キラキラリングが売れた、そして追いかけられたけど助けられた
窮地に現れるヒーロー(ってかヒロインだけど)、一度はやってみたいですね。
桜「ところでここはどこだろう?」
紬「ここはパリだよ。私、前に家族旅行で来たことがあるもん。」
翼「いつ頃のパリかな?」
紬「建物の感じからするとそんなに昔じゃない。でも街灯とかないし、うーん、わかんない。」
翼「その辺の通行人に訊いてみれば?今何年ですか、って。」
紬「簡単に言ってくれる。私、どっちかというと陰キャで人見知りなのに。」
桜「行くんだ、ラ・セーヌの星!」
紬「もう、しょうがないな。…… Eh Pardon, madame, quelle année actuelle? 」
マダム「Nous sommes en 1788.」
紬「1788年だよ。フランス革命が始まる前の年。」
桜「お、そうすると次の試練は革命がらみか。」
翼「銃弾飛び交う世界、当たると死ぬ。」
桜「とりあえず換金して宿を探そう。あの蓄光アイテムは換金に注意が必要だから、とりあえずキラキラリングの色違い3つをフランに替えよう。ん?フランで良いのか?」
翼「チャッピーくんは、リーヴルだって言ってるよ。一番の高額金貨はルイ・ドールで1枚24リーヴル、もっと使い勝手が良い銀貨のエキュ、これは6リーヴルだから、宿代や飯代ならこっちの銀貨を狙うべきかな。」
紬「じゃあ、キラキラリング3つでエキュを5枚ということで商談を進めよう。たぶん相手は10枚って吹っかけられると思って身構えてるから、きっと安心して手を打つ。」
桜「では宝石商か....いや、宝石じゃないからなあ。アクセサリー屋。」
翼「どこにあるかわからないし。いっそのこと、広場にタープを広げて臨時の露店を開くってのは?」
紬「私にフランス語接客をやらせようとしても無理だからね。」
桜「紙に値段を書いて無言販売。」
翼「それしかないね。となると、1個でエキュ1枚、それで手を打とう。」
桜「看板にする大きな紙を持ってくれば良かった。A4のワープロ用紙しかない。」
紬「仕方がないよ。それで行こう。計画変更で10個売りに出そう。」
翼「東洋の秘宝、魅惑の輝き、幸運を呼ぶ指輪。」
桜「いけそうだ、それ。」
タープの下にシートを引いて、そこに座って売り子をするJK3人。そもそもタープが珍しいし、JK制服も目を引く。ワープロ用紙に油性マジックで書かれたポップも珍しい。そして並べられた宝石もどきの妙な輝きを発する指輪。1個がエキュ1枚。中流以上なら手が出せない金額ではない。富裕層にとっては激安価格。あっというまに完売になった。
桜「やった!あっという間に完売だ。さっさとずらかろう!」
翼「エキュが10枚、60リーヴル、これだけあれば高級ホテルで豪華な晩餐が可能。」
紬「官憲が嗅ぎつける前に退散だ。」
桜「ねえ、待って。あれ、あの豪華な人、マリー=アントワネットじゃない?」
翼「うん、ウィキの肖像画と似てる。間違いない。」
紬「ギロチンで首が飛ぶよね。」
桜「でも伝えようがない。今はまだどうしようもない。」
翼「なんかこっち見て護衛の兵士に耳打ちしてるよ。」
紬「やばい、逃げよう!」
JKトリオは人混みと俊足を活かして逃げ切ろうとしたが、ガードは屈強な男性、逃げ切れそうもない。ヤバい、捕まったらどうなる?そう観念したとき、屋根から何かが飛び降りてガードたちの前に立ちはだかった。マントをひらめかせた女性剣士だった。ガードが驚いて抜刀すると、女性剣士は高笑いを上げながらガードの剣を叩き落とし、蹴りつけて転倒させ、剣の切っ先をガードに突きつけた。
「Honte à toi de courir après les femmes!」
桜「ねえ紬、何て言ったの?」
紬「恥を知れ....えーと、女を追い回すとは、みたいな。」
