負けてやったんだよと強がったら褒められたが、週末にリベンジマッチに出撃
格下相手の喧嘩は勝っちゃダメなんですね。元八王子スケバンの言葉は重い。
翌日の日曜日、桜はサイン色紙とサイン入りLPを持って八王子の祖父母の家に向かった。
桃「いらっしゃい、桜。」
桜「お婆ちゃん、久しぶり。お爺ちゃんは?」
桃「地下のスタジオだよ。呼んでくる。」
爺「おお、桜。大きくなったな。」
桜「いや、成長はもう止まってるから。それよりほら、プレゼントだよ。」
爺「え?………… これはポールとジョンの直筆の....」
桜「苦労したんだよ。お爺ちゃんが喜ぶと思って...」
爺「はあ....Oh my god! 桜、キスしていいか?」
桜「え?…… まあいいけど。」
爺「ありがとな!もうこの世に思い残すことはない。」
桜「いや、もっと思い残してよ。私まだ高校生なんだからさ。」
桃「そうだよ、あんた。縁起でもない。…… そういえば桜、喧嘩したんだって?」
桜「うん...相手は中学生だったけど負けた。負けてやったんだ。」
桃「偉いぞ!いいか、桜。喧嘩はな、格下相手に勝っちゃダメだ。」
桜「そうなの?」
桃「ああ、喧嘩にはマナーというものがある。これが守れないやつは勝っても結局は負けだ。みんなから馬鹿にされるからな。おまえは立派にマナーを守った。おまえなら八王子を任せられる。」
桜「いや、任せないでよ。私、港区の女子高生なんだからさ。」
桃「ならば港区を治めろ。」
桜「えーと、今そういう人、たぶんいないから....」
翌日の放課後、3人はセーフハウスに集まった。次の転移の対策を話し合うためだ。
桜「同じことをやったらまた負ける。」
翼「ゲームオーバーを2回繰り返すのはダサすぎる。」
紬「突破口を考えよう。」
桜「ちょっと考えたんだけどさ、ボス以外の敵を全滅させてLV20に上がったじゃん。もっと敵を倒せばレベルアップするんじゃない?」
翼「でもボス以外は全滅して残ってないよ。」
紬「あ、そうか...リポップを狙うんだ。」
桜「その通り。キャンプを張って敵が再生するのを待つ。」
紬「MMORPGでよくやるやつ。人気アイテムをドロップする敵を狙うライバルが多いから、リポップするまでモニターをガン見しながら待つ。」
桜「ボス以外を2周回って全滅させればLV25以上になるんじゃね?」
翼「あり得る!」
紬「私も考えたんだけど、うちら現地調達の武器しか使わなかったじゃん。禁止されてないよね、現代武器の使用。」
桜「そういえばそうだ。」
翼「何が効果的かな?」
紬「催涙グレネード。敵のスペルキャストを止められる。」
桜「天才かよ!採用だ、即採用!」
翼「いまあっちの銀行に3000ゴールドあるので金策はもういらないかな。」
桜「いや、消耗品を大量に買い込むにはちょっと足りない。前回の失敗を元に異世界で売れるものを考えよう。」
翼「魔法で代替が効かないもの...」
紬「フレグランスは?あの異世界にパフューム的な香りはなかった。」
桜「おまえ、きょうは冴えてるな。それならメンズもレディースもあるし、そこそこの値が付きそう。」
翼「1本3000~5000円くらいだよ。」
桜「30本持ち込もう。500ゴールドで売ってやる。」
紬「ソブリン金貨は溶けるわ、パフュームと催涙手榴弾でカネは飛ぶわで、散々ですなあ。」
桜「別にうちらの口座残高を積み上げるためにやってるんじゃないからいいんだよ。少し減らして悪目立ちしないくらいがちょうどいい。」
3人は秋葉原の防犯グッズ屋で催涙グレネードを大量購入した。店員が怪訝な顔をしたので、最近は物騒なので親戚に配ると応えておいた。フレグランスは渋谷のドンキで5~6種類を大量購入。こちらは別に怪訝な顔もされなかった。爆買いする人がまだたまにいるからだろう。
金曜日になった。準備万端整えた3人はセーフハウスに集まった。前回着ていた服はボロボロになったので燃えるゴミに出した。今回は、異世界で魔法防御用の防具を買う予定なので、オシャレ重視で出撃する。
桜「あ、身体の奥で...」
翼「あの隠微な感覚が...」
紬「いっちゃいます。」
桜「ふふふ...異世界に馴染む黒ゴスロリ。」
翼「オシャレするとテンションが上がるね。」
紬「さっそく市場に店を出そう。」
思った通り、飛ぶように売れた。匂いは哺乳類のペアリングで視覚情報以前の原初的な魅力刺激だ。雌雄があるこの世界で需要がないわけがない。3人は売上金の15000ゴールドを持って武器防具屋モデストへ向かった。
店員「いらっしゃいませ。」
桜「魔法耐性がある防具はある?」
