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LAST ONE -Δ42-  作者: project pain
オシリス

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8/8

最後のライブ

ついにカウントダウンライブが始まった。遠くから微かに音が届く。それを耳にしながら、エミは川辺に座り込んでいた。


「こんな所にいたのか」


「店長・・・」


「行かないのか?」


「うん・・・」


「昨夜から徹夜で練習してたじゃないか」


「それでも・・・ケンカ別れしたからさ・・・。どんなツラして戻ったらいいのか分からなくて」


「俺がお前を強引に引っ張ってもいい。でもな、それじゃ意味がない。材料は揃っている。後はお前が本当は何をしたいのか、だ」


「・・・・・・」


「本当はやりたくてウズウズしてるんじゃないのか?」


「・・・うん」


「だったらやる事は1つだろ。行けよ。皆が待っている」


店長の一言より先に身体が動いた。どうしたいのか、何をしたいのか、そんな悩みが一気に吹っ切れた。




「っていうより・・・何で屋外ステージにこんな本格的な機材があんのよ?そんな場所じゃないでしょ、ここ」


「店長が気を効かせてな、どうせ消えるんだったら派手に使っちまえって用意してくれたのさ」


「カウントダウンライブみたいな物だからもう何組か終わって、今うちの出番だったんだよ」


「正直、来ない方にかけてたんだが、そんな必要はなかったな」


「早く登ってこい。チューニングする時間ないぞ」


「うん!」




ギターをプラグに刺したエミはギターの感触を確かめながら観客席の方を向いた。


「皆遅れてごめんねー!」


観客の中から悪ふざけのブーイングが聞こえてくる。エミは苦笑いしながらギターを首に掛けた。


「じゃあ行こうか!」


ベースの静かな音から一気に全員が爆発音といわんばかりに音をかき鳴らす。


どの曲も当たり前の様に続いていく。入りも、テンポも、展開も。体に染みついた曲ばかりだ。


視線を交わすまでもない。合図は要らない。次に何が来るか全員が分かっている。音は揃っていた。


それで十分だった。


──ここまでは。


問題は最後の曲、エミが一歩も譲らなかった曲。


「えぇ〜じゃあラスト・ワン!最後の曲ね!聞いて!」


ワン、ツー、スリー──


ケイスケがカウントを刻んだ。


シゲオのギターが入る。ヨシキのベースが続く。ドラムが走る。


合わせてエミのリードギターが入る。少し遅れてる。


やっぱりズレてる。


エミは分かっていた。指も、耳も、全部がそれを知っている。それでも、止めなかった。


「・・・っ」


もう一度弦を早めに弾く。今度は少しだけ早く。ベースに寄せる。ドラムがそれに気付いて、ほんの少しだけ合わせる。


音がぶつかる。まだ揃わない。でも崩れない。


ステージの前で観客が揺れている。歓声はある。でもどこか遠い。


エミは前を見ない。音だけを追う。もう一度。


ギターを強く弾きながら声を張り上げて歌う。


ベースが乗ってくる。


ドラムが戻る。


一瞬。


音が揃った。


エミはただ弾く。次のフレーズへ入る。


今度は、崩れない。


それぞれが一本になる。


ベースが底を作る。


ドラムが支える。


ギターが乗る。


・・・噛み合った。


その瞬間、エミは初めて顔を上げた。




観客が一人ずつ消えていく。転送が始まったのだ。すでにライブを終えたメンバー達も順に消えていく。


エミの背中で鳴っていたシゲオのギターがふっと途切れる。次にヨシキのベースが消えた。気が付くと、エミとケイイチの二人だけが楽器を鳴らしていた。エミは振り向いてギターを弾いていた指を止めた。


「また、二人に戻ったな」


「いいんじゃない。最初に始まり、最後に終わる」


「離れ離れになっても、お互い音楽を続けていこうね」


「あぁ、ネットワークで互いの曲、聞けるしな」


そう言い残して二人は転送された。




──超ロナバイト級データセンター・アトラス


バートニックは生乾きの髪をそのままにブリッジに入った。


「新しい身体ができたばかりでしょうに・・・、大丈夫ですか?」


「記憶の破綻もしてないし、大丈夫だと思う。それよりユーザーデータの方は?」


「転送作業は完了。サーバークラスタは目的地到達までスリープ状態にしてあります」


「オシリスとのランデブー、終了します」


「よろしい。超ロナバイト級データセンター・アトラスは回頭、海王星35B地点へ向け発進します。ホールスラスタ起動。補助電力このまま。ブラックホール発電、シークエンス開始」


「ブラックホール発電、フェイズ1始動」


「新型炉なんだから、優しく扱ってよ」


「オシリスより給電マイクロウェーブ届きます・・・あ、ちょっと待ってください」


「何?」


「メッセージを受信しました」


「読み上げて」


「"そっちでも頑張って"宛、バートニック・アトラス。発、バートニック・オシリス」


ブリッジの中が変な空気で固まる。


「・・・自分が送っておいてなんだけど、何よ、ロマンチックな」


「返信はいかがされますか?」


「いいわよ、そんなのやらなくて」


「ヘスティア、ヘルメス、続きます」


「微速前進5分。以降全速前進。これより木星軌道から離脱します」


バートニックはマイクロウェーブを出しているオシリスの方を見やった。これが途切れると役目を終えたオシリスは処分の為に木星の大気圏へ突入する。自分が消滅するという感覚が胸の中にざわつきを残した。




「うーん、やっぱ高いなー」


陳列されたギターの前で値札を眺めるエミは大きく溜め息をついた。


その横を誰かが通る。


「すみませーん、これください」


「はいよー」


あれ?今の声って・・・。


店内を除くと見知らぬ人物が2人?しかしスネアケースには見覚えのある猫のシールが貼られている。


「そのシール・・・ケイスケ?」


「えっと・・・?」


その人物は首をかしげた。


「それにシゲオとヨシキ・・・」


「?」


「?」


「あ、いえ。人違いです・・・。すみません」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・プッ」


歩き去っていこうとする主人公に対し、三人は笑い始めた。


「あはははっ」


「何?!」


「な?こうなっただろ?」


「可愛いとこあんじゃねぇか。"あ、いえ。人違いです・・・。すみません"」


エミは赤くなった顔を膨らませた。


「てめぇらぶっ殺す!」


またこんな騒ぎを起こせる。そんな満足感がエミにはあった。

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