することに。
最初の目的地は国境から最も近い街。狙いは貴族なので、大きな街以外は用がない。なので、それまでは別々で向かうことになった。
因みに私の班は、リウェン、サハラさん、ラーンさんと仲良し(笑)メンバーに。
私としては誰でも良いんだけど、この三人が特に私に気を遣わない面子。つまり騎士団メンバーのメンタル保護が優先された。私のメンタルケアはリウェンが居るから大丈夫!
団長とガントさんも仲良しだけど、私達三人が固まるのは宜しくないのでバラバラ。それぞれが班のリーダーとして行動中。
そして移動を始めて数刻。サファリスに潜入するための初の町に到着。
集落のようなものもチラホラ見られたけど、そういう細かい所は『スベイン』が担当なのでスルーした。
今回の作戦中、『スベイン』と接触するのは緊急時か犯人捕獲時のみ。
だから何かあっても私は助けられない。
というわけで、ケインが『スベイン』側につくことになった。
簡単に殺られる組織じゃないけど、心配だからね。ケインがいるなら安心。
『スベイン』は他国にも何本かパイプを持っているので、その繋がりで捜査してくれている。良い奴らですよ、ホント。
サーシャに何かお礼がしたいと申し出たが、「なら遊びに来い」と頭を撫でられた。いいのか、そんなんで。
遊びに行くならお土産は持って行こう、と決めたところで私達の順番になった。
「えっと、身分を証明出来るものはあるかな」
検問をしている警備のお兄さんが、戸惑いがちに声を掛けてきた。恐らく誰に向かって言えばいいのか決めあぐねているのだろう。
まぁ、明らかに子供な私とリウェン、そしてサハラさんとラーンさん。
ここでご主人でもいれば自然と彼に注目が集まるんだけどねー。どう見たって「ボス」だもん。
一応この班のリーダーは私ってなってるけど、さすがに信じてもらえまい。
なのでチラッとサハラさんを窺うと、面倒そうに頷いた。
鞄の中からゴソゴソと探り出した紙を、検問のお兄さんへ渡す。
「ほら、人数分の証明書だ」
「拝見しますね…………はい、確かに」
パラパラと簡単に確認したお兄さんは、頷いてサハラさんへと返した。
エルヴォンス伯爵とアル様が大急ぎで用意してくれた騎士団と私の身分証明書は、かなり詳細に記載されているから詳しく調べようとしなければバレない。
ホント、バレたら大騒ぎになるくらいの嘘まみれな身分です。
<リン・マクス>
出身:バナンス
職業:鍛冶屋見習い
身分:平民
<リウェン・マクス>
出身:バナンス
職業:武器屋見習い
身分:平民
<サハラ・ミクロサム>
出身:バナンス
職業:傭兵
身分:農民
<ラーン・ハマキス>
出身:バナンス
職業:傭兵
身分:農民
こんな感じで仕上がりました。
私は異界人という正体を隠すためにバナンス出身となったが、職業はある意味当たってるし、身分もここでは平民だ。
私は良いとして、問題は他三人。
何故かリウェンは私と兄妹ということになり、サハラさんとラーンさんはとある村の出身で幼馴染み。
傭兵として旅していた二人が、これまたとある村で暮らしていた私達兄妹と出会い、共に旅をしているーーーという設定らしい。
バナンスが誇る騎士団三人が、武器屋と傭兵? しかも平民と農民だなんて、なんの冗談かと思ったね。
この設定を考えた犯人であるアル様曰く、一応理由はあるらしく。
『まず君の正体とリウェンの身分を分かりづらくするためにも、リウェンとは兄妹ということで。まだ新人とはいえリウェンも騎士団の一員だし、それなりに武器の知識はある。
サハラとラーンは、ただの農民にしては身体の鍛え方が違うからね。同じ剣を持つ者には分かってしまうだろうし、この辺は誤魔化さず傭兵で通そう。
まぁ、それに比べてリウェンは楽だよね。見た目からは剣を持つ印象は受けないし……ん? どうしたんだい、リウェン。そんな難しい顔して。…何でもない? ならいいけど。
もし君らがやらかして、こっちに問い合わせがあっても答えられるようにはしてるから。頑張っておいでよ』
と、まぁ、それなりの考えはあるらしいが。
あのアル様が、本気で、真面目に、考えてるわけがない。
だって説明してる間ずっと笑ってたんだよ⁉︎ 微笑む、じゃなくて、ニヤけるだよねアレは。
完全に面白い事を見つけた人の顔だったよ。くそぅ、遊びやがって!
