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LAST ONE -Δ42-  作者: project pain
オシリス

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7/8

転送3日前

挿絵(By みてみん)


「木星衛星軌道上ロナバイト級データセンター、オシリスは本日より三日後の4月2日、0時を持って大気圏への航路に入ります」


「住民の皆様はランデブー中の3基のデータセンターへ順次移転作業を行います」


「転移は偏りがない様に振り分けはAIによるランダムとさせていただいております」


「どうか慌てずにシステムの案内に従って行動してください」


──西暦12,457年。太陽系第五番目の惑星、木星。その衛星軌道上に存在する最も古いデータセンターの一つ、ロナバイト級データセンター"オシリス"は、1,500年という耐用年数を超え、処分の為に木星への大気圏突入を目前に控えていた。




私達にとって若返りは当たり前。お年寄り?死ぬ?言葉は聞いた事あるけど、実際にどんな物なのかは知らない。データ人格やデータセンターなんて話は伝説上の出来事だと思っていた。ここで永遠に若返りを繰り返せば、ずっと同じ時間を過ごせると思っていた。

でも、オシリスを木星に落として消滅させる。火星の衛星軌道上からやって来る新しいデータセンターの映像を見て、それが初めて現実の事だと知った。


「うーん、やっぱ高いなー」


エミはギター屋の壁に架けられている1本のギターの前に立っていた。その弦に挟まれた値札を眺めて溜め息をついている。


「何だ、お前またそれ見てるのか?」


ギター屋に入ってきたケイスケがあきれてその姿を見る。


「だって、Ibanezのスティーブ・ヴァイモデルだよ。天才ギタリストの要望を全部詰め込んで生まれたJEMシリーズの名作。指板にはエボニー材を使用、彼のギターを語る上では欠かせないツリー・オブ・ライフ・インレイの装飾。ボディは何と言ってもこの特徴的なモンキーグリップ!それにそれに・・・」