翼「かっこいい!女剣士!」
紬「ねえ、あれ、本物のラ・セーヌの星なんじゃない?」
桜「声をかけてみて。」
紬「Merci, L’Étoile de La Seine!」
ラ・セーヌの星は振り向いて頬笑むと、ガードの剣を奪ってジャンプし、屋根の上を疾走して消えた。
桜「とりあえずガードが戦意喪失して座っているうちに離脱してホテルに入ろう。」
翼「マリーは別に怒ってる感じじゃなかったよね。」
紬「珍しいものに興味があったんでしょ。」
JKトリオは前金で宿代を支払って、セーヌ左岸のサン・ゲルマン・デ・プレにあるホテルに投宿した。
桜「ふう、やっと落ち着いた。せっかくのパリなのに観光する暇もない。」
翼「ねえ、紬、さっきからスマホで何を調べてるの?」
紬「ん、ラ・セーヌの星。名前だけなんとなく頭に入っていたけど、実態は何だかちっともわからなかったから。」
桜「何かわかったの?」
紬「うん、とんでもなく古いアニメが最初の登場。“ベルサイユの薔薇”の人気にあやかって作られたそうだけど、その後コミカライズされロングセラーになったんだって。名前のインパクトがあったので、いろいろオマージュで使われたらしい。なんとスパロボにも出てきたって。魔装機神シリーズで、名前も同じシモーヌが操るメカのの必殺技が“ラ・セーヌの星”。」
翼「ちょっと、紬、あんたの悪い癖で調べた先が沼になる。そういう方向じゃなくて、これから始まるフランス革命を調べてよ。」
紬「原因は何と言っても経済の悪化による食糧不足だね。小麦の不作でパンが高騰したのが一番の原因っぽい。食べ物の恨みは大きい。」
桜「うん、うちらも前回の転移で女神へのヘイトが限界に近づいていた。」
翼「パンがなければケーキを食べれば、ってのは?」
紬「あれは完全なガセ。そもそもガセのネタにしたって、ケーキじゃなくてブリオッシュだからね。」
桜「食糧問題か。これはうちらが扱うには大きすぎる問題だな。」
翼「パンがなければブリオッシュじゃなくて、パンがなければフライドポテトって解決策はないの?」
桜「良いとこ突いたね、翼。18世紀後半にジャガイモはヨーロッパに渡ってきていて、プロイセンのフリードリヒ2世は、これだとばかり飛びついて、国王自らがプロモーション活動をした。ドイツといえばジャガイモという下地はここでできたみたい。かたやフランスは、存在は知られていたけど豚の餌扱い。」
紬「美味しくいただける料理法を広めれば飢餓はずいぶんと沈静化したかも。」
翼「検索したらアントワーヌ=オーギュスタン・パルマンティエという農学者がジャガイモの普及に尽力していtらしいけど、思ったような結果が出せなかったみたい。」
桜「たぶん試練は、ジャガイモ普及で飢餓を沈静化かもしれない。パルマンティアに会いに行こう。」
翼「さすがに女子高生の制服だと怪しすぎるから、この時代のファストファッション、古着屋でこの時代に溶け込む衣装を探そう。」
紬「そうと決まれば、パリの本場フレンチを食べに行こう。資金はたっぷりあるし。」
しかし、紬は知らなかった。金を出しても繊細なフレンチの味は求められないということを。この時代、保存技術がないので、料理はともかく塩で固める。ドロドロの塩辛いソースに浸かった憎々しい肉。付け合わせのポテトももちろんない。
桜「ねえ紬、ちょっと無理なんだけど。何これ、茶色のドロドロに塩をこれでもかってぶち込んだやつじゃん。」
翼「付け合わせがないから口の中のリセットができないよ。」
紬「こんなのを常食している貴族はみんな高血圧で早死にする。」
桜「ホテルに帰って白湯を飲もう。」
ジャガイモ、フランス語ではpommes de terre 大地のリンゴ、そもそもこんな名前を付けるから流行らなかったんだよ。リンゴだと思ったら、あの味、いやすぎるでしょ。