ちゃんと仕事はしてるんだから強くは言えないのが、計算されているようでムカつく。
ご主人や伯爵が遊んだとは思えないから、きっとアル様が嬉々として買って出たんだろう。作戦自体はご主人達が大枠を決めたらしいし。
ストッパーとなる二人が仕事中だったために、今回は自由に遊んだ結果がコレ。
まぁ……使えてるし、問題が発生したわけでもないから良いんだけど。
何かあったらご主人に怒ってもらうことにして、私達は何事もなく町へと浸入、もとい他国へと潜入した。
さすがに首都から離れた町なだけに検問もあっさりクリア。
大きな街になると厳しくはなるが、入国出来てしまえばこちらのもの。
国内の土地が全て人の住んでいる場所じゃないからね。森の中でも進めるし。
本当に問題だったのは入国だけなのだ。
どうやらバナンスを始めとして、この辺の国の国境には見えない「ライン」があるらしい。
それは魔力で成っているから私のように魔力の無い人には見えないし、かなりの高位魔術師でないと目には見えない。
例えば検問を避けるために人気の無い森から浸入した場合、つまり「ライン」を越えると近くの街と首都に警報が届くような仕組みになっている。
きちんと国境近くの町に寄り、検問官のチェックを越えた場合のみ「ライン」に反応されなくなるようで。
これは奇襲を防ぐため、そして国同士の牽制に役立っているそうな。
因みにこの「ライン」、バナンスの魔術師達が作ったそうです。
魔術も心得ているアル様が、苦笑しつつ教えてくれた事だ。
今回の作戦で一番の難関が、自国の生産物。そりゃ、苦笑も出ますよ。
それなら裏技とか知っているそうなものだが、そこら辺は魔術師達を当時束ねていたリーダー格が墓まで持っていったそうで資料は全くないのだとか。
いや、正しい判断だと思うよ? 自分らの作った物に責任を持つのは素晴らしいことです。ただ、今回の事件の条件が悪かっただけ。
いつまでも故人に文句を言っても始まらないし、さっさと解決させて帰ることにしましょ。
「さて、まずはどうしよっか」
リーダーとはいえ、こんな長期の旅は初めてなので何が必要となるか分からん。
騎士団の仕事で慣れているであろう三人を振り返ると、自然とサハラさんに視線が集まる。
それに面倒くさそうに頭を掻きながらも、彼は辺りを軽く見渡した。
「あー……まぁ、まずは食料だな。一応、城から持って来てる分はあるし、狩りも出来るが念の為に見といて損はないぞ。武器は……まぁ、お前は必要ないだろうし、そうそう壊れるモンでもないからな」
「じゃあ、食料だけを見ればいいんだ」
なんと楽なことよ。
リウェンとラーンさんも頷いてるから、正しい判断なようだし。
もともと宿には泊まらす野宿しながら進む予定なので、めぼしい物だけ見て、さっさと通り過ぎることにしよう。
ここはサハラさんに任せることにして、私は観光にでも徹しようかなー。
「おい」
「ウゲッ! ちょっと、首絞まってる! 襟は駄目だよ!」
「どこ行くつもりだ?」
「いやぁ、私って村の周辺と王都しか行ったことないからさ。他国の文化にも興味が…」
「はいはい、全部が片付いたら公爵にでもお願いするんだな」
「えーん、サハラさんのイジワルー」
ズルズルと引きづられながら歩く私達に訝しげな視線が集まるが、日頃から(いろんな意味で)注目される三人は何のその。
別にコソコソする必要もないので、堂々と騒ごうじゃないか。
逃げないように手を掴まれながら(私の希望でリウェンにシフトチェンジ)歩くこと数分。