「ちょ・・・お前一度落ち着こうか。第一、お前が使ってる奴だってIbanez製だろ」


ケイスケが見る先にはエミのギターのネック反り直しをしている店長の姿が。


「って言っても、欲しい物は欲しいじゃん」


エミはもう一度値札を見る。


「はぁ〜。働かないとだな〜。オヤツ我慢しないとな〜」


エミの視線がチラッチラッとケイイチに向く。


「何だよ、俺は金出さないからな」


「そんなぁ〜。同じバンドのメンバー的にどうなのよ〜」


「自分の事は自分で何とかしろ」


「じゃあさ、弦買ってよ。DRの0.3-4.2」


「甘えるな」


「ほら、メンテ終わったぞ。」


店長はエミにギターを渡した。


「いかに新しいギターでも徐々に木が乾燥していい音を出す様になる。大事に使ってれば、ギターはそれに応えてくれる」


「そういうモンですかねぇ」


「そういうもんだ。しっかり使ってやりな」




ライブはその夜に行われた。何組かのバンドが小さなライブステージに経っては自慢の曲を奏でていく。ステージは小さい。客との距離も近い。


照明は最低限。それでも、演奏が始まれば関係ない。


「次行くよー!」


エミがマイクに向かって叫ぶ。


ケイスケがスティックを鳴らす。


ワン、ツー、スリー──


ドラムが入る。

ベースが続く。

リズムは安定している。


ギターが重なる。悪くない。

客も乗っている。前列がリズムに合わせて身体を揺らす。


しかしエミの指がほんの少しだけ遅れる。


歌に意識を持っていかれる。


リードが入るタイミングが、わずかにズレた。


「・・・っ」


一瞬表情が曇る。そのまま強引に弾き切る。


ドラムがフォローする。ベースが埋める。曲は崩れない。


でも・・・


完璧じゃないライブが終わる。


「皆ありがとー!」


拍手が起きる。歓声もある。成功だ。・・・成功、だけど。


ステージを降りた瞬間、ケイスケがエミの方を見る。心なしか、渋そうな表情を浮かべていた。




ライブが終わった後、メンバーはなぜかエミの部屋でピザを食べている。エミは人数分のビールグラスを持ってリビングに入ってきた


「部屋、汚さないで。何でピザを床に置いて食うの、テーブルで食ってよ。ほらそこ!カケラ散ってる散ってる!」


「そういうとこだけ女子っぽいんだよな」


「んだと?」


ケイスケはデジタル・ディスプレイからミュージックを流し始めた。


「何これ、ファイアー・ボンバー?」


「銀河ネットワークで落としたやつ。何千年経っても残る物は残るんだよなぁ〜」


「ワルキューレだって捨てきれないぜ」


「なぁに、皆おじいちゃんみたいになって!ほら、カーペットの上掃除するから皆ソファに上がって!あんたは空箱集めてゴミ袋に入れる!」


「え?何で俺だけ?」


「何ででしょうね〜足に聞いてみなよ」


シゲオの足元を見てみると踏まれて血反吐を吐かんばかりに飛び散ったケチャップの袋が。




ケイスケはベランダでタバコを吸いながら空を見上げていた。


「なぁにたそがれてんのよ?」


「長かったなぁ・・・。俺達が組んでから」


「そだね〜。最初は私とあんたで始めたからね」


エミは壁に掛けているケイスケのスネアケースに目をやったその表面、ど真ん中に猫のシールが貼られている。


「あのシール、まだ剥がしてなかったんだ。あんなに嫌がってたのに」


「まぁ・・・、勲章みたいな物だからな」


「何それ」


ケイスケは再び空を見上げた。


「明後日か・・・、転送始まるの」


「最後に何かしたいよね」


「知らないのか?屋外ステージでバンド集まってカウントダウンライブするんだ。うちも誘われてんだ」


「え?私聞いてない」


「俺もさっき聞いたんだ」


「じゃあ気合いれてかないとね」


「お、やる気になったか」


「うん、やるよ、私」


「じゃああの曲、完全に物にしないとな」


「うん・・・」


「何だ?自信ないのか?」


「あの曲だけは・・・何としても物にしたい。最後のライブで絶対やりたい」




「じゃ、私寝るから帰りたい人は勝手に帰ってよ」


ベッドに入ったエミは背中を向けて寝始めた。


「勝手にって・・・、寝ている女子の周りを男達が取り囲んでるんだぞ。警戒心なさすぎだろ。襲われたらどうすんだ?」


エミは枕の下からフライパンを取って見せた。


「・・・何でそんな物がそこにあるんだ?」




──翌日


エミ達は反省会も兼ねてギター屋に集まった。


「ギター屋の地下使って練習してるのうちら位じゃない?」


「まあ本来は試し弾きする場所だし」


「よそみたいに練習スタジオ借りるほど金ないしな」


「でもドラムが置かれてるって事は1応練習スタジオだよな、ここ」


「じゃあ昨日の反省会な」


「最後の曲な。エミのリードが少し遅れてたんだよな」


「あぁ、それ俺も気になってた」


「最後に作った曲だもんね〜」


「作ったの1ヶ月前だろ。しかも作ったのお前」


「なぁ、お前ヴォーカル専門にして新しい奴、助っ人で1人入れようぜ。歌いながらリード弾くのムズいだろ」


「やだよ、そんなの」


「もう1回やってみよう」

「どうかな?」


「いや、ダメだな」


「・・・・・・何で?」


「やっぱズレてる」


「悪い事言わないから、俺が・・・」


「何でさ!この曲は私が弾きたい!絶対に物にしたい!」


「一ヶ月経っても物にできてないだろ。あと二日だぞ。何が出来んだよ?」


エミの中で段々怒りが湧いてくる。これだけ頑張っているのにフォローしてくれる人が一人もいない。


「知るか!カウントダウンライブ?自分達で勝手に盛り上がってろ!」


エミはギターのネックをつかんでそのままスタジオから出ていった。勢いよく閉まったドアの音が消えてからケイスケ達は顔を見合わせた。


「あいつ、戻ってくるかなぁ?」


「さあな、こればっかりは本人の問題だし」


「せっかくカウントダウンライブに招待されたのに」


「最悪、あいつ抜きでやる」


「は?」


「このまま来なかったら、そうするしかねぇだろ」


「まぁボーカル抜きでも行けなくはないけど」


「俺達が集まれるのも明日で最後だ。その後は・・・」


それに続く言葉はケイスケの口から発せられる事はなかった。誰もがその先を頭の中で思い描けてた。

エピソードがまとまったら順次公開していく予定ですので、是非ブックマークしてください。


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