ハーフエルフの女騎士
俺達が馬車から降りると、すでに跪いた状態でそいつは待っていた。美しいハーフエルフの女騎士。肌には魔術文様が刻まれており、水晶のような透き通った瞳をしていた。こいつの顔はジーネドレ帝国を調べる前から、俺でも知っていた。何故ならネドレ人系の商店にはよくこいつの姿絵やモチーフとした商品が売られていたからだ。
──十王マディアード、世界で最も有名なハーフエルフ、世界で最も有名な女騎士。世界最高峰の槍使い。世界最高峰の剣士。世界最高峰の魔法使い。
色々と盛りすぎだろと思える評価だが、それは単なる事実だ。であれば、マディアードが世界的に人気があるというのも疑う余地がない。マディアードはジーネドレ帝国の広告塔のような存在、マディアードを使ってジーネドレ帝国に人々の関心を集め、その関心をフォルゾートが帝国の為に利用する。そういう意味でマディアードとフォルゾートはコンビと言えるかもしれないな。
「兄神様、天上神様、御身を拝謁すること恐悦至極、今日という日を生涯の宝として、身魂に刻み込みたく思います。某はマディアード・ウードナインズ・スコルピア。ジーネドレ真帝国、真十王が一人、永遠神様の下僕で御座います」
「ああよろしくマディアード。堅苦しいのは無しで頼む、面倒だからな」
「えっ!? し、しかし、そういう訳には……立場が違い過ぎます。ど、どどど、某はどのようにすれば……」
マディアードは俺の言葉にびっくりするぐらい動揺していた。というか、顔が赤くなってる。なんか恥ずかしいのか? 人付き合いが苦手なのかな?
「マディアード、お兄ちゃんから離れなさい! ガルルルル!」
ディアがマディアードに警戒心をむき出しにして、犬のように唸っている。そんな危険人物とは思えないけどなぁ。
「は! ではそのように! 天上神様!」
──ササササ、超スピードで跪いたまま後退りし、俺から距離をとるマディアード。7mぐらい離れた所でディアが良し、というとマディアードは止まった。
「ディア、そんな警戒しなくてもいいだろ? マディアードは見るからにクソ真面目で不器用そうな奴だ」
「駄目! そういう問題じゃない! こいつ、お兄ちゃんの事をエッチな目でみてたもん!」
「は? そんなわけないだろ? 初対面だぞ?」
そう思って俺がマディアードを見ると、マディアードは顔を赤らめ、俺から目を逸らす。えっ……そうなの? エローラの方を見るとエローラは苦笑いしていた。
「ジャンダルーム、あんたもウッドエルフの特性知ってるでしょ? ウッドエルフは本能というか直感的に、自分の番とすべき相手が分かるのよ。自分の体が、魂が、理解してるのよ。そんでマディアードにとっては、それがあんたってことでしょ。可哀想にね、みるからにあいつむっつりスケベで、永遠神様とやらがあんたと結ばれない限り、永遠にお預けくらうの確定してるわけでしょ?」
「えぇーーーーーッ!!? 嘘だろ? えぇ? 俺が……なんで? こいつらにとって兄神とやらだからか?」
「いえ、そういうわけでは……っ、あ、あの、目を瞑って話す事をお許しいただけないでしょうか?」
「あ、ああ」
マディアードが目を瞑り、深呼吸をする。そして話そうとした所で中断し、また深呼吸をする。そんな繰り返しが三度行われ、マディアードはやっと話せるようになった。
「天上神様、某は永遠神様にこの身を、存在の全てを捧げた身。永遠神様を裏切るような事は絶対にいたしません。それに、万が一、某があ、兄神様を誘惑してしまったとしても、兄神様は相手にすることもないでしょう。どうやら、某の魅了の魔力が全く意味をなしていないようですから」
「魅了の魔力? それってなんだマディアード?」
「エルフ種は自身が持つ魔力が多ければ多いほど、他者を魅了する魔力も多くなってしまうのです。この魅了の魔力はエルフ種には制御できず、魅了の魔力がどのように作用するかは人によって異なります。例えば、某であれば、某に魅了された者は、某のことを応援したくなるようです」
魅了の魔力……エルフ種は、ってことは……エローラもそうってことか? そういやエローラって性格悪い癖に、やたらとモテてたな。
「そうか、エローラは魅了の魔力のせいで、無駄にモテて困ってたのか。俺は魅了が効かないから普通に話せた。じゃあエローラの周りでおかしくなってたのは……」
