ポタージュ完成、王妃がやって来た
ポタージュ、ミルクを入れて冷やすとヴィシソワーズ。世界中で愛される優しい味ですね。
翌日、少し早めにホテルを出た3人は、辻馬車を拾ってまず中央市場へ行き、そこに馬車を待たせて新品の上等なエプロンを買った。これで女子力が高い女子高生に――外見上は――大変身だ。それと、追い込みでポタージュのレシピを外国語検索までして探しまくっていたとき見つけたネギもどき。英語でLeek、フランス語でPoireau、本格的なポタージュには必須らしいのでとりあえずどっさり買い込んでエキュを渡し、釣りはいらねえと太っ腹バブル女を演じた。いや、エキュ以外のコインを持っていないので面倒なだけだったのだが、そういうことを自然にできてしまうのも実家が太いからなのだろう。
桜「ボンジュール、ムッシュ・パルマンティエ!」
桜だってこのくらいのことは言える。なにせ昨日は王女様のように扱われたんだ。上機嫌最高。
翼「さあ、エプロンを着用して女子力最強女に変身しよう!」
紬「Vous avez beaucoup de lait? 」
パルマンティエ「ウイ、ウイ、ジェ・アシュテ・ボークー。」
桜「まずポタージュを作るわよ。パルマンティエさんもわかるように、クッキング動画を見ましょう。言語はフランス語。バイリンガルにして字幕付き。」
パルマンティエは目をこらして画面を見続け、手元の紙にメモし続けた。それを見た桜は動画を一時停止し、翻訳アプリで、“見逃しても何度も再生できるから安心して”と伝えた。パルマンティエは感動してハグしそうになったので、笑顔で1歩下がりそれを避けた。パルマンティエは昨日伝えた漉し器らしきものを持ってきたが、目が粗すぎる。これだとなめらかな食感にならない。桜はそれを翻訳アプリで伝えたら、パルマンティエはしばらく腕組みして考えていたが、棚からリネンの粗布を持ってきた。そして身振り手振りで、これに茹でたジャガイモを入れてぎゅうぎゅう絞れば良いのではないかと提案した。
翼「うん、料理動画でそんなの見たことがある。力がないと無理そうだけど。」
紬「屈強な男性に任せればノープロブレム。」
桜「よし、では作業開始だ。」
料理は完成に近づいたころ、表が騒がしくなった。群衆が怒っているのではない。そうではなくて、警護の兵たちの動きが慌ただしくなったようだ。パルマンティエは表に出て様子をうかがった。そして興奮して戻ってきた。 »La reine! »
紬「え、王妃?」
桜「一昨日見たマリー=アントワネットじゃん。」
翼「試食に来たのかな?」
桜「まさか!たまたまなんじゃないの?ジャガイモに興味を持ってるんだと思う。ほら、彼女はオーストリアのハプスブルク家出身だから、ドイツと近いし。」
翼「なるほどー。でもこの様子を見たら、そしてこの芳醇な香りを嗅いだら、試食する流れに絶対なるよ。」
桜「私たちが王妃の料理人!」
紬「最後まで気合いを入れよう。」
マリーが実験室兼厨房に現れた。さすがのオーラ、そしてそのオーラを強化する圧倒的に盛りまくったヘアスタイル。近寄りがたい。
マリー「パルマンティエ、とても食欲をそそる匂いに満ちていますね。何を作ってるのですか?」
パルマンティエ「この娘たちに教わったポタージュという料理です。ジャガイモが主たる材料です。」
マリー「ほう、興味深い。ジャガイモは幼少時によく食べた。あまり美味いとは思わなかったが、父が栽培を奨励していたから、王族も範を示すようにとたまに食事に出た。だが、こんなに美味しそうな匂いはしなかったと記憶する。ぜひ試食させて欲しい。」
パルマンティエ「もちろんでございます。もうすぐできあがりますので、あちらのテラス席でお待ちくださいませ。」
マリー「あい、わかった。楽しみにしておるぞ。」
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女神「おお、王位の登場か。盛り上がるな。あの髪型と同じくらい盛り上がる。」
青水「あれは位が高くなれば高いほど盛り上がるらしいが、実用レベルでは非常に不自由。馬車の天井につかえたり、シャンデリアにぶつかったり、いろいろ危ない。」
翡翠「進化生物学でいうハンディキャップ理論みたいなものでしょうか。これだけの不利なデコレーションを付けてもまだまだ大丈夫という。」
青水「お、さすが翡翠、良いところに目を付けたな。」
翡翠「まあ、彼女の場合、それでモテようという魂胆ではなかったと思いますが。」
女神「首が折れそうだな。あ、だから首が飛んだのか。」
翡翠&青水「・・・・・・・・・・・・・・・」
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紬「C’est un potage, Votre Majesté.」
マリー「おお、香ばしい。さっそくいただこう。…… うーむ、まろやかな食感、そしてジャガイモ特有の芋臭さが消えて上品な味だ。素晴らしい。」
紬「Merci pour le compliment, Votre Majesté.」
パルマンティエ「おお、気に入っていただけた。」
桜「権利は放棄するから、これをポタージュ・パルマンティエと名付けても良いよ。頑張って貴族階級に流行らせて。平民はフライドポテトを食べるから。」
翼「外で兵隊さんが止めてるけど、平民の皆さんも集まってきてるんだけど。」
桜「気配を感じ取ったのか、あるいは美味しい匂いに釣られてきたのか。」
翼「王妃がお帰りになったら、兵隊さんや平民の人たちにも振る舞ってあげよう。いっぱいあるし。」
桜「そうだね。そして私たちは最後の料理、クリームシチューに取りかかるのです。」
翼「これでジャガイモの消費が増えれば、少しは市民の飢えも収まるかも。でも、革命を止めることはできないね、きっと。」
桜「お腹が空いていただけが原因じゃないからね。」
翼「王妃、今なら実家に戻って首を守れるのでは?」
桜「そうかも知れないけど...そこまで介入して良いかどうか。」
翼「確かにJK旅団の活動範囲を超えてるかも知れない。ここは静かに退場しよう。」
紬「そろそろ女神も転移させたくなるかもしれないので、王妃が帰ったらホテルに戻ろう。」
3人がホテルに戻ってシャワーを浴びたころ、女神の声がした。そろそろ転移させるので用意しておくように、と。
桜「シャワーOK。」
翼「トイレOK。」
紬「忘れ物なし。古着は放置。」
マリーを助けずに転移を決めた3人。冷たいようですが大きな歴史改変はJK旅団の試練に遭わないのかも知れません。