店員「ございます。こちらの加護のローブはいかがでしょう。特殊な糸で編まれており、属性魔法の攻撃を半減します。」
翼「いくらだ?」
店員「3000ゴールドでございます。」
紬「3つくれ。」
桜「よし、次は魔法屋マンソンジュでロールを爆買い。なにせ2周しなければならないからな。」
紬「そしてその次は道具屋パキスタンでポーションなどの薬剤も爆買いだよ。私がヒールに回らなくても良いように各人が被弾したらすぐポーションを飲む。」
翼「2周するので時間がかかるから、今日はこのまま宿屋に泊まって明日の朝に出撃しよう。」
桜「じゃあ...行こうか。」
翼「リラックスだよ。」
紬「1階の無印と2階のホブにはロールを使わない。3階は惜しまず使う。」
桜「属性攻撃ロールは40本用意したからね。」
翼「さて、レベルはどこまで上がるかな?」
攻略が始まった。予定通り、1階と2階はフィジカルで殴り、3階でロールを投入した。敵の攻撃で被弾しても、どうせレベルアップで回復するのでポーションは温存できる。3階のマスターゴブリンが全滅したので、ドロップ素材を回収した3人は1階に戻りキャンプを張った。LV20になっていた。キャンプでお菓子を食べ、しばし休んでいると、無印ゴブリンが1体、また1体とリポップした。LV20なので力を抜いてもオーバーキルになってしまう。5部隊を軽く殲滅したらレベルが1上がってLV21になった。そのまま2階へ上がってホブゴブリンも殲滅し再びレベルアップ。3階へ上がってマスターゴブリン相手になったので、属性ロールを惜しみなく投入して全滅させた。最終的にLV25になった。
桜「よし、リベンジマッチだ。みんな、準備はいい?」
翼「やってやるぜ!」
紬「MP満タンです。」
ボスのパーティとの戦闘が始まった。計画通り、開戦と同時に催涙グレネードが3個、敵の中衛と後衛に投げ込まれた。視界と呼吸を封じられ、敵は慌てふためいた。
桜「よし、ありったけを投げ込むんだ!」
翼「持ってけ、氷魔法と土魔法のてんこ盛りだ!」
紬「光と闇、どっちがお好み?」
ボスの両脇を守る2体は魔法防御力とHPが高いようで、なかなか沈まない。中衛のキャスターとシューターはすべて倒れた。桜が跳んで双剣の必殺技を炸裂させ、ボスの両脇の2体を切り刻んだ。翼は紬の援護を受けながら敵のタンクと近接アタッカーを倒して行く。これで残ったのはボスのゴブリンキングだけになった。
どうやら催涙グレネードはキングには効果がなかったようだ。両の目をカッと見開いてこちらを見据えている。自分以外のパーティメンバーが全滅したのに、不安も畏れもその立ち姿からは感じ取れない。そして次の瞬間、なんとキングはブレスを吐いた。思わぬ攻撃に間一髪で飛び退いた桜は、仲間に檄を飛ばす。
桜「油断しないで!こいつ、すごく強い!」
翼「属性魔法がほとんど無効だ。」
紬「光魔法だけは少し効いているけど、HPが高くて....」
桜「こいつ、巨体のくせに動きが素早いな。」
紬「ならばこれを使ってみるよ。」
紬は遠隔テイザーを構えて撃った。この異世界に存在しない電撃を食らってキングはひるんだ。桜も翼もテイザーの電撃を出力MAXで撃ち込んだ。キングは倒れなかったが、あきらかに動きが緩慢になった。桜と翼はMP消費の必殺技をキングにぶつけて両腕を切り取った。
桜「ふふふ、これでもう悪さはできないわね。」
紬「リュックの底に腐った聖餅があったからお口に詰め込んであげる。これでブレスは吐けないわよ。」
翼「あとはじわじわ切り刻んだり殴ったりしてHPをゼロにすればうちらの勝利。」
数分の後にゴブリンキングは断末魔の叫びとともに絶命した。
桜「やっと終わった。」
翼「この世界のゴールド、使い道がないけど....」
紬「とりあえずドロップ素材は全部回収して戻りましょうか。」
受付嬢「無事のご帰還....あら?ひょっとして...」
桜「やっつけてきたよ、ゴブリンキング。」
翼「さすがボスだけあって強かった。」
紬「ドロップ素材、鑑定お願いしまーす。」
受付嬢「ちょっとお待ちを ………… すごい...27000ゴールドになります。」
桜「つかぬことを訊くけど、ここのお金って本物の金貨なの?」
受付嬢「そうですよ。世界中どこに出しても恥ずかしくない金貨です。」
桜「そうだったのか。それなら元の世界に持ち帰っても大丈夫だね。」
受付嬢「元の世界?」
翼「いえいえ、お気になさらずに。」
JK冒険者たちは銀行に預けていた3000ゴールドを足した30000ゴールドとともに現代の渋谷に帰還した。
やっと勝てました。一度ゲームオーバーになったので、今度は用意周到でした。女神様も口あんぐりになっていることでしょう。