「おそらくエローラさんの魅了の魔力が持つ特性は、狂乱でしょう。狂乱の魅了を持つエルフは集団生活に向かず、常に不機嫌だと聞いたことがあります。しかし、その代わりに絶大な魔力量を誇るとか」
「らしいけど? そうなの?」
「……っ、ど、どうしようもないじゃない! だって、生まれた時からそうだったんだから! みんなが、あんたみたいに魅了耐性を持ってれば、アタシだって、アタシだって……」
「そりゃ無理だな。俺の魅了耐性って命懸けで習得したものだからな。サキュバスの魅了を跳ね除けるレベルは、極々一部の奴しか習得できないだろうよ。まぁでも、そう絶望する必要もないよエローラ。技術は発展していくもんだ、いずれお前の魅了の魔力の問題だって解決できる。なんなら、お前がその方法を見つけたっていいんだ。できると思うぜ、俺は」
「え?」
「だってそうだろ? なぁディア。エルフが魔法を使うのに、理論も理屈も必要ない。ただ自然にそれが使える。なのに、エローラは俺やディアに魔法を説明できるだけの思考力と知識量がある。それはお前が今まで魔法と向き合い、学んできた積み重ねの結果だ。ま、希望の魔法を目指した結果だろうけど、それ以外の目的に役立つことだってあるんじゃないの?」
「うん、わたしもお兄ちゃんと同意見。エローラは魔法の研究者だよ。それにマディアードが言うように狂乱の魅了持ちなら絶大な魔力量があるんでしょ? 硝子のエルフは寿命も長いし、絶対だよ。エローラならいずれ、絶対に解決できると思う」
ディアの言葉には希望があった。きっと、ディアはエローラだけでなく自分にも言ったのだろう。長い時をかけて、希望を追い続ければ、いずれ到達できると。ディアは俺と共に、俺の最後の時がやってくるまで、幸福であり続ける。そう在れると、ディアは信じている。信じたいんだろう。
ディアは……俺が永遠の命を持たないことに納得している。俺の自由意志を尊重して、寿命を迎える未来を、受け止めようとしている。俺が死ぬまでの、俺とディアと共に過ごす全てを大事な記憶とする為に、全力で生きようとしている。
そして……そして、ディアは……──
──ディアは死ぬだろう。俺と共に、ディアは消滅する。ディアはエドナイルで崩壊しかけていた。俺がいつか死んで離別する、そんな恐怖から死にかけていた。だから俺が死ねば、ディアも、死ぬのだろう。ディアは納得している。それでいいと、俺と共に死ぬのなら、それでいいと。永遠のような長い時を生きてきたけれど、彼女の生の本質は儚く、切ない。
それはきっと、ディアだからではなく、元となったオリジナルのミヤコ自体がそうであったからだ。つまり、ミヤコから生まれた全ての妹が、同じなのだ。
俺が死ねば、全ての妹は、イモートは、世界から消え去る。まるで幻であったかのように、あっさりと、消えてしまうだろう。残るのはネドレ人やインレーダ族のようなイモートによって創り出された存在、彼女達が残した遺物、遺跡だけだ。
分からない。俺は全ての妹と共に消え去るべきなのか? きっと、それで決着はつく。一つの結末がある。俺とミヤコの旅はそれで終わる。ミヤコがこれ以上苦しむことはなくなる。それが兄として、責任を果たしたことになるんだろうか? 一つの正解ではあると思う。でも、寂しいよ。
俺は、欲張りなんだろうか。
「マディアード、馬車に乗れ。オリジンフォレストへ向かう。どこまで通常通り向かえるかわからんが、予定の通り、依頼は果たすことになってる」
俺の言葉で皆馬車に乗り込む。ギガントホースが大きく嘶くと馬車は動き始めた。その嘶きが、今の俺には始まりに聴こえた。
俺の到達点、俺の最期の始まり、その警笛に。
運命が収束しているような気がした。俺はタバールに貰った女神像の木彫りを握りしめる。初めてだ、俺がジャンダルームとして、シャンカールとして生きてきて、初めてだ。こんなにも漠然とした不安を感じたのは。
いつも、目の前には問題があった。解決すべき問題があった。すべて、悩んだ末には俺なりの結論を出せた。でも、今、俺には答えがない。出せる気がしない。結論を、答えを、出すのが……怖い。俺が、俺の答えを口にすれば、世界は動いてしまう、そんな確信があった。
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