町の中にある商店街のような場所に辿り着いた。小さな町なので、かなり小規模だが。
王都に比べれば人通りは少ないが、それでも町の規模からして、それなりの人数が買い物に訪れているようだ。
「ねぇねぇ、リウェン」
「ん? どうかした?」
掴まれている(というか繋いでいる)手をユラユラと揺らすと、リウェンが小さく首を傾げた。くっ、可愛い。
リウェンのブレない可愛さに心はキュン死にしたが、表情は普段通りを保てた。
「私達ってさ、兄妹ってことになってるでしょ、双子の」
「うん、そうだよ」
「それならさ、いくつか話を合わせといた方がいいかな。何かあった時に話がチグハグだったらヤバイし」
「あ……そうだね。ある程度は考えとこうか」
私の言葉にハッとした様子のリウェンは、真剣な表情で頷いてくれた。
まぁ、お互い敵に捕まったりすることはないだろうけど。念の為ね。
いや、本当に念の為に、だよ? 決して、リウェンと話していたいとかそんな邪な考えからじゃない。うん。
リウェンからは見えない角度で小さくガッツポーズしつつ、そんな事を思う私である。
「あ、これは必要になるか?」
「んー、いや、まだ大丈夫だろ。次の町までそんな距離もないぞ」
サハラさんとラーンさんが仲良く買い物しているのを生暖かく見守りつつ、リウェンと設定決めに勤しんだ。
それにしても……平和だ。まだ作戦始まったばかりだけど、ここまで何事もないと逆に起こしてやりたくなるよね。
さすがに失敗するような事態にはしないけどさ、ちょっとくらいは刺激が欲しいというか。
……あ、遠くからご主人の殺気が。ごめんなさい、嘘です真面目にやります。
「……ねぇ、リンならどうする?」
「私ならねー」
そんなこんなで、第一関門を楽々と突破した私達はサハラさん主導で買い物を終え、その町を後にした。
**********
とある路地裏にて(??視点)
楽しげに隣を歩く男と話しながら目の前を通り過ぎた女に、思わず手を止めた。
外見ではない、もっと深いところから漂う匂いに口角が上がる。
「…ガハッ……た、たすけ……」
地面に這いつくばった男が、みっともなく泣きながら表通りに向かって手を伸ばした。
だが、その手は誰かの手を取る事も取られる事もなく。
「……ウッセェな」
「っ!!!」
片手で掴んだ腕を軽く捻ってやると、アッサリと男の腕はへし折れた。
あまりの苦痛に声も出ないのか、折れた腕を抱えて暴れる男に構わず蹴りを入れる。
あぁ、あの匂いは同じだ。俺と同じ、匂い。
さっき一瞬だけ見えただけの女の顔が頭にありありと浮かび、自然と顔が笑みの形を取る。
ちょうど遊び相手も少なくなってつまらなくなっていたところだ。あの女はきっと楽しませてくれる。
根拠のない、しかしもっと強い確信から俺の口からは笑い声が漏れた。
「あは、はははっ」
「…ウグッ……ガ……やめ、て……ギャッ」
「あはは! あはははははは!」
「ギッ……グハッ……………」
「はははははっ!」
「………」
あー、楽しいな。
**********
「リン? どうかした?」
「おーい、早く来いよー」
町を出てから暫くして、森の中で唐突に立ち止まった私にリウェンは訝しげに、サハラさんは少し離れたところから呼んだ。
だけど私は一瞬感じた感覚に、今来た道を振り返ったまま。
今の感じ………ケインの時の。
「……いや、まさかね」
リンとケインで共通することと言えば?
次回は『限りなく最悪な暇潰し』